
ニシキベラ属の
ブルーヘッドラス(Thalassoma bifasciatum)は、カリブ海のサンゴ礁の中で小さな群れを作って暮らしている。頭が青いのはオスで、その青は黄色い模様のメスの
ハレム(ハーレム)に対する支配力を表している。
そんなオスが群れからいなくなると不思議なことが起きる。群の中で一番体の大きなメスがオスになってしまうのだ。まず、ものの数分で行動が変わり、10日で卵巣が精巣に変わる。21日が経過する頃には、どこからどう見ても立派なオスだ。
一体全体どうやって性転換をしているのか? そもそもこのようなメカニズムをどうやって進化させたのか?
オスがいないストレスがメスの性転換をうながす
ブルーヘッドラスの性転換のスイッチは群れの中にある。オスが群れからいなくなると、最大のメスはすぐさまそれを察知し、その日のうちにオスの繁殖行動を示すようになる。
分子レベルでのメカニズムはちょっとした謎だが、おそらくストレスが関係しているのではと言われている。
他の魚や爬虫類において、ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」が体温に基づく性別決定システムに関連している。コルチゾールが性ホルモン濃度を左右し、それを通じて生殖機能を変えてしまうのだ。
よって、ストレスが環境からの情報を性転換発動につなげる統合的メカニズムである可能性が考えられる。
たちまちスイッチが切り替わる性ホルモン遺伝子
オスへ性転換する最中のブルーヘッドラスのメスの遺伝子を調べた
研究では、雌性ホルモン(エストロゲン)を作る遺伝子がピタッと停止し、かわりに雄性ホルモン(アンドロゲン)のスイッチが入ることが確認された。
またメスであるために必要な他の数百の遺伝子(卵のパーツを作る遺伝子など)は徐々に停止し、一方でオス向けの遺伝子(精子のパーツを作る遺伝子)のスイッチが入ることも分かった。
性別の決定における役割は不明であるが、発達に関連する遺伝子も変化していた。そうした中には、他の遺伝子の活動を”
エピジェネティクス(後成的)”に調整するものも含まれていた。
エピジェネティクスとは、”遺伝子を超えた”制御のことだ。たとえば、魚類や爬虫類の中には、卵の周囲の気温といった環境からの刺激によって胚の性別が決まる種がいる。つまり遺伝子によってオスかメスか決められているのではなく、環境が遺伝子の活動を左右して性別が決まるのだ。
こうしたメカニズムは、社会的なサインを受けて分子レベルの活動に変化が生じるブルーヘッドラスの性転換プロセスにも重要な役割を果たしている可能性がある。
Bluehead Wrasse - Snorkeling Aventuras Bay Mexico - 4/10/15
細胞分化が逆転して、卵巣から精巣へ再形成
驚いたことに、胚や幹細胞で活発な遺伝子のいくつかにもスイッチが入っていた。
そうした遺伝子は、細胞をさまざまな組織の元になるES細胞のような状態に維持するものだ。さらにすでに分化した細胞をES細胞状態に戻すこともできる。
このことは、ブルーヘッドラスの卵巣から精巣への転換には、細胞分化を逆転させるプロセスが含まれているらしいことを示唆している。
なぜ魚の一部の種はわざわざ性転換するのか?
じつは性転換をする魚はブルーヘッドラスの他にも500種ほど確認されている。
クマノミはオスとして生まれて、やがてメスになる。コブダイはその逆だ。ハゼのように両性を行き来するものもいる。そうした性転換が発動するスイッチは、年齢・サイズ・社会的地位などである。

congerdesign from Pixabay
性転換が有利になるのは、小さいときには一方の性別の方が生殖する上でメリットがあるが、大きく成長したら別の性別で生殖した方がいいような場合だ。
仮にメスは体が大きい方がたくさん子供を残せるとしよう(たくさん卵を産めるから)。ならば成長してからメスに性転換した方が都合がいいかもしれない。
だがブルーヘッドラスのオスように、群れを外敵から守り、できるだけたくさんのメスと交尾した方が子孫を残す上で有利だというのなら、大きく成長してからオスに性転換するのが望ましいだろう。
また乱獲で減った個体数を回復する上でもメリットがあるかもしれない。というのも、漁業で狙われるのは大きい個体で、その結果として残された個体の性別に偏りが生じるからだ。
ブルーヘッドラスのオスとメスとでは、大きさ・行動・色といった違いがあるが、とりわけ大きな違いは生殖器――すなわち精巣と卵巣にある。
そして大胆にも、彼らの性転換では、卵を作る卵巣が精子を作る精巣に完全に再形成される。
この点は性転換をする他の魚と違うところでもある。他の魚の場合、その性腺にはオスとメス両方の組織が備わっており、性転換をすると一方が大きく成長するという仕組みになっている。
Thalassoma bifasciatum (Bluehead)
魚はありとあらゆる戦略を駆使して、性別を最大限に利用しているようだ。
魚の性別のエピジェネティックな転換を理解すれば、人間の性についても新しい洞察を得られるかもしれない。
この研究は『
Science Advances』に掲載された。
References:What we learn from a fish that can change sex in just 10 days/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
人間も子宮内でメスからオスへ変える作業行い男女区別が
発生するので、この性別遺伝子がわかったら生まれた後でも
簡単に男女代えられるかもしれない
2. 匿名処理班
長いので要約しました
「男いねーな―。チクショー! ――あ。(ボロン」
3. 匿名処理班
10日で性別変われるなら
ジェンダーで悩む必要もなくなるから
羨ましいわ
4. 匿名処理班
魚類と言えば、かなり高度な生物に属すると思うのだが、
それでも成長後の性転換が可能なのだね
全ての地上の動物は魚類から進化したのだから、
地上動物もまた、成長後の性転換が可能かも知れない…
5. 匿名処理班
>分化した細胞をES細胞状態に戻すこともできる
もしこれを動物でも実現できたら、ノーベル賞級の発見になると思う
でもこの魚は、そういう事を難なくやり遂げているという…
自然の神秘は本当に奥深い
6. 匿名処理班
※3
でも、自分の好みで性転換できる訳ではないみたいだし
それはそれで困る事も出て来るかもよ?
8. 匿名処理班
凄い柔軟さ
環境の変化に強いのってこう言う奴なんだろうな
10. 匿名処理班
何かの論文で
ある魚はたったの1塩基で性別が決まるとか見たことがある。
11. 匿名処理班
ねーさん早まっちゃいけねぇ
メスに相手にされないオスだって
...いるんだぜ
しくしく
12. 匿名処理班
職場や自分の近くにオスが居ない!!
出会いのチャンスが無い!困った!…ピキーン…
うぎゃー、自分自身がオス化しちまった!!
こうですか?良く判りません?