米上院の弾劾裁判でトランプ氏の無罪が確定した(2月5日、ワシントン)=ロイター
【ワシントン=中村亮】トランプ米大統領の罷免を争った議会上院の弾劾裁判は5日、「権力乱用」と「議会妨害」のそれぞれの弾劾条項について無罪評決を下した。与党・共和党の大半が無罪を主張し、有罪支持は大統領罷免に必要な上院(定数100)の3分の2を大きく下回った。トランプ氏のウクライナ疑惑は議会で無罪が確定したが、罷免をめぐる米世論は保守派とリベラル派で二分し、社会の分断が鮮明になった。
権力乱用をめぐっては有罪支持が48票、無罪支持が52票だった。上院で53議席を握る共和党からミット・ロムニー議員が造反し有罪票を投じた。民主党は全議員47人(無所属含む)が有罪を支持した。議会妨害については共和党から造反が出ず、有罪支持が47票、無罪支持が53票だった。
トランプ氏の選挙陣営は5日の声明で「トランプ氏の完全潔白が証明された」と無罪評決を歓迎した。「何もしない民主党議員は(11月の大統領選で)トランプ氏を倒せないと知っているから弾劾訴追をした」と断じ、民主党の疑惑追及を強く批判した。
下院は2019年12月、ウクライナ外交を悪用して大統領再選を果たそうとした「権力乱用」に加え、議会の弾劾調査を妨げた「議会妨害」を理由にトランプ氏を弾劾訴追した。弾劾裁判は1月中旬に開廷し、陪審員役の上院議員がそれぞれの条項が大統領罷免に値するか精査してきた。
裁判では新たな証人の招致が見送られた。ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)は自著で、トランプ氏がウクライナ向けの軍事支援の見返りに11月の大統領選の民主党候補の一人であるバイデン前副大統領の不正疑惑に関する調査を同国に求めたと暴露すると報じられ、有力な証人との声が強まった。だが共和党はトランプ氏の不正疑惑が深まる事態を回避するためボルトン氏の招致を阻止した。
米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の各種世論調査の集計によると、トランプ氏の罷免に賛成するとの回答は5日時点で47.8%となり、反対(48.1%)と拮抗した。支持政党で罷免の賛否が大きく分かれていることを示す世論調査が目立つ。トランプ政権下で進んだ米社会の分断が弾劾裁判でも鮮明になっている。
民主党は裁判で証人招致が実現しなかったことを踏まえ、ウクライナ疑惑の追及を続ける可能性がある。民主党内には同党が多数派の下院でボルトン氏に証言を求める案が取り立たされている。