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湾岸戦争が始まる1990年の春に、ルトワックは米空軍の参謀本部に外部スタッフの一員としてペンタゴンから契約を取ってきて働いていた。そこでの任務は、エアパワーを再生のための理論研究で、職場には「5リング・モデル」で有名なジョン・ワーデンや、同じく依託を受けたバリー・ワッツもいたらしい。
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ところがプロジェクトに参加している最中の8月に、サダム・フセイン率いるイラク軍がクウェート侵攻。状況は一気に変わり、イラク領内のターゲットの選定へと任務が移ったという。そこで参謀本部の爆撃計画チームに入ったが、CIAやDIAに聞いても、イラク内の標的に関してロクな情報が出てこない。
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例えば優秀であるはずのアメリカ(とイギリス)の諜報機関も、米空軍が爆撃しようとしているイラク軍の航空基地の戦闘機を格納しているコンクリート製のシェルターの厚さまでは詳しくは知らないようで「強化コンクリートだからミサイルでは破壊できない」とするイラク側の発表をそのまま信じている様子。
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すると米空軍の参謀本部の中には「破壊するためには戦術核を使うしかないな」という物騒な意見も出てきたとか。ところが納得行かなかったルトワックはペンタゴンと別の契約を取って、今度はヨーロッパまで現地調査に行くことを決心。まず調べたのは、国際的な建築関係の雑誌。
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するとそこにはイラクの空軍施設の建築を請け負ったとして自社の業績を宣伝している、あるユーゴスラビアの建設会社の記述があった。ウィーンで連絡を待っていると、社長が会ってくれるというのでサラエボまで足を運んで話を聞きに行ったという。
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ただし社長はそのような機密情報的なことを外国人であるルトワックにペラペラと教えてくれるはずもないので、サラエボ周辺の人間の文化を徹底的にリサーチ。するとサラエボ近辺の人は夕食に生バンドを従えて音楽を聴く習慣があると言うことで、事前にウィーンのユーゴスラビア料理店で聴き込み&演習。
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そこで教えられたのは、夕食時に歌を歌わなければならないと言うことだったので、ボスニア地方の歌を練習。会った当日は7時間に及ぶ夕食&歌謡会で大盛り上がり。社長はイラク案件についてスラスラと答えてくれたのだが、その内容が衝撃的。
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イラク軍は、確かに西側に喧伝しているような強固なシェルターをこのユーゴスラビアの建設会社に発注したのは事実らしい。ところが金の支払いが非常に悪く、後から「半額にしろ」などと言ってくる始末。怒った社長は、強化コンクリートの代わりに大量の砂を混ぜて、外側だけ硬くするという秘策に。
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そして酒が回って気分が良くなってきた社長さんは、なんとルトワックにこの施設の設計図まで渡すことに。最初はバンカーバスターだ、戦術核だと騒いでいた米空軍の参謀本部の人間たちも、このルトワック情報を聞いて「ミサイルは小さいやつでいいな」と判断。
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かくして翌年に行った空爆では、「強化コンクリート」で覆われているはずのシェルターがバンバン貫通されて一巻の終わり。ここでの教訓は「情報は現場でとれ」、「相手の文化(この場合はユーゴスラビア)を徹底的に調べろ」というもの。
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一つ補足事項あり。米空軍の参謀本部に戦術核が必要だと進言していたのは英諜報機関らしい。
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