海上自衛隊の護衛艦が中東地域へ出港した。日本独自の判断だとはいえ、米国の要請を受けた派遣だ。国民を代表する国会の議決を経ず、閣議のみの決定でもある。国会の関与が不十分ではないか。
神奈川県の横須賀基地で行われた護衛艦「たかなみ」の出国行事に、安倍晋三首相が出席し、乗組員約二百人に訓示したことが、派遣の持つ意味の重さを物語る。
首相は「(中東海域は)年間数千隻の日本関係船舶が航行し、わが国で消費する原油の約九割が通過する大動脈・命綱と言える海域だ。日本関係船舶の安全確保は政府の重要な責務であり、必要な情報収集を担う諸官の任務は国民の生活に直結する、極めて大きな意義を有する」と強調した。
中東海域で緊張が高まっていることは事実だ。原油を中東に依存する日本にとって航行の安全確保が重要であることも理解する。
にもかかわらず、なぜ防衛省設置法の「調査・研究」を根拠とする閣議決定のみの派遣なのか。
政府は今回の派遣が、国民の権利義務にかかわらず、実力の行使を伴わないためと説明するが、自衛隊の海外派遣は国家意思の表明であり、極めて重い決断だ。
国連平和維持活動(PKO)協力法や、インド洋で米軍などに給油活動するテロ対策特別措置法、イラクでの人道支援や多国籍軍支援を行うイラク復興支援特措法を制定するなど、これまで自衛隊の海外派遣は、その是非は別にして国会の審議や議決を経てきた。
自衛隊の活動を国会による文民統制(シビリアンコントロール)下に置くのは、軍部の暴走を許した過去の反省に基づくものだ。
今回の派遣をめぐり、閉会中審査や通常国会での代表質問、衆参両院の予算委員会で質疑が行われたが、とても十分とは言えない。
閣議決定のみの派遣決定には、国会での追及を避ける狙いがあると疑われても仕方があるまい。
「世界中どこでもいつでも海外派遣できる先例にならないか」との与党議員の質問に、首相は「派遣を一般化することは毛頭あり得ない」と答えたが、調査・研究を根拠とし、国会の審議や議決を経ない海外派遣が、今後、行われない確証はない。
中東緊張の発端はトランプ米政権がイラン核合意から一方的に離脱したことだ。日本は米政権の要請を受けて自衛隊を独自に派遣したものの、米イラン両国と良好な関係にある。緊張緩和に向けた外交努力を怠ってはならない。
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