終身雇用、週休2日…働き方の常識はいつから?「働く」の今と昔

あなたにとっての働き方の「当たり前」はなんですか?長年の習慣が根付く歴史ある会社と、新しいスタイルを取り入れている若い会社、またはベテランと若手社員では、働き方の常識はまったく違うこともあるでしょう。そこで今回は、終身雇用、週休2日、8時間勤務といったワークスタイルはいつ頃日本に根付いたのか、その歴史をひもときます。さらに働き方に関する新常識を紹介して、昔と今の働き方を比較。時代で移り変わる「働き方の当たり前」について解説します。

社会背景によって変わる働き方

人々のワークスタイルや仕事と私生活のバランスは、時代によって常に変化しています。経済成長に伴ってサラリーマンの労働時間が長くなったり、一方で、過重労働の問題が深刻化して労働時間の削減が推進されたりと、社会で変化が起こるたびに働き方は見直されてきました。

たとえば、コンビニ大手のセブン-イレブンが24時間営業を始めたのが1975年。セブン-イレブン公式サイトによると、経済成長によって働く人のライフスタイルが変わり、いつでも買い物ができる利便性を提供するため24時間営業を行ったそうです。

「新語・流行語大賞」の受賞語にも、各時代の働き方が反映されています。1989年に銅賞を受賞した「24時間タタカエマスカ」は、栄養ドリンクのCMキャッチフレーズ。サラリーマンが栄養ドリンクを飲んで戦うように働くというストーリーは、猛烈な働き方を肯定するものでした。80年代や90年代のヒット曲も、歌詞に「週休2日」といった言葉が盛り込まれていて、当時は週休2日が当たり前ではなかったということがわかります。

働き方の当たり前はいつから?

では、今は常識とされている働き方が採用されたのは、いつ頃だったのでしょうか。当時の新しいスタイルが登場し、定着するまでの歴史をご紹介します。

①サラリーマンの誕生

そもそも、会社や団体に勤めて賃金を得る「サラリーマン」はいつ登場した概念なのでしょうか。早稲田大学の原克教授によると、日本でサラリーマンが誕生したのは1920年代。1914~1919年の第一次世界大戦の後に日本の産業構造が変わり、事務職として働く人が増加。オフィスに出勤して、体ではなく頭脳を中心に使い働く、現在のサラリーマンの原型ができあがったそうです。

②終身雇用

長い期間、社員を雇い続ける日本ならではの終身雇用の習慣は、第二次世界大戦が終わった後、1954年ごろからの高度経済成長期に定着したと言われています。

戦前はまだ長期間同じ場所に務める人は多くなく、1940年前後の戦時経済下に、国の労働統制で職場の固定化が進みました。そして高度経済成長期、企業が競争力を高めるため安定して仕事をする画一的な人材を雇う仕組みを採用。定期的な新卒者の採用と、長期的な労働を見越した人材育成を行うようになり、終身雇用が定着しました。

③1日8時間勤務はいつから?

日本で8時間労働が初めて法律で規定されたのは、1947年の労働基準法。アメリカやイギリスでは、18世紀半ばから19世紀にかけて、長すぎる労働時間を8時間~10時間に減らすための運動が起こり、法律による規制が行われました。そして、1919年に開催された国際労働機関第1回総会で「1日8時間・週40時間」という原則が国際的なスタンダードとして定められました。

日本では1919年、川崎造船所(現川崎重工業)が8時間労働制を導入。神戸市には「八時間労働発祥之地」の碑があり、同社が日本で初めて8時間労働を採用したとされています。1916年施行の工場法を経て、1947年の労働基準法で、1日8時間労働が規定されました。

④週休2日制の導入

日本で最初に週休2日を導入したのは松下電器産業(現パナソニック)。仕事の生産性アップや「一日休養、一日教養」という目的のため、1965年に週休2日制が採用されました。

他の企業でも本格的に導入が始まったのが、1980年頃。厚生労働省の調査によると、1984年に完全週休2日制を導入していた企業は6.7%、完全週休2日が適用されていた労働者の割合は27%でした。2019年は、導入企業が44.3%、適用労働者の割合が57.0%にまで上がっています。

⑤有給休暇の取得率はどう変化?

有給休暇は、1936年の国際労働機関第52号条約で、取得しても賃金が支払われる休暇として定められました。日本では、1947年の労働基準法で初めて導入。所定労働日が週5日以上の者に年次有給休暇を付与することが規定されました。最低付与日数6日と定められましたが、1988年も国際条約などの日数引き上げに応じて、最低付与日数が10日に増加しました。

取得日数や取得率の推移を見ると、厚生労働省の調査では、1984年は年間の取得日数が8.2日、取得率が55.6%。もっとも取得率が低かったのは、2005年と2007年の46.6%でした。2019年は取得日数が9.4日、取得率は52.4%で、35年の間で取得率は5割の前後を推移しています。

⑥長時間労働

日本人の労働時間は、昔と比べて長くなっているのでしょうか? 厚生労働省のデータによると、30人以上の従業員がいる事業所の常用労働者1人あたりの平均年間総実労働時間数は、1947年が平均2230時間。過去もっとも多かったのは、1960年の2432時間です。1ヵ月平均で202時間、1週間でいうと約50時間働いていました。

1980年代には「過労死」という言葉が登場。長時間労働が問題視され、1992年には、年間労働1800時間という目標達成を目指す政府計画とともに、「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」が制定され、国が労働時間短縮の取り組みを支援する体制が整備されました。1990年前後を境に、年間の労働時間は2000時間以下に。2019年の、事業所規模30人以上の常用労働者の年間総労働時間は1781時間のため、日本人の労働時間は以前に比べて減っています。

これが働き方の新常識

では、最近の法改正や世の中の動きを受けて、働き方はどのように変化しているのでしょうか。新しい流れや、新常識についてお伝えします。

有給休暇取得義務化

働き方に関する最近の大きなトピックのひとつが、2019年4月から施行された働き方改革関連法です。この一環で労働基準法が改正され、初めて有給休暇の取得が義務化されました。使用者は、法定の年次有給休暇付与数が10日以上の労働者に対して、年間5日の有給休暇を取得させることが、法律で定められています。

時間外労働時間の規制

これまで行政指導はあったものの、長時間労働をストップする法律はありませんでした。2019年4月から(中小企業は2020年4月から)、初めて時間外労働の上限が規定。臨時的な事情がない限り、時間外労働時間は、月45時間、年間360時間を超えることができなくなりました。特別な事情があっても、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満を守るべきと法律で定められています。

転職が当たり前の時代に

20代、30代の若い年代を中心に、転職を選択肢のひとつととらえ、キャリアアップの手段として希望する人が増加しています。

内閣府が16歳から29歳までの男女を対象に2017年に行った意識調査では、転職に前向きではない回答をした人が17.3%。一方、72.1%が、「自分の能力や適性に合う職場を求めて、積極的に転職すべきである」「自分の能力や適性に合わない職場であれば、転職することもやむをえない」など、転職を受け入れる反応をしています。

テレワークの普及

テレワークとは、ICTを活用して働きやすい場所や時間を選んで柔軟に働くこと。在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイルワークといった、固定のオフィス以外で仕事をするテレワークが、大企業でも広く普及しています。

育児や介護、病気やけがなどを理由に出勤が難しいケースや、営業職など外回りが多くオフィスに戻ることが非効率な場合に、多様な働き方を実現して生産性を上げるテレワーク。2020年の東京都内の混雑緩和を目指してテレワークを推進する動きも活性化しています。

副業解禁の流れ

会社に勤めながら、別の仕事で収入を得る副業も一般化。収入の確保やキャリアアップなどを目的に、若い世代や、中小企業に勤める人を中心に、副業する人は年々増えています。少子高齢化による労働力不足が深刻化する中、政府も働き方改革の一環として副業・兼業を推進。大手企業でも副業を解禁する動きが広がっています。

各年代の「当たり前」を受け入れて選択肢を広げよう

終身雇用、長時間労働などが当たり前だった時代を知るベテランにとっては、最近の働き方の変化は受け入れがたいこともあるでしょう。反対に、若い世代にとっては、数十年前から日本に根付く考え方を当たり前ととらえる人に違和感を覚えるかもしれません。世代によって「働く」ことについての価値観が違うのは当たり前です。大切なのは、自分の考えを相手に押しつけず、多様なスタイルを認めること。時代の変化や周囲の人の希望に応じて、ベストな働き方を柔軟に選んでいきましょう。

参考・出典

■セブン-イレブンの歴史|セブン‐イレブン~近くて便利~
https://www.sej.co.jp/company/history/history_02.html
■「サラリーマン」に縛られるな! | 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/21586
■1919年の労働時間(工業)条約(第1号│国際労働機関
https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-conventions/WCMS_239178/lang–ja/index.htm
■グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0502.html

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