新型コロナウイルスの「偽情報」は、こうしてネットに蔓延する

新型コロナウイルスの「偽情報」が、インターネット上に溢れている。その起源にまつわる陰謀論、“画期的”な治療法や予防法などの怪しい情報は、なぜ止まらないのか──。そのメカニズムを考察した。

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CHUNG SUNG-JUN/GETTY IMAGES

新型コロナウイルスに関する偽情報が、インターネットに蔓延している。原因不明の肺炎が中国・武漢で集団発生していることを12月末に中国の当局が発表して以来、インターネットには陰謀論や的外れな主張が流布されてきたのだ。それから1カ月あまりが経ったいま、呼吸器疾患である新型コロナウイルスの感染者は右肩上がりで増え続け、数百人規模の死者を出している。

いまや世界保健機関(WHO)や米疾病予防管理センターだけでなく、FacebookやYouTube、Twitter、TikTokなどのプラットフォームを運営するテック企業にとっても重大な関心事だ。人命が切迫した危険に晒されているなか、こうしたプラットフォームはヒステリーや偽情報で満たされている。

これはいまに始まったことではない。陰謀論はおそらく有史以来、災害や疫病のアウトブレイク(集団感染)に付きまとってきた。黒死病(ペスト)が欧州で猛威を振るった1300年代、人々はユダヤ人住民が何らかの動機でキリスト教徒の清潔な井戸にこっそり毒を入れているのだと信じ込んでいた。

それを思えば、新型肺炎は生物兵器であるとの説や、コウモリスープを飲んで感染するという説など、武漢の新型コロナウイルスを巡る陰謀論には、時代を超えた古臭ささえ感じる。陰謀論の例に漏れず、不安をあおり、人種差別的で、明らかに現実とかけ離れた話なのだ。

拡散する「陰謀論」「治療法」の数々

新型コロナウイルスの偽情報は、大きく2つに分類できる。新型肺炎の起源にまつわる陰謀論と、「奇跡的」な治療法に関する偽情報だ。

新型コロナウイルスは動物から人に感染したとみられているが、その正確な起源は明らかになっていない。一部の科学者は、コウモリが媒介生物の役割を果たしたのではないかと考えている。だが、ある陰謀論で言われているように、コウモリスープを飲んで感染するとは考えにくい。

それにもかかわらず、中国のものとされる食習慣がパンデミックの原因になっているとして、ネット上ではその陰謀論が人種的偏見の色を帯びた炎上を引き起こしている。決定的な証拠とされた動画のひとつは、実際には中国ではなく、2016年にパラオで収録された旅行番組を切り取ったものだった。コウモリスープは中国の一般的な食べ物ではない。

ほかにも有名な陰謀論として、新型ウイルスが実は生物兵器であり、何らかの原因で武漢病毒研究所の安全な研究室から漏れ出したのだという説がある。これはイスラエル軍の元情報将校の発言に基づくものだが、支持する証拠はないと本人自身が認めている。

さらに、科学者夫婦の「スパイチーム」がカナダの国立微生物研究所から新型コロナウイルスを盗み出したという説がある。陰謀論者らは、あるウイルス学者が「方針違反」で停職処分を受けたという報道を引き合いに出すが、その学者が中国人スパイであったことや、ウイルスを中国に違法に送ったという言及は報道になかった。

また多くの人々が、クロロックスやライゾールなどのコロナウイルスの消毒効果を謳った洗浄製品や、コロナウイルス用ワクチンの特許など、さまざまな疑わしい証拠に基づいて新型肺炎が以前から存在していた疫病であると主張し、新型ウイルスが何らかの隠蔽か陰謀の産物であると考えていた。

いずれの陰謀論者も、「コロナウイルス」が単一の病気ではなく、複数のウイルスを含む分類であることを見落としているか、あるいは理解していなかった。いま世界に蔓延しているコロナウイルスは「2019-nCoV」と呼ばれ、残念なことに既存のワクチンやライゾール製品では治療不可能である。

陰謀論が広まる「絶好の条件」

もちろん、新型肺炎の起源にこだわる人ばかりではない。ほかにも新型コロナウイルスの治療法や予防法について、信憑性に乏しい、あるいは危険な偽情報が数多く広まっている。

平凡だがウイルス対策としては突飛なアドヴァイス(辛い食事や冷たい料理を避けるなど)から、ネット掲示板「4chan」に書き込まれる類の恐ろしい提案(漂白剤を飲むなど)まで、偽情報の種類はさまざまだ。いまのところ、WHOが推奨している新型コロナウイルスへの感染予防法は、畜産物を消費する前に徹底的に加熱調理すること、衛生状態を良好に保つこと、病気にかかっていそうな人から1m以上離れることくらいである。

「2019-nCoV」は新しいウイルスだが、それを取り巻く陰謀論や偽情報に見られる性質は、昔からのものと変わっていない。「今回も、新しい疫病や災害が発生するたびに繰り返し見られてきたパターンに当てはまります」と、米国における陰謀論をまとめた『American Conspiracy Theories』の著者、ジョセフ・ウシンスキーは語る。危機が発生すると感情の高まりと情報不足が相まって、「大衆の恐怖心」という陰謀論が広まるには絶好の条件が整う。

理解不能なリスクほど大きな恐怖に

陰謀論は、人々が渇望しながらも、事実に基づく通常の手段では手に入らない「答え」と「説明」を与えてくれる。新型コロナウイルスに乗じたフィッシング詐欺ですらそうだ。

「こうした災害やエピデミックの局面では、陰謀論はまたたく間にセンセーショナルで深刻なものに発展します」と、災害に関連する精神衛生やコミュニケーションを研究するブライアン・ヒューストンは語る。「陰謀論がこれほど広まりやすいのは、いまそこで起きている出来事だからです。人を殺すのですから」

しかも、クルマやサメとは殺し方が違う。コロナウイルスの恐ろしさは、科学的にもこれらを上回っているのだ。

「科学文献によると、目に見えないリスクや新しくて理解不能なリスクほど、大きな恐怖を与える傾向があります」と、ヒューストンは言う。新型コロナウイルスをよく言い表しているのではないだろうか。

「インターネットのせい」ではない

新型コロナウイルスの恐ろしさに加え、その陰謀論の温床となっているインターネットには、疑わしい情報に対処する仕組みが十分に整備されていない。「インターネットは悪だ」などという野暮な批判をするつもりはない。公衆衛生上の危機に見舞われた人々が悪質な情報を受け取る光景は、おそらくそうした危機が初めて起きたときから続いてきたのだ。

そうした情報が蔓延している原因がインターネットであるとは限らない。それどころか、ほかより正確な情報を提供できる手段であるインターネットは、一縷の望みですらある。

「こうした陰謀論はインターネットのせいにされがちですが、噂というのはインターネットが出現する前から広まりやすいものでした」と、ウシンスキーは言う。「陰謀論が瞬時にネットを駆け巡ることができても、見た人がそれを信じるとは限りません」

だが、ウェブが完全に無害な存在であるかと言えば、そうでもない。オンライン上の政治的コンテクストは、新型肺炎に対する世間の反応に明らかに影響を与えた。

インターネット上の米国人を中心とする界隈では、利用者が長年にわたり外国人への排外主義やグローバリズムへの恐怖をあおってきたほか、対中関税問題が長引くなかで特定の反中感情が高まっている。事態の展開について中国政府の透明性が限られていることや、同国内のインターネットの大部分がファイアーウォールや言語の壁によって世界から孤立していることは、有害情報の拡散を止める助けにはならない。

したがって、新型コロナウイルスを巡る陰謀論は、「微博」や「WeChat」といった中国のプラットフォームにもともと投稿された無関係の動画や、故意・偶然を問わず誤った解釈によるものが大部分を占める。おそらく米国人の多くが訪れることもなければ、見ても理解できないサイトだ。

テック企業は対策に乗り出したが…

新型コロナウイルスに関する偽情報が広まるなか、テック企業は事実に目を向けてもらおうと躍起になっている。

フェイスブックは、新型ウイルスに関する偽情報を広めるコンテンツを削除することを約束した。ツイッターは、陰謀論を流布しているとして「Zero Hedge」をはじめとする組織のアカウントを永久凍結したほか、信頼性の高い情報を検索に優先表示する新機能を感染国でリリースしている。報道によると、TikTokの運営会社であるバイトダンスも偽情報の削除に取り組んでおり、新型コロナウイルスに関するコンテンツを検索する際はWHOの情報と照らし合わせて検証することを利用者に促している。

こうした対策にもかかわらず、「答え」を求める人々の欲求を満たすには不十分かもしれない。「偽情報は完全に構造化した状態で世に出ます」とヒューストンは言う。「事実は徐々にしか伝わりません」

いま新型コロナウイルスは、世界的なパンデミックに発展しうるほどのアウトブレイクが発生した状況にある。こうした状況下において「立ち止まって考える」という助言が情報として唯一の価値がありながらも、誰も欲していないことが問題なのだ。

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米国で求人情報の変化を分析したら、自動化による「求められる仕事の変化」が見えてきた

米国の求人広告が、ここ数年で変化している。自動化の進展によって中賃金職の一部が消滅したり、新たな職が生まれたりしているのだ。こうした変化は悲観すべきものではないが、一方で人々が自然に順応できるものでもない。教育プログラムの見直しや、必要なスキルの見極めといったサポートが求められている。

TEXT BY SARA HARRISON
TRANSLATION BY MINORI YAGURA/GALILEO

WIRED(US)

factory

TOBIAS SCHWARZ/REUTERS/AFLO

IBMのチーフエコノミストのマーティン・フレミングは、ロボットが人間の仕事を奪いにくるとは考えていない。彼いわく、そうした懸念はデータによって裏付けられていないからだ。「ナンセンスです」と、フレミングは言う。

マサチューセッツ工科大学(MIT)とIBMによる研究機関MIT–IBM Watson AIラボがこのほど発表した報告書によると、おそらくほとんどの人にとっての自動化革命とは、物理的なロボットが人間の労働者にとって代わることではないという。

人間にとって代わるのは、アルゴリズムだ。とはいえ、わたしたち全員が仕事を失うわけではなく、人工知能(AI)と機械学習により仕事が変化するのだという。

米国では中賃金職の求人が減少中

フレミングらの研究チームは、労働市場分析会社のバーニング・グラス・テクノロジーズが収集した2010~17年における米国のオンライン求人情報1億7,000万件を分析した。その結果、平均的に言えば、スケジューリングや資格認証といった「AIに遂行可能な仕事」は、近年になるほど求人情報で目にする頻度が減っていた。

一方、最近の求人情報には、創造性や常識、判断力のような「ソフトスキル」に関する要件が増えており、職が再分類されたのだとフレミングは考えている。自動化されやすい仕事をAIが引き継ぎ、労働者は「機械にはできないこと」を担うことが求められつつあるのだ。

例えば、販売業務に就いている場合、商品の理想的な価格を考える時間は減るだろう。利益を最大化する最適価格をアルゴリズムが判断できるからだ。代わりに、顧客管理や魅力的なマーケティング素材の作成、ウェブサイトのデザインに費やす時間が増えるかもしれない。

今回の分析では、米国の求人情報を給与別に3グループに分けてから、それぞれの仕事がどう評価されているかを検証した。その結果、仕事で何が重視されるかが変わり始めている可能性があることが判明している。

例えば、米国ではデザインスキルは特に需要が高く、どの賃金グループでも最も増加していた。一般に低賃金のパーソナルケアやサーヴィス業でも、プレゼンテーションデザインやデジタルデザインのようなデザイン業務を含んだ仕事に対する報酬は、調査期間中に平均12,000ドル(約130万円)増加していた(インフレ調整済)。

さらに、ビジネスおよび金融分野の高所得者(AIがまだ太刀打ちできないくらい業界での経験が豊富な人たち)にも同様な現象があり、賃金が年6,000ドル(約65万円)以上のペースで上昇していた。

ホームヘルスケアやヘアスタイリング、フィットネストレーナーのような一部の低賃金職は、自動化が難しいスキルなのでAIの影響を受けにくい。一方で、中所得者は圧迫を感じ始めている。中所得者の賃金はまだ上昇してはいるが、職務内容の変化を考慮して調整すると、低賃金職や高賃金職ほど速いペースでは増加していなかったと報告書には書かれている。

また、製造・生産のような一部の業界では賃金が下がっていた。さらに、中賃金職の数も減っている。単純化されて低賃金職にとって代わられたり、もっとスキルが求められて高賃金に変化したりしようとしているからだ。

労働者は自然に順応するわけではない

フレミングは、AIツールが仕事や労働者に与える影響を楽観的にみている。自動化によって工場の効率が上がった過去と同様に、AIは、ホワイトカラーの労働者がもっと生産的になるうえで役立つだろう。そして、ホワイトカラーの労働者が生産的であればあるほど、企業にもたらす付加価値が高くなる。そうした企業の業績がよくなれば、そのぶん賃金も上がる。

「一部の仕事はなくなるでしょう。しかし、全体的に見れば、米国でも世界中でもより多くの仕事が生み出されるでしょう」。中賃金職の一部は消滅しつつあるが、物流やヘルスケアのような業界で出現しつつある職種もある、とフレミングは言う。

AIがより多くの仕事を奪い始め、中賃金職が変化し始めるなかでは、そういった中賃金職に求められるスキルも変化せざるを得ない。

ブルッキングス研究所の「中流階級イニシアチヴの将来(Future of the Middle Class Initiative)」担当ディレクターを務めるリチャード・リーヴスは、次のように語る。「楽観視するのは理にかなっていると思います。とはいえ、無頓着であるべきだとは思いません。放っておいても大丈夫というわけにはいかないでしょう」

報告書によると、こうした変化が起きるペースは比較的ゆっくりしたもので、労働者には変化に順応する時間があるという。だがリーヴスは、こうした変化はいまは漸進的に思えるかもしれないが、かつてよりも速く起きていると指摘する。

AIは1950年代から大学の研究プロジェクトで扱われ、それ以後もずっとニッチなコンセプトだった。だが2012年になって、ニューラルネットワークで音声や画像の認識がもっと正確になる可能性があることがわかった。いまではAIがメールの自動作成や監視カメラの映像分析、判決の決定などに利用されているケースもある。今回の報告書作成でも、IBMとMITの研究者たちはデータの分類にAIを利用した。

急速に進むAIの導入で、労働者は自分の仕事が変化していく様子を目の当たりにしている。人々がかつて存在していた仕事からいまある仕事へと順応できるよう、手助けをする方法が必要だ。

「わたしたちの楽観主義は、わたしたちが行動を起こすこと、そして技能再教育が行われるという約束が守られることを前提としています」とリーヴスは言う。「わたしたちは経済のあり方を変えつつありますが、訓練・教育プログラムの見直しについてはまだ実践できていません」

教育プログラムの見直しや必要なスキルの把握を

リーヴスは、新しいスキルを学ぶ必要がある労働者向けの見習い制度や「リターンシップ」がもっと増えればと考えている。成人学習者を対象とする奨学金や学習プログラムを、大学が増やすのもいいだろう。

あるいは、資格認定制度を変更して、学校間の単位移行をしやすくしたり、就業経験を単位として認めたりすることも考えられる。そうすれば、労働者は異なる教育機関やタイミングで少しずつ授業を受け、そのうちにそれらの単位を合わせて資格証明書や卒業証書を取得できる。

こうしたことは、教育コストの削減に役立つ。また、学生が大学を中退してしばらく働いてから、新しいスキルや異なるスキルを身につけたくなったとき、あるいは学位を取得したくなったときに復学することも可能になるだろう。

雇用主が仕事に必要なスキルを理解しているかという問題もある。今回の報告書では、求人情報を利用して職務や仕事の変化を評価しているが、こうした求人情報が常に仕事に必要なスキルを示しているとは限らない。

AIと仕事について研究しているData & Society Research研究員のマドレーヌ・クレア・エリッシュは、次のように語る。「求人情報からは、企業やチームが必要と考えているスキルがよくわかります。でも、それらは実際に必要なスキルとは異なります」

エリッシュは、駅の自動改札機のそばで働く者の例を挙げた。求人情報には、改札を通る人々の手助けや、駅の管理に関連した職務が含まれているかもしれない。だが実際の業務には、故障時の修理や、正常に動作しないときに怒る顧客をなだめることなども含まれる場合が多い。

報告書の結論は、マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)パートナーシップ・オン・AIによる研究結果とも一致している。

ブルッキングス研究所のリーヴスから見ると今回の調査結果は、仕事に必要なスキルや報酬、労働者の満足度という側面から、未来の仕事のあり方を浮き彫りにするものだ。AIによって生産性と収入は向上するかもしれないが、金銭では測れないほかの影響もあるかもしれない。

「真の問題は、職場で人々が活躍するうえで機械が役立つかどうかだと思います」とリーヴスは語る。慎重な姿勢を保ちながらも、リーブスは楽観視している。AIは最終的に、もっと充実して楽しめる仕事を生み出すうえで役立つ可能性があるというのだ。

しかし、そのためには人々がそのような未来を目指して積極的に努力しなければならない。市場のもつ魔法の力によって、自然にそうした未来が実現するわけではないのだ。

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