(今日、みなさんに言わなければならないことがあります)
タニタ公式Twitter「中の人」、退職していきなり個人事業主になって不安じゃないですか?
ある日、ライターの菊池がTwitterを見ていると、こんなツイートがタイムラインに流れてきました。
タニタ公式Twitterの「中の人」が退職……? タニタの公式Twitterアカウントは、ユーモアとセンスあふれる投稿で、フォロワーが30万人を超えるなど、とても人気な企業アカウント。その運用者が会社を退職「した」とは、一体どういうこと……?
そう思った菊池が調べたところ、どうやらこれは、株式会社タニタがはじめた「日本活性化プロジェクト」という仕組みをTwitter運用担当の方が参加した、という意味のようです。
独立を希望する社員はタニタを退職、新たに「個人事業主」として同社と「業務委託契約」を結びます。それまで行なっていた仕事は「基本業務」として担当できるこの仕組み。個人事業主として、他社の仕事を請け負ったり、正社員時代には取り組みづらかった新しい領域の仕事にチャレンジしたりできます。
『タニタの働き方革命』(日本経済新聞出版社刊)によると、「この活性化プロジェクトは、『会社員』と『フリーランス』のいいとこ取りができる仕組みだ」と代表取締役社長 谷田千里氏は述べています。
話を聞く限り、とても魅力的な仕組みに思えます。でも、いきなり個人事業主になって不安じゃないの? 給与って減らないの? 退職してみて実際のところどうなの──?
気になった菊池は、タニタ公式Twitter中の人に話を聞きに行きました。
株式会社タニタ公式Twitter運用担当者「中の人」。ブランド統合本部新事業企画推進部。現在35歳、実名と顔は非公開。2008年にタニタに新卒入社し、営業の仕事を担当するなか、2011年にTwitterの運用をスタート。8年間ほぼ毎日コツコツとツイートを続け、愛される企業アカウントに成長させた。2017年、日本活性化プロジェクトの第一期メンバーとして参加。同年タニタを退職し、個人事業主としてタニタの業務を継続している。
新しいことに挑戦すれば、この先なにがあっても生きていける力が身に付く
なぜ社員を個人事業主化する必要があるのか、個人事業主になったらどんな働き方になるのか。業務委託としてタニタで働く……。話を聞いた直後はどういうことなのか理解できなかったですね。
そこで、成果と評価が直結しやすい個人事業主になってみようと考えました。
自分の成長を考えずに、日々同じ仕事だけをしていたら、勤めていた会社が倒産したときに、選択肢がほとんどなくなるかもしれません。逆に新しいことに挑戦すれば、この先なにがあっても生きていける力が身に付くと思ったんです。
「会社が成長していくには、どんどん新しい挑戦をしないといけない。そのためにも社員それぞれが思う新しいことを自由にやってほしい」と繰り返し伝えてくれたことが、印象に残っています。
「会社が苦しくなったらいつでもクビにできるってことじゃないの?」
まず「企業だって倒産する可能性があるのだから、正社員=安心なわけではない」と。「企業が倒産しても仕事をしていけるように、早いうちから準備をしておいたほうがむしろ安心だと思う」と伝えたんです。
そもそも当時、会社は、人手が十分に足りている状況ではなかったので、あえて誰かを辞めさせる判断はしないはずだと思いました。
それにこれまで社長と一緒に仕事をしてきて、社員をクビにするためにこのプロジェクトを導入するような人ではないとわかっていました。だから、家族には「一緒に信じてほしい」と言いました。
でも、蓋を開けてみると、手取り収入は増加してたこともあり、今は家族も理解してくれているように思います。
自分ごと化の頻度が高くなり、引き出しが増えた
マネジャー業務は追加の契約として、別途報酬をいただいていますね。
これは「日本活性化プロジェクト」の座組みならではの仕事の受け方だと感じますね。
機会があれば受けるかもしれませんが、今のところは、タニタと一緒に仕事をしていきたい気持ちが強いです。
社員でも個人事業主でも、成果を出すためにスキルを磨き続ける点では変わりはない
退職する前は「平日のうちに完全燃焼しなきゃ!」と思っていたので、自分から進んで朝早くから夜遅くまで働き、その反動で土日は疲れ切っていたんです。
今は時間の使い方がより自由になった分、使うエネルギーが分散できて疲れにくくなりました。
たとえば、つい仕事をサボってしまいそうになるとか。
でも、正社員だろうと個人事業主だろうと、仕事に向き合う姿勢は変わらないですね。仕事する以上は成果を出したいし、そのためのタスク管理も、雇用形態が変わったからといって変わるわけではない。
でも、健康管理は以前より気にするようになりました。自分が病気になると仕事が止まってしまう。なので、無理はせず、もし体調を崩した場合はすぐ休み、早くリカバリーできるようにしています。
ただ、いつでも仕事ができるようになった分、つい仕事をはじめてしまうこともあるので、家族との時間をいつ取るのかは意識的に決めています。
正社員だった頃は自分の給与から税金がどう引かれているのか全く知らなかった。今は自分で管理してお金を払うので、金額や内容が見えるようになって、勉強になりました。
特定の部署に縛られないからこそできる貢献の形
たとえ自分が引き受けたかったとしても、上司が首を縦に振らない可能性もあります。
この働き方であれば、部署の都合に関係なく、会社全体としてやった方がいいことを、仕事として受けられるようになりました。
組織内では取り組みづらかった仕事を個人事業主が取り組んで会社を活性化できる。たしかにこれは理にかなっていると思いますし、退職したからこそ貢献できる仕事があるのだと気づきました。
だからこれからも、タニタを盛り上げたいですね。
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執筆

撮影・イラスト

編集

木村和博
株式会社インクワイア所属の編集者・ライター。soar編集部に所属。大学自体より演劇活動に勤しんでおり、現在は平田オリザ氏が主宰する劇団青年団の演出部でほそぼそと活動も続けている。