「『しょうばい』ってどんな字を書くか分かるか? 笑って売る、『笑売』だよ。俺はお客様なんだよ。おたくは商売をしてるんだろう。だったら、こっちが笑顔になるような対応をしないといかんよな」
国内のある製造業の男性は、クレーム対応に追われた高齢客D氏のことが忘れられない。事の発端は不良品。お客様相談室にかかってきた電話口の声は、多少乱暴な言葉遣いではあったが、確かにその説明からは欠陥商品の可能性が疑われた。会社側は新品の交換を申し出たが、D氏は自宅までわび状を持ってくるよう要求して譲らなかった。
ここまでの展開なら、よくあるクレームとも言える。対応したこの製造業の男性自身にも似たような経験がある。しかしながら、これまでの経験との違いにぞっとしたのは、D氏の自宅を訪れ、応接室に案内されたとき。壁には、数十通を超える「わび状」がまるで表彰状のように飾られていたのだ。
自宅などを見る限り、“謝罪文コレクター”のD氏は、経済的にはそれなりに裕福であることが見て取れた。「多分、他にやることがなく暇で、人を謝らせることが趣味になっているのではないか」。そう感じたという。その後、冒頭の小言をたっぷり述べたD氏は満足げに男性を見送った。
“再デビュー”を断念したシニアの進む道
にわかに信じがたいエピソードだが、『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』(ダイヤモンド社)の著者である援川聡氏は「あり得ぬケースではない」と話す。
「趣味や再就職などを通じて“再デビュー”ができなかったシニアが、疎外感や孤独感を紛らわせようと、自己確認のためにクレーマーになるケースはもはや珍しくない。とりわけ現役時代に高い役職や地位にあった人にその傾向が強いように思う」。援川氏はこう続ける。実際、援川氏の元には、「毎日のように決まった時間に、お気に入りの若い女性担当者を指名してコールセンターに電話をかけてくる人」など、様々な高齢の客に手を焼く企業からの相談が相次いでいる。
その中には、シニア層としては比較的若めの人によるネットクレームも含まれる。
企業の商品やサービスのほんのささいな瑕疵(かし)を見つけては、問い合わせメールを繰り返す。この手のタイプには、先ほどの“謝罪文コレクター”のように何か補償を強く求めるのでなく、メールを出すこと自体に快感を覚えたり、生きがいに感じたりしている人も少なくないと言われる。
難癖や因縁のようなクレームでは企業は相手にしてくれないから、メールを出す前には、商品や取扱説明書を徹底的に分析し、重箱の隅を全力でつついたうえで、理論武装する必要がある。本人にしてみれば、ちょうど老後の暇を埋める“やりがいのある作業”とも言える、というわけだ。
コメント16件
codeblueline
>「毎日のように決まった時間に、お気に入りの若い女性担当者を指名してコールセンターに電話をかけてくる人」
↑一次対応レベルで担当制を認めていること自体、企業の不手際だと思うけどね。成約間際とかでもなければ、同じ担当者に繋ぐことは出来ませんと
やっとくべきで、そうしないとそこの社員が守れませんね。
...続きを読む街のクリーン化老人とか、イーインスペースの正義マンとか、本質は、昔の安部公房の小説に出てきた「ほうき隊」じゃないか。ただヒマなだけではないんですよ。そこに、社会から自分たちは見捨てられているという「棄民」意識があるんですよ。『方舟さくら丸』の中だと、深夜に集団で静かに軍歌を歌いながら街の清掃活動を行っていたのが、過去に学生運動やったり消費活動にどっぷり浸かってる現代の老人だと、ここまで派手に暴れるようになりましたと・・。
そういう、社会から見捨てられた老人をどうするか問題と、そういうクレーマー老人に手を焼いてる企業や社会側の対応はあくまで別に考えて、後者においては、とにかく毅然と対応すべきだとワタシは思いますけどね。
Rollei40S
無駄飯くい
その無駄な時間とエネルギーをボランティア活動に投じてくれたらご自身も周囲もハッピーになれそうなのになぁ。。。。。
holmes
歳をとると体も心も頑固になるんだなと、まわりの年寄りを見て思っていた。自分がその年齢になった今、大いに実感しているが、問題になっている人たちは自分を客観視できないのだろう。部下を牽引し、それなりの功績をあげてきた筈なのに忘れちゃったのかな。
もう無理をして社会と関わりを持つ必要もないのだから、理想的に引きこもって自分の世界を謳歌すれば良いのではないか。今まで、滅私奉公だったから素直な自分を見つけられないとしたら、ちょっと寂しい。金と暇があっても、欲はなくならないのだろうな。...続きを読むなまけどん
高齢クレーマーが改心することは決してなく、高齢化の進行に伴ってさらに増加するだろう。
ガス抜きの仕組みを作ればよいのでは?
・国や自治体が「消費生活相談窓口」のようなものを設ける。
・CM・広告などで高齢者がその窓口へクレームを寄せること
のイメージアップを図り、率先して受け付ける。
...続きを読む・百件クレームを申告するごとに感謝状を送付する。
例えばこんなことをやると、いま高齢者クレームに苦しんでいる民間部門が少しは解放されるのでは?
Andy 1st
社会の問題を吸い上げ、政治に吸い上げる仕組みが劣化したことにも原因があるのではないでしょうか。昔は地域の名家だったり商店街会長だったりという街のボス的な人がいて、自治会や市町村会議員、代議士までつながっていたりして、限られた範囲とはいえ、声
が吸い上げられていたと思います。正規労働者が多く、組合が機能していた所もそんな機能があったかもしれない。そういったものが崩壊し、声の持って行き所がなくなっているので、企業などの窓口などの身近な苦情を言える所に、はけ口が行ってるのではないでしょうか。選挙権があっても、ということですかね。圧力団体に頼らず地道に声を集めて政治力にする仕組みを野党が作れれば、変われるかもしれませんが、その様子が見えないし。...続きを読むもしかしたら、企業の窓口は製品の情報をもらったことに対する感謝の言葉とともに、他にも社会的な改善意見もあるだろうからこういったクレーマーに地域の政治家の事務所を紹介して意見を言ってもらうといいのかもしれません。「お客様のご意見は私どもの製品を良くしていくために大変参考になりました。ありがとうございます。お客様のような方でしたら、地域の社会や生活の向上にも大変有益なご意見をお持ちだと思います。お客様のお住まいの近くにそういったご意見を受けている場所がありますので、今回のご意見に対するご礼状とともにご案内をお送りいたしますので、よろしくお願いします。」とかね。
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