楽しみ方は人それぞれ
登山は色んな楽しみ方があります。今回のように地図と地形を楽しむのもいいし、植物や鳥、動物、虫など生き物の観察を楽しむのもいい。山で美味しいものを食べるのも良いし、城跡や古道を探す歴史の登山もいい。
単に山頂を踏んで急いで降りるだけでなく『山をより深く味わう』事で、登山の経験は豊かになると思うのです。
そんな楽しみ方の一つが、隠れピークハントです。
山登りは山頂(ピーク)を目指す事が多いんですが、地形の定義からするとピークは一つの山にいくつもあります。そして、あまり知られていないかも知れませんが、地図に載っていないピークもあります。
そんなバカな、地図には全部載っているはずだと思うでしょう?
地図に載っていないピークとはなんなのか?地図に載っていないピークをどうやって地図から見つけるのか?山と地形と地図を楽しむ方法をお教えしましょう。
まずは、ピークとはなにか?から。ピークとは、山の頂上です。

写真で見るとこんな感じ。

『山の一番高いところ=山頂=ピーク』というのは誰でも知ってると思います。でも、本当はそれ以外の場所にもピークはあります。
コホン。ピークとは、『全周が周りより高くなっている場所、全周が下りになる場所』の事を言います。

そういう場所は一つの山にいくつもあります。
こういう事。

だから、さっき載せた写真でも細かく見ていくと小さなピークがたくさん見えてきます。遠くから見ると小さいけど、行ってみると10m以上(ビル3階分くらい)の登り下りになっているはずです。

ピーク以外の地形も説明しておきます。細かく分類すると多くの種類がありますが、大雑把に言えば、山の地形はピーク、尾根、谷、斜面で出来ています。
さっきの写真で色分けするとこうなります。

高くなっている部分が尾根とか稜線と呼ばれる地形で、比較的歩きやすいため尾根の多くに道があります。ピークは尾根上にあります。
逆に凹んでいる部分は谷や沢と呼ばれる地形で、水が流れていて途中に滝があります。沢登りで登るのはともかく、ロープ無しで下ると落ちて死にます。なだらかな沢には登山道があります(高尾山の6号路とか)。
ピークや尾根、谷以外は斜面で、斜面を横切る登山道をトラバース道と呼びます。
(以上、大雑把な説明)
「登山をするときは地図とコンパスを持ちましょう」なんてよく言われますが、その地図というのは『国土地理院の地形図』を指します(偏った意見です)。
縮尺は色々ありますが『1/25000地形図』が標準とされています。こんな感じの地図です。

慣れていないと見づらいので、『陰影起伏図』を重ねて凹凸が分かるようにしてみましょう。

ななめ左上(地図的には北西)から光が当たっている感じで陰影が着きました。地図の真ん中を尾根が横切ってますね。山頂は△933.7の地点です。
黄土色の線がうねっていますが、この線を『等高線』といいます。標高10mごとに引かれていて、50mごとに太くなります。

この地図からピークを探すには、まず等高線が丸く閉じている場所を探します。ピークとは『周り全部が下り』になる場所なので、等高線が丸く閉じます。
はい、簡単。こういうのをコンピュータにやらせようとするとけっこう難しいですが、僕ら人間はなぜか一瞬で見つけられます。不思議ですね。

3つのピークが見つかりました。等高線が閉じているので見つけやすいですね。等高線は1本10mなので、少なくとも周りより10m程度高くなっています。
等高線が閉じている規模のピークは地図を普通に見ただけでも分かります。
でも実は、等高線は閉じてないけど行ってみるとピークになっている地形があります。それを『隠れピーク』といいます。やっと本題にたどりついた。
下の地図を見ると、右に『・498』と書かれた地点(その地点の標高を表す『標高点』という地図記号です)があり、等高線が閉じています。ここは行ってみると確かに小さなピークがあります。

ですが、実はAの丸とBの丸の地点も行ってみるとピークがあります。
実際の写真はコチラ。

B地点にもなかなか大きな隠れピークがありました。

地図で見るとピークを示す等高線は無いのだけど、実際に山に行くとピークがある。そんな地形がちょいちょいあります。
10mごとの等高線というのは人間が勝手に決めたルールですから、自然はおかまいなしに9mとか8mの隠れピークを作ります。そういうのは閉じた等高線になりません。
等高線に現れないので、地形図をパッと見ただけではそこにピークがあるとは読み取れません。なので、隠れピークがあることを知らずに地図だけ見て現地に行くと混乱します。
「おやおや、なんでここにピークがあるのですか?道間違えましたか?度し難いですか?」なんつって。
そんな隠れピークですが、地図から読み取る方法があるのです。
さっきの地図の尾根に赤い線を引いてみました。

右の・498標高点で赤い線(尾根)が5方向に分岐しています。ピークからは尾根が分岐する傾向がありますが、498と同様にAやBでも尾根が分岐しています。こういう場所には隠れピークがあることが多いです。
また、等高線の形も手がかりになります。

等高線の膨らみを青い線で描いてみました。しゃもじのように膨らんでいる場所には、隠れピークがある事が多いです。等高線の間隔が広いのもヒントです。
『間隔が広い=傾斜が緩やか又は平ら、あるいは10m未満のピークがある』となります。
あと、隠れピークには標高点があるケースが多いので、それも手がかりになります。
以上、尾根の分岐、膨らみ、等高線の間隔、標高点などから、山に登る前にコース上にありそうな隠れピークを予想しておきます。
予想しておいて、実際に隠れピークがあるかどうかを現地で確かめる行為に名前を付けました。
通常、最も高いピークを目指す登山形態を『ピークハント』と言います。が、むしろ最高地点ではなく途中の隠れピークを目的とした登山を『隠れピークハント』と名付けました。

そういう楽しみ方をしている人はこれまでもいましたが、『読図山行』とか『地図読み』とか、地図を読む一環として隠れピークを予想していました。
(※僕の地図の先生が隠れピーク大好きなので影響を受けております)
でもむしろ、一番楽しいのは隠れピーク探しなのでは?ということで、隠れピークハントと呼ぶことにしました。
では実際にどんな感じでやるのか 、奥多摩の本仁田山という1224mの山を登りながらやっていきましょう。
歩くコースはこういう感じ。

右下にあるJR青梅線鳩ノ巣駅をスタートして尾根を登り、本仁田山のピークを踏んでゴールに降ります。
等高線は標高10mごとに引かれるので、等高線と等高線の間が狭ければ急斜面、広ければ緩斜面と読み取れます。

自分がどういう道を歩いて、どのくらいの時間が掛かり、どこでどういう地形の変化があるのかを前もって地図から読み取る作業をします。登りは標高差300mで1時間掛かると計算します(下りは500mで1時間)。登山道の合流や分岐、進行方向も読み取ります。
事前に読図をしないと、自分がどういう山に登るのか、登った後もどういう山だったのかイマイチ分からないという事態になります。コースを理解していないと道を間違えても気付けないため、事前に読図しておくことは安全にも繋がります。
その過程で隠れピークを見極めます。下の地図は、上の地図の右下、スタート地点周辺を拡大したものです。

なんとなく、尾根の分岐や等高線の広がり方から3箇所の隠れピークが見えてきます。どれも等高線は閉じていませんが、ピークがありそうな雰囲気です。尾根が分岐して、等高線がしゃもじ状になっています。
669の標高点から更に進んで、D地点にも隠れピークがありそうな雰囲気があります。ここに無かったらウソだ。等高線の間隔が広いのも手がかりになります。CやDの辺りは間隔が広いですね。

E地点は尾根が大きく分岐していて、いかにも隠れピークがありそうです。
残りの登りと下りの尾根にもいくつか隠れピークの匂いがありますが、とりあえずE地点までとしておきましょう。
では、予想した場所に隠れピークがあるのか?予想していない場所には隠れピークが無いのか?を実際に登って確かめてみましょう。
なお、今回登るコースは登山地図では上級者コースとされています。道が不明瞭で斜度が厳しい場所もあります。初心者が1人で登るのはオススメしません。

分かりにくい登山口を探し当て、いきなりの急登を登ってA地点へ。小さなピークの横を通りすぎてから振り返ると、予想通りに隠れピークがありました。まずは正解で、一勝。すばらしい。

これは簡単でしたね。いかにも隠れピークがありそうな地形でした。次はB地点。
と、思ったら、おやおやおや、AとBの間に隠れピークがありました。度し難い。

予想外でした。この程度の尾根の広がりでこんな顕著な隠れピークが出来るとは。人工的な盛り土の可能性(山城の跡など)もありますが、隠れピークは隠れピークです。
見つけられなかったのは敗北なので、これで一勝一敗です。
今度は間違いなくB地点。緩めですが隠れピークがありました。二勝一敗。

更に進んでC地点。ここは標高点もあるし尾根も3方向に分岐しているのでさぞや立派な、高さ10mギリギリくらいの隠れピークがあるのだろうと思ったんですよ。

こうきましたか、やさしいですね、って独り言を言ってしまいました。これで三勝一敗。
次はちょっと登ってD地点。
おや、平坦っぽい。

まさかの、隠れピークなしでした。こんなに隠れピークありそうなのに、ただの平坦な尾根でした。
僕の読図力もまだまだです。これで三勝二敗。困りましたね。
これは非常にまずい、負け越してしまうかも…と思って進んでいったところ、また予想外の隠れピークが現れました。予想外過ぎてむしろ嬉しくなってきました。

予想外すぎるし、未だに信じられないけどピークがあるのは仕方ありません。これで三勝三敗になりました。非常にまずいです。
とはいえ、次のE地点は鉄板の隠れピークですから、四勝目は硬い。

やはりありましたね。これだけ明確な尾根の分岐で等高線が膨らんでいたら、ピークが無いほうがおかしいんです。
これで四勝三敗。ギリギリ勝ち越すことが出来ましたが、予想外に難しい隠れピークハントとなってしまいました。んなぁ~。
その後は等高線が閉じた普通のピークがあり、最後に無茶な急斜面があり、それを越えたら本仁田山、1224mのピーク。
普通のピークハントをして、大休場尾根という奥多摩三大急登の尾根を下山しました。

本仁田山は道迷いポイントも多くて、迷った挙げ句に崖から落ちて亡くなるという事故が何件も起きています。
道迷い遭難は、事前にきちんと読図しておくこと、地形と地図を見比べて現在地を特定すること、それからGPSのサポートによってほぼ防ぐことが出来る遭難です。今どきはスマホで登山用のGPSアプリが使えるのだから、山で道に迷うこと自体どうかしてます。
隠れピークハントは読図の練習にもなるし、なによりも正解不正解に一喜一憂するのが楽しいので、登山前に予想しておくと楽しいですよ。
低い山や歩行距離が短い山でも出来るので、是非。

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