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【社説】

中国の肺炎対応 習「一強」の弊害露呈

 中国での新型肺炎による死者数が重症急性呼吸器症候群(SARS)の犠牲者を超えた。習近平指導部は初めて対応の不備を認めた。何よりも住民の命を守ることを最優先に対策を進めてほしい。

 新型コロナウイルスによる中国本土での死者は五日、四百九十人となり、SARSによる死者三百四十九人を大幅に上回った。

 共産党指導部は初動以降の対応や情報公開に遅れや不備があったことを認めた。習国家主席は「人民の生命と健康を最優先に置く、感染阻止の総力戦」を指示した。

 気がかりなのは、「一強」の習体制の下で共産党独裁がさらに強まり、地方幹部が中央の顔色ばかりうかがって、対策が遅れる負の側面が目立つことである。

 地方幹部が保身のため悪い情報を隠蔽(いんぺい)し、中央からの指示を待つだけの硬直した対応で、生死を左右する危険にさらされるのは住民であることを忘れてはならない。

 武漢市では、支援物資の放置や不公平な配布などが次々と明らかになった。感染者が千人を超える黄岡市では防疫責任を果たしていないとして衛生担当者ら三百三十七人が処分された。市民らが怒るのは当然である。

 一方、武漢市長は一月末、テレビの取材に「地方政府は情報を得ても、権限が与えられなければ発表できない」と答えた。昨年十二月初旬には新型肺炎の発生を知りながら情報公開しなかった対応について、政権を批判した形だ。

 確かに、過度な中央集権の弊害は大きい。だが、越権と非難されようとも、住民の命を守る情報公開や対策を優先させるのが、市長としての重責を果たす姿勢ではなかったか。市長の発言は市民向けの自己弁護の面も強い。

 武漢市の赤十字組織は、国内外から寄付されたマスクなどを倉庫に放置し、関係の深い病院だけに多く配布していた。地元政府関係者は「指導者用だ」と言って勝手にマスクを持ち去ったという。

 多くの医療関係者が不眠不休で治療や感染防止に尽力しており、その献身的な努力には頭が下がる。その一方、こうした特権行使やあしき「人治」を見聞するのは悲しむべきことである。

 春節(旧正月)休暇明け後も、中国内の多くの企業は感染防止のため操業停止を続けている。市民生活もさらに不便を強いられる。感染力が急に高まる可能性は否定できない。中国当局は総力で肺炎との戦いにのぞんでほしい。

 

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