天才・藤井聡太七段(17) B級2組昇級決定! 史上最年少20歳名人誕生の可能性もキープ

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 2月4日。大阪・関西将棋会館においてC級1組順位戦9回戦▲藤井聡太七段(17歳)-△高野秀行六段戦がおこなわれました。10時に始まった対局は22時6分に終局。結果は99手で藤井七段の勝ちとなりました。

 藤井七段はこれでC級1組9連勝。他の1敗勢より順位上位のため、最終戦の結果にかかわらずリーグ成績1位が確定し、B級2組昇級が決まりました。

 敗れた高野六段は6勝3敗となりました。

 藤井七段はこれで順位戦3期目でC級1組からB級2組への昇級。大変なスピードで出世を続けています。

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 加藤一二三九段が持つ史上最年少でのA級昇級(18歳3か月)、名人挑戦記録(20歳3か月)を破ることはすでに不可能です。しかし谷川浩司九段の史上最年少の名人獲得記録(21歳2ヶ月)の更新の可能性は、依然残されています。

藤井七段、因縁の展開を制して昇級

 戦型は角換わり腰掛銀。桂を跳ねて先攻したのは、先手番の藤井七段でした。

 途中までの進行は今からほぼ1年前の2018年2月5日、▲藤井七段-△近藤誠也五段(現六段)戦と同じ。結果は近藤六段が勝ち、最終的に近藤五段がB級2組昇級、および六段昇段を決めています。藤井七段にとってはそれがデビュー以来、順位戦での唯一の敗戦です。因縁ある展開と言えるかもしれません。

 その点について、藤井七段はどう思っていたのか。

藤井「角換わりで定跡の一つという形なので、特に意識するということはなかったです」

 相変わらずのクールさです。

 その後、高野六段の選択によって▲藤井-△近藤戦からはわかれを告げました。さらに藤井七段が前例と違う手を指して、以下は未知の進行となりました。

 藤井七段は▲6六歩と、自陣にじっと歩を打って、相手からの攻めに備えます。これが高野六段の意表をつきました。

 高野六段は攻めの桂を相手の守りの銀と交換し、銀桂交換の駒得という大きな成果をあげます。その点だけを見れば成功のようです。

藤井「中盤▲6六歩と打った手がどうだったかと・・・。その後、銀桂交換になって、少し自信がない展開かと思っていたんですけど」

 一方で高野六段はこの▲6六歩が印象に残ったそうです。

高野「あれはまったく、私には考えてなかった手で、びっくりしたですね」

 藤井七段はそう振り返っています。しかしそれで高野六段がよくなったといえば、そうとも言えません。

 高野六段は藤井玉の上部に歩を突き出して、攻めを継続します。一手一手を見れば、どれも自然な指し回しです。しかしそれでいて、形勢は藤井七段に傾いていきます。

高野「用意してきたことができたことはできたんで、まずまずかなと思ったんですけど、どこか大局観が・・・。夕休前に銀ぶつけられて、ちょっと厳しいかなと。ちょっと調べないとわからないですけど」

 藤井七段は手にした桂を打って、反撃に出ました。藤井七段もまた自然に指し、それではっきり、藤井七段が優位に立っています。

藤井「玉の遠さをいかして反撃する展開になって、少し指しやすくなったかもしれません」

 相手が席をはずしていなくなると、いろいろとつぶやきが出るのが高野流です。

「そっかあ・・・」

「いやあ・・・」

 少し苦しくなった局面で、藤井七段がいない時に、そんな声が聞かれました。

 このままいつものように、藤井七段の快勝で終わるのか。そう思われたところで高野六段は辛抱を続けます。そして一瞬の余裕を得て、藤井陣に反撃の歩を打ちました。これがなかなかの迫り方で、藤井七段を簡単に楽にはさせません。藤井七段は時間を使って、先に残り1時間を切りました

 藤井七段は角得の局面から、桂を成り捨てて一気に迫る順を選びました。高野陣の備えがもっとも堅い真正面から押し入った感じです。藤井七段の意図は、すぐにはわかりません。一気に高野陣を攻略するのは難しそうだからです。

 藤井七段の真意は高野陣に角を打ち込むスペースを作って、高野六段が打った歩を払いながら、手厚く自陣に成り返って、馬を作ることにありました。「馬は金銀3枚」という格言通り、この馬が攻防にきいて大局を制そうとしています。

 依然駒損の高野六段は、さらなる駒損をいとわず、藤井陣にラッシュをかけます。これも「終盤は駒の損得よりも速度」の格言通りで、大変な迫力です。

 藤井七段は馬を切って、桂を取りました。駒割は互角に戻ります。しかし形勢はそこではっきりと、藤井七段が勝勢に立つことになりました。

 最後はまだもう少し指せそうという局面で、非勢をはっきり認識していた高野六段は、潔く駒を投じました。

 藤井七段はこれで9連勝。最終戦を待たずして、文句なしの昇級を決めました。

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藤井「前期は上がることができなかったので、今期で上がることができてよかったなと思います」

藤井「もちろんこれまで昇級を目指して戦ってきたんですけど、本局については昇級のかかった一番ではありますけど、普段通り指そうと思っていました」

 前期ははからずも師匠の杉本昌隆八段と昇級を争うことになり、同成績で順位上位の杉本八段が昇級しました。来期B級2組では、再び師匠と同じクラスで戦うことになります。

藤井「師匠には前期、先に昇級されてしまいましたので、また追いつけてよかったなとゆうふうに思いますし、来期も昇級を目指して戦いたいなと思います」

【追記】C級1組の時と同様に、師弟の直接対決はありません。

 またB級2組では、史上最年少名人記録を持つ谷川浩司九段(57)も来期は同じクラスとなります。抽選で藤井七段との対戦が組まれれば、将棋史上においても意義深いカードとなるでしょう。

 また来期からはB級2組からB級1組への昇級枠は2人から3人へと増えます。これも藤井七段にとっては有利にはたらく可能性はありそうです。

 順位戦制度の頂点に立つのは、同時代にただ一人しか存在しない名人です。トップ10のA級まで昇級し、そこを勝ち抜いて初めて名人挑戦権を得ることができます。

 過去には加藤一二三九段、中原誠16世名人、谷川浩司九段が順位戦参加6期目のA級で名人挑戦権を獲得し、7期目に名人戦七番勝負に登場しています。藤井七段は現状、この3者と同じペースで駆け上がっていける可能性を残しています。

 藤井七段は2023年の名人戦七番勝負に登場できるでしょうか。そしてその時、名人位に就いているのは誰でしょうか。

 高野六段は終局後、藤井七段との対局について、次のように述べていました。

高野「めったにないチャンスなので、非常に楽しみにしてたんですけれども、ちょっと途中から差がついちゃったのが残念です」「残念ですけれども、一生懸命できたと思います」

 2017年、藤井四段(当時)がデビュー以来無敗で連戦連勝を重ねる中、高野六段が「ジェット機」にたとえたことがありました。

 実際に指してみて、高野六段はどう思ったか。

高野「それは色褪せることなく、より素晴らしいものになっているのは、成績を見ていただいても間違いないことでしょうし。私にとってもこの後、対局できるかどうかわからないチャンスだと思うので、非常に楽しみにしてたんですけれども。いい機会だったなと思います」

 藤井七段は「ジェット機」と喩えられたことについて、どう思ったか。

藤井「そう評価していただけることは嬉しいんですけれども、やはり、これからさらに強くなる必要があるのかなというふうに思っています」

 藤井七段は11日、朝日杯3連覇をかけての戦いが待っています。

藤井「次の対局も朝日杯ということで、公開対局でもありますので、いい将棋をお見せできるようにがんばりたいなと思っています」

 藤井七段の今年度成績は41勝10敗(勝率0.804)でランキングトップ。3年連続の勝率1位、8割超えも期待されます。

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