ローリングストーン誌が発売当初に酷評した名アルバム10選

発売当初に酷評してしまった名アルバム10選(Paul Bergen/Redferns)

レッド・ツェッペリンのデビューアルバムからニルヴァーナの『ネヴァーマインド』まで、ローリングストーン誌の批評が歴史的な評価と一致しなかった10枚を紹介する。

音楽評論家という職業は、決して楽なものではない。時にはニューアルバムを十分に聴き込む時間のないままに全体像を把握し、後世まで残ってしまう可能性のあるレビューを書かねばならない。しかし中には、何度も何度も聴き込んで初めて、真価が明らかになるアルバムもある。例えば、何の予備知識もないままにAC/DCやラモーンズを聴いたとする。すると彼らの音楽は滑稽で幼稚に感じると思う。後になって当のバンドを崇拝するようになるとしても、第一印象は決して忘れないだろう。ローリングストーン誌では、1967年の創刊号からアルバムのレビューを続けてきた。何千、何万とレビューする中で、我々が酷評したアルバムが後に人気の名盤となることも少なくなかった。以下に、最も悪名高かった10のレビューと、後に別の評論家によって見直された評価を並べて紹介する。

ジミ・ヘンドリックス 『Are You Experienced(アー・ユー・エクスペリエンスト?)』(1967年)
サンプル
ローリングストーン誌の創刊号でジョン・ランドーは、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスという新しいバンドがリリースしたニューアルバムへの大きな不満を示した。

ジョン・ランドーによるオリジナル:全ては正気の沙汰でなく、好き嫌いがはっきり分かれるだろう。基本的に私はいくつかの理由により“嫌い”の方に入る。ジミの持つ優れた音楽の才能とバンド全体としての精密さにもかかわらず、楽曲のクオリティの低さと空虚な歌詞が足を引っ張る場面があまりにも多すぎる。ジミは心理状態を歌詞にする傾向にあるが、それにしても“Manic depression is a frustrating mess(うつ病はフラストレーションの溜まる混乱状態)”などという歌詞はいただけない。芸術に対して嘘偽りはないが傲慢な態度のジミは、歌詞に対しても同じ調子で書いている。そういう意味で「I Don’t Live Today」は、本アルバム中の最高傑作であり最悪の作品ともいえる。とても素晴らしくコントロールされた精密さでプレイしている反面、ジミが伝えようとしているのは“There’s no life nowhere…(生きる道はどこにもない)”といった退屈な内容だ。理解できる人もいるかもしれないが、私としてはジミのブルーズが聴きたい。

ポール・エヴァンスによる改訂版:5つ星『ローリングストーン・アルバムガイド』(2004年)
サマー・オブ・ラヴ(1967年)にリリースされたデビューアルバム『Are You Experienced』のサウンドは、神々しい狂気といえる。「Purple Haze」、「I Don’t Live Today」、「Manic Depression」、「Fire」は、心の底からの驚嘆、欲望、恐怖から生まれた歌詞を、ギターフィードバックと圧倒的なテクニックが包み込んでいる。

Translated by Smokva Tokyo

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「グランジ」史上最高のアルバム50選

Photographs in illustration by Kevin Mazur/WireImage, 2; Jeff Kravitz/FilmMagic; Mick Hutson/Getty Images

ニルヴァーナ、パール・ジャム、アリス・イン・チェインズ、サウンドガーデン、マッドハニー……マルチプラチナムの名作から、忘れがたいアンダーグラウンド作品まで。ロックの歴史を作り直したはみ出し者たちが残した「グランジ・アルバム」のトップ50を紹介する。

25年前、カート・コバーンはグランジはダサいものになると予言していた。「グランジはニューウェイヴと同じぐらい強力な呼び方だ。時代遅れになるのを避けることはできない」と、彼はローリングストーン誌に語っている。当時、エディ・ヴェダーがタイム誌の表紙を飾り、ファッション・デザイナーのマーク・ジェイコブスがモデルにフランネルシャツを着せ、ニューヨークタイムズ紙までもが「不浄やゴミを意味する言葉が、なぜ音楽のジャンルやファッション、ポップカルチャーの社会現象を指すようになったのか?」という記事を書くほどであった。その呼び方は廃れてしまったが、当時の音楽はいまも重要な役割を果たし続けている。

当人たちがその呼び方を好んでいたかどうかは別として、グランジはムーブメントであった。10年もしないうちにニルヴァーナやシアトルの一握りのバンドがアンダーグラウンドからはい出てポップカルチャーを席巻し、自分たちのヴィジョンでそれを作り直した。歌詞では感情をむき出しにし、多くの女性たちや80年代のボサボサな髪型が持て囃されたメインストリーム・ロックから取り残された人たちに居場所を作った。そして、パンク・ロックに倣い派手なロックスター的演出を排除した。その音楽はハード・ロックとメタルとパンク(と、至るところに垣間見えるニール・ヤングからの影響)の融合であり、それにより音楽的な幅が生まれそれぞれのバンドが独自性を持っていた。やがてすぐに、インディ・レーベルでの数年の活動を経た世界中のバンドが幅広く認知されていくようになった。しかし、そのムーブメントはニュー・メタルがロック界に台頭し数年で急速に下火になっていった。

ただ、グランジが死んでしまったというわけではない。パール・ジャムやマッドハニー、アリス・イン・チェインズ、メルヴィンズのようなシーンを代表するバンドは高評価を受けるようなアルバム、商業的成功を収めるアルバムを未だにリリースし続け、グランジはアメリカン・カルチャーの一部になっている。その影響はヒップホップにも響いているし(ジェイ・Zは2013年の曲「ホーリー・グレイル」で「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」のサビを使っている)、インスタイルなどの雑誌はグランジ・ファッションの再興を伝えている。また、ブリーやメッツ、スピーディー・オーティズ、そしてジュース・ワールドのような若いアーティストたちが、このジャンルの鋭いギター・リフと本音の叫びという伝統を受け継いでいる。

アリス・イン・チェインズ、サウンドガーデン、ストーン・テンプル・パイロッツ、ニルヴァーナ、パール・ジャムのアルバムが1位を取り、そして悲しくもカート・コバーンが自殺した1994年は、グランジがメインストリームを席巻していた最後の年である。我々はその25周年を記念して、ローリングストーン編集者たちでその時代のベスト・アルバムを選んでみることにした。グランジというジャンルの幅の広さを感じ、決してそれが時代遅れなものにはなっていないことを証明するために、チャート1位を獲得したバンドのみならず、あまり日の目を見ることがなかったPawやザ・ギッツ、ザ・ユー・メンのようなバンド、さらにはグランジの祖(ニール・ヤング)などもピックアップした。ブッシュやキャンドルボックス、シルヴァーチェアーのように、大ヒットしたものの時の試練に耐えることができなかった作品は除外してある。

では、古着屋で買った一番いいセーターを着て、ドクターマーチンを履いて髪を肩まで降ろして、最も偉大なグランジ・アルバム・トップ50をしっかりと楽しんでほしい。

50位 マザー・ラヴ・ボーン 『アップル』(1990年)
49位 トーディーズ 『ラバーネック』(1994年)
48位 フィーカル・マター 『イリテラシー・ウィル・プレヴァイル』(1986年)
47位 ザ・ユー・メン 『Step On A Bug』(1988年)
46位 ヴェルーカ・ソルト 『アメリカン・サイズ』(1994年)
45位 ザ・ストゥージズ 『ファン・ハウス』(1970年)
44位 スキン・ヤード『Hallowed Ground』(1989年)
43位 ブラック・フラッグ 『マイ・ウォー』(1984年)
42位 アリス・イン・チェインズ 『ジャー・オブ・フライズ』(1994年)
41位 サウンドガーデン 『スクリーミング・ライフ』(1987年)
40位 マッドハニー 『エヴリ・グッド・ボーイ・ディザーヴ・ファッジ』(1991年)
39位 ザ・ギッツ 『Enter: The Conquering Chicken』(1994年)
38位 The Fluid 『Purplemetalflakemusic』(1993年)
37位 L7 『スメル・ザ・マジック』(1990年)
36位 ニール・ヤング&クレイジー・ホース 『ニール・ヤング&クレイジー・ホース』(1990年)
35位 Paw 『Dragline』(1993年)
34位 7・イヤー・ビッチ『¡Viva Zapata!』(1994年)
33位 ベイブズ・イン・トイランド 『ファンタネル』(1992年)
32位 スマッシング・パンプキンズ 『ギッシュ』(1991年)
31位 タッド 『8-ウェイ・サンタ』(1991年)
30位 ワイパーズ『Youth of America』(1981年)
29位 グリーン・リヴァー『Come On Down』(1985年)
28位 サウンドガーデン 『ラウダ-・ザン・ラヴ』(1989年)
27位 ベイブズ・イン・トイランド 『スパンキング・マシーン』(1990年)
26位 スマッシング・パンプキンズ 『メロンコリーそして終りのない悲しみ』(1995年)
25位 メルヴィンズ 『Bullhead』 (1991年)
24位 ストーン・テンプル・パイロッツ 『パープル』(1994年)
23位 サウンドガーデン 『ウルトラメガ・OK』(1988年)
22位 コンピレーション・アルバム 『ディープ・シックス』(1986年)
21位 ジェリー・カントレル 『ディグラデーション・トリップ』(2002年)

※21〜50位のジャケット写真はこちらをチェック。

Translated by Takayuki Matsumoto

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