[香港 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 新型コロナウイルスによる肺炎の拡大によって、中国は初めて景気後退(リセッション)に似た状況を体験するのではないか。隔離措置で人やモノの流れがほぼ途絶しているため消費が抑え込まれ、全産業が深刻な痛手を受ける恐れがある。公式の国内総生産(GDP)成長率はプラス圏を維持するだろうが、「普通の景気循環」をまったく知らない世代にとって、この経済の冷え込みは現実のシミュレーションになるかもしれない。
中国はこれまで、重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行や世界金融危機など、幾つもの緊急事態を乗り切ってきた。この2つのケースでは、いずれも政府主導の投資を駆使し、マイナスの影響を脱却することができた。
ただ新型肺炎の問題に直面している今の中国は、経済がより成熟化し、借金も増え、その分だけ足場が脆弱になっている。GDPの大半を占めるのは輸出ではなく消費となっており、インフラ投資の収益率も当然ながら低下した。中国を代表する企業が属するセクターは国内向け電子商取引で、それを運営するのはアリババ(BABA.N)(9988.HK)やテンセント(騰訊控股)(0700.HK)といった大手IT勢だ。
消費は、特に人の往来や物流が全て滞っている局面では、緩和的な政策でてこ入れするのは難しくなる。UBSのエコノミスト、ワン・タオ氏は、今年の中国の個人消費伸び率見通しを6.8%から5%に下方修正し、ある中国の政府エコノミストは足元の危機によって第1・四半期の成長率が1%ポイント押し下げられて5%かそれより低くなると予想した。
これは楽観的なシナリオともいえる。保健当局が感染拡大を沈静化させるには何カ月もかかっておかしくない。ワクチンの発見と配布となれば、1年かもっと長い期間を要する。一方、中国の雇用の8割を創出している民間セクターは動きが取れない状態だ。人気のレストランチェーン「Xibei(西貝)」の経営者は地元メディアに、400店は休業していて、3カ月分しか資金繰りのめどがないと述べ、税減免や賃金支払いの補助金支給を政府に要望している。
レイオフが今後の大きなリスクの1つだとすれば、別の1つは直接、間接の両面で経済活動の2割を占める不動産セクターだ。新型肺炎によって取引が止まり、ディベロッパーは多額の債務の返済が困難になりつつある。また地方政府は、減税に伴う歳入減を穴埋めするためにディベロッパーに土地を売り、発行した債券の償還をしなければならない。もし不動産市場に買い手が戻ってこないと、その後に起きる関係者の資金繰り問題が経済危機を助長してしまう。
SARS危機がもたらした経済的な悪影響は短期間にとどまっただけでなく、当時は貿易戦争も、GDPの154%に上る企業債務もなかった。新型コロナウイルスがたとえ迅速に抑制されたとしても、このウイルスは中国に、痛みのある、ただ、ひょっとしたら今後の教訓になるかもしれない経済的な体験を与えることになるだろう。
●背景となるニュース
*中国国家統計局が3日発表した2019年の工業部門企業利益は、前年比3.3%減少した。年間ベースで減少したのは2015年以来。このデータ集計は、新型コロナウイルスによる肺炎流行の発生を反映していない。
*中国政府のエコノミストは1月29日、新型肺炎拡大の影響で、今年1-3月の成長率が1%ポイント押し下げられ、5%かそれより低くなる可能性があるとの見方を示した。
*新型コロナウイルス・肺炎関連ヘッドライン一覧
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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