はじめに
私はアメリカで数年働いていたのですが、そのころ医療現場以外でマスクをしてる人は皆無でした。マスクをしている一般の人がいたら、周りの人が避けるような状況です。
マスクをしている人=医療関係者
というイメージです。
一方、日本ではかなりの人がマスクをしています。予防のためにマスクをする、ということが文化的になっています。日本では一般の方のマスク信仰はすごいレベルです。でもそれって本当に意味があるのでしょうか?
今回は2つの点に絞って論文を検討してみたいと思います。
1.医療関係者がマスクすることは大事
2.一般の方のマスクの効果ははっきりしない
「医療関係者すらマスクは不要」という方がまれにいます。医療関係者がマスクすることって意味あるの?という事からはじめたいと思います。
目次
医療関係者のマスクは有効
2017年にシステマティック・レビューが出ています(1)。呼吸器疾患やインフルエンザ、SARSに対して医療従事者はサージカルマスクとN95マスクが有効でした。非特異的な呼吸器感染から大幅に保護されている結果になっています。
Clin Infect Dis. 2017 Nov 13;65(11):1934-1942. doi: 10.1093/cid/cix681.
かなりきちんとした雑誌から論文が出ています。メタアナリシスですから大量の論文をもとにマスクの有用性をまとめています。
科学的に医療関係者はマスクをしなくてはいけません。それはパンデミックが予想されるときに医療資源を保護するため必要なのです。
マスクの予防効果
医療関係者はマスクをするべき、という結論です。では一般の方のマスクはどうでしょう?
ずばりいうと、一般の方のマスク単独での予防効果があるという研究結果は現在の所ありません。
2) Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings.
BMJ. 2015 Apr 9;350:h694. doi: 10.1136/bmj.h694.
その他の論文の一部を載せますが、どれもマスクの有意差を証明している論文はありません。
3) Surgical mask to prevent influenza transmission in households: a cluster randomized trial.
PLoS One. 2010 Nov 17;5(11):e13998. doi: 10.1371/journal.pone.0013998.
Am J Infect Control. 2009 Jun;37(5):417-419. doi: 10.1016/j.ajic.2008.11.002. Epub 2009 Feb 12.
5)岡﨑悦子、森山由紀、小林寬伊:サージカルマ スクのインフルエンザ予防効果.
医療関連感染. 2017;10:9-17.
ですので現時点での科学的な結論は、
一般の方はマスク単独で予防効果はない
ということになります。
CDCガイドライン
CDCは感染症対策の総本山みたいなところです。いろいろな日本語訳があるようですが、国立感染症研究所では「米国疾病予防管理センター」と訳しているみたいです(例:米国疾病予防管理センター(CDC)の提唱するインフルエンザウイルスのパンデミックリスクアセスメント)
米国疾病予防管理センターが2017年にインフルエンザのパンデミックに対する新しいガイドラインを作成しました
6) パンデミックインフルエンザ予防のための地域社会伝播軽減ガイドライン, 米国, 2017
Community Mitigation Guidelines to Prevent Pandemic Influenza — United States, 2017 | MMWR
Use of Face Masks in Community Settingsの章がマスクについて書かれています。最初を訳してみます(個人的な訳であることにご注意ください)。
地域社会でのフェイスマスクの使用
フェイスマスク(使い捨て手術用マスク、医療用マスク、または歯科用マスク)は、医療従事者と患者の両方で呼吸器感染を防ぐために医療従事者によって広く使用されています。 また重度や非常に重度、あるいは極度のパンデミックの際に病気の人が着用して、世帯員や地域の人々へのインフルエンザの拡散を防ぐこともできます。
しかし、2009年のH1N1パンデミック中に実施されたいくつかの試験では、フェイスマスクと他のNPI(手指衛生など)の早期併用が効果的であることが判明したものの、地域社会の環境での健康な人によるフェイスマスクの使用を裏付ける証拠はほとんどありません。
つまりCDCでも、一般的な方のマスクの有用性は認められていないと言い切っています。
その上で、CDCは以下の使用方法を推奨しています。
病気の人によるフェイスマスクの使用:CDCは、混雑したコミュニティの設定を回避できない場合、重症、非常に重症、または極度のインフルエンザのパンデミックの発生源対策として、病気の人によるフェイスマスクの使用を推奨する場合があります(例:インフルエンザ症状のある成人および小児が医師の診察を受ける場合)。
または病気の人が他の人と密接に接触しているとき(例えば、症候性の人が他の世帯員と共通のスペースを共有している場合、または症候性の産後の女性が自分の乳児をケアし、看護している場合)いくつかのエビデンスは、病気の人によるフェイスマスクの使用が他の人を感染から守るかもしれないことを示しています。
健康な人によるフェイスマスクの使用:CDCは、特別な高リスクの状況を除いて、インフルエンザパンデミック中の感染を回避する手段として、家庭やその他の地域社会で健康な人によるフェイスマスクの使用を日常的に推奨していません。
重度のパンデミックでは、特にパンデミックワクチンが利用できない場合、混雑した状況を避けることができない場合、妊婦やインフルエンザ合併症のリスクが高い他の人がフェイスマスクを使用することがあります。さらに、自宅で病気の家族の世話をする人(例えば、インフルエンザの症状を示す子供の親)は、医療従事者が医療現場でマスクを着用するのと同様に、患者と密接に接触している場合、感染を避けるためにフェイスマスクを使用する場合があります。
つまり、健康な人においては
・重度のパンデミックで感染者が多数いる
・妊婦や合併症リスクが有る人
・家族内感染者がいる
という条件下でのみCDCはマスクの仕様を推奨する、ということです。
まとめ
再三再四繰り返します。
1.医療関係者がマスクすることは大事
2.一般の方のマスクの効果ははっきりしない
とにかく言いたいことは、これだけです。
いままでさんざんSNSでは「マスク有効説」を唱える方が多数いますが、それは日本における文化みたいなものです。アメリカやヨーロッパでは、マスクをしている人=医療関係者です。
アメリカで風邪引いた時に、掃除のおばちゃんに「風邪引いたならコーラ飲みな」を言われたのを思い出します。アメリカ文化では風邪引くとコーラなんだな、と思いました。
「日本のマスク」は「風邪のコーラ」みたいなものです。いま管理人はSNSでかなりマスク派にいろいろ言われていますが、すみませんが「風邪ならコーラだ!」「コーラで治ったよ、絶対に!」って言われているように聞こえます。
医療関係者に必要なマスクが現在足りません。一般の方が大量に買い占めたことで、医療機関のマスクの在庫が底を付きそうです。
本当に必要な医療関係者にマスクがなくて、全然必要ない人が買い占めて高値で売りさばくのは、非科学的で心が痛みます。
みなさまの理性的な対応を期待します。
参考:
今回のブログ記事には多くの論文以外にも記事などを参考にさせてもらいました。ありがとうございます。
Y’s Letter Vol.4.No.8 Publised online:2018.04.17
忽那賢志 | 感染症専門医 1/23(木) 8:18
9)「マスクすればコロナウイルスを防げる」と思ったら大間違いだ 医師がツッコむ「6つの誤解」 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
文春オンライン 上 昌広 2020/01/30 13:00
ご参考になりましたら幸いです。
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