133キロで高橋の体勢を崩し、弱い二ゴロに打ち取った。最速147キロの速球で押した木下雄が、1球だけ投げた変化球が、野茂英雄さんに教わったばかりのフォークだった。
前日、北谷の海を見ながらフォークについて語り合った。最初に驚いたのは、彼が「最初に覚えた変化球」がフォークだったということだ。
「小学生は変化球禁止でしょ? 中学に入って、チームの監督さんが『カーブよりフォーク』って人だったんです」
いろんなプロの投手に聞いてきたが、ほぼ全員が「カーブ」から始める。違うとしてもチェンジアップなのに…。経緯を説明する木下雄の指を見て、またまた仰天した。長さ、そして広がる幅。30年プロ野球を取材してきたが、こんな手にお目にかかったのは初めてだ。まさにフォークを投げるための指は、一升瓶を挟み続けるという昭和の手法でつくりあげたそうだ。それなのに、プロでは握りの浅いスプリットを使ってきたという。なんてもったいない…。
「しっかり挟むと、制御できなかったんです。ところが、野茂さんに教わったように投げてみたら、いきなりある程度のところにコントロールできたんです」
誰もが人さし指と中指の挟み方に目を向けるが、ポイントは親指にある。例えば杉下茂さんは「指の間から抜くように投げるから、無回転でナックルのように揺れながら落ちる」と教えてくれた。そして「野茂のは違うんだ」とも。親指を球の下に添えるのが杉下流で、サークルチェンジのように人さし指と輪っかをつくるように置くのが野茂流だ。手首が固定されるから、回転はつく。かつては制御にてこずった木下雄だが、野茂流はフィットしたようだ。
「投げていたスプリットと野茂さんのフォークを使い分けられたら理想的です」。変化球とは縁とタイミングだ。ひょっとして、運命の出会いとなったかもしれない。