40代男性「生活費8000円」田舎暮らしで得た快感

20年間憧れていた暮らしに踏み切った結果

とはいえ、冷静に生活の収支を計算し、老後を見据えた計画を立てている。移住生活に踏み切る前にも、お金のことは十分に考えた。

「生涯で2億円を稼いだ人と1億円を稼いだ人がいると仮定してみた。2人が亡くなったときに、2億円を稼いだ人は1億円の貯金が残ったが、1億円を稼いだ人はほとんど残らなかった。ということは、2億円を稼いだ人は、無駄に1億円分働いてしまったことになるのではないか」。男性は、こんな計算を頭の中で巡らせたという。

現在の貯金で食いつなぎながら、年金受給年齢までなんとかやっていけそうな感触を持っている。この生活であれば支給される年金だけでも十分にやっていけそうだ。もちろん、不安要素もある。例えば、将来的に予想される古民家の修繕。自分でやるつもりだが、材料費にはお金がかかるかもしれない。働かないといけなくなれば、週に1日とか2日ぐらい、働きに出ればいいと思っている。

田舎暮らしならではの「煩わしさ」もない

実際に踏み切った田舎生活をどう感じているのだろうか。「まず都会生活に付きものだったストレスがなくなった。給料が入ると、職場の同僚らで愚痴を言いながら記憶がなくなるまで飲むことも多かった。今はお酒の飲み方が変わった。部屋で、1人で飲む場合には、コップに1、2杯で十分だ」。

集落には、東京からの移住組もいて、食事に呼ばれることもしばしば。手土産は、自宅の庭で収穫した無農薬有機栽培の大根などの野菜だ。「とくに寂しさを感じることもない」という。田舎暮らしには、地元のしきたりや、集落の行事への参加など都会生活にはない煩わしさもあるといわれる。

だが、男性が住む集落は高齢化が進み、煩雑な行事や付き合いもあまりない。60代が「若手」に入る集落は40代の男性の移住を歓迎してくれ、いろいろと気にかけてくれるという。

自給自足的な生活は、賃金を得るための労働や通勤もないため、時間はたっぷりある。「やることの基準は楽しいか、楽しくないか。料理を作る場合も、ガスで料理するよりも火を点けて料理したほうが断然楽しい。最初はお金の計算が先行した面もあったが、今は持っているお金を大切に使いながら、なるべく楽しく生きていこうと思っている」。

「畑仕事をしたりして体を動かした後のお酒は最高にうまい。ギターを弾いたりする楽しみもあり、忙しくも退屈でもなく、ちょうどいい感じ」。夕食前には、年間5000円で入り放題の近くの公共施設にある温泉が毎日の楽しみだ。かつて弁当やお菓子を買いに行っていたコンビニは、公共料金を払いに行く場所に変わった。

世界を見渡せば、戦争や貧困に苦しむ国もある。また、格差社会が叫ばれる日本の都会では、働いても働いても生活費で消えてしまうワーキングプアという境遇に甘んじる人たちもいる。それでも男性は次のように語る。

「今の日本は、すごくいい時代。選択肢が多く、インターネットや物流の発達によって、情報やモノの面で、田舎でも東京と変わらないような暮らしを送ることができる。夏には爽やかな風が部屋に入り、東京では必須だったエアコンも必要ない。もしかしたら、こんな平和で恵まれた時代は、今だけなのかもしれない」

憧れだった田舎暮らしに踏み切るまでは、20年の歳月を東京で雇われの身として過ごしたが、「今となっては、この20年があってこそ、ゆとりのある田舎での生活のありがたさを感じられる」という。

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  • 名もなき戦人b4e73cfce3b7
    田舎暮らしは地域性によって住みやすさは変わります。
    自分の所は地獄でしかなかった。
    年間2万円の自治会費(何もしないのに)、謎の交通安全費(車1台につき500円/月)。

    常に誰かが付きまとい監視状態。
    「今日は何するんだ。」「遊んなでないで仕事しろ」

    自治会を抜けると突然の他所者扱い→近所から奇人変人と言われ迫害を受ける。

    引っ越しの挨拶回り。その地区、全員に行かされた。
    一番遠い人で車で10分程の場所も。もはや近所ではない。

    葬式は地区総出。
    全くの他人の葬儀に参列。行かないと近所から問いただされる。

    一週間に一回の公民館にての集会。
    夕方17時から開始。その地区の班長は全員参加義務。
    (自分も班長にさせられたが、仕事が19時に終わる為参加不可と発言。どうにかしろと言われ、嫌になり自治会を抜けたら迫害を受けました・・・笑)

    田舎暮らしは思ってる様な理想的な暮らしではないです。
    up759
    down73
    2020/1/12 09:31
  • 名もなき暇人f03200d002af
    メリットデメリットの比較ばかりに時間をかけて、結局何も行動しない大多数の人に比べたら100倍マシ。
    将来うんぬん言ってもどうなるかわからないし、どうせ独身だらけなんだから最期は孤独死になる人間が多い。
    消耗を強いられる都会生活に見切りをつけて、入念な準備をした上で隠遁生活を選んだこの人の選択は素晴らしいこと。
    憧れはしないけど、この人の今後を応援したい。

    それにしても、若いのに老後の心配wwwって笑わせる。
    明日どうなるかもわからないのに。
    言い訳ばかりつぶやいて、一生他人の人生を生きてればよろしい。
    up608
    down92
    2020/1/12 10:19
  • かかし3d4548346e17
    この方より一桁多い6万円暮らしを目標に田舎で5年暮らしてきた者です。いくつかコメント。

    まず賃借して腰を据えて家を探す、この方のアプローチは正しいと思います。一発購入はやめたほうが良いです。

    田舎の弊風をコメントされている方がいます。半ば正論と思います。残り半分は当人の日本人との人付き合い方の上手下手の資質によるのではないかと。都会や会社で人付き合いがうまいひとは、田舎に移っても同じ傾向があるのではと。相手は同じ日本人ですから。ちなみに、当方は下手を打つ方で、追い出されないのをもっけの幸いと思っています。

    この方が、このままの暮らしを長く続けられたらすごいなと思います。当方も当初は自転車のみ、川の水を用い、畑と猪の屠肉で自給し、暮らしていくことが日々の満足でした。が、3年目に車を貰い受け、田んぼを借りて手工道具も増え、時間があるので趣味の物も増え...と段々堕落?しました。
    up433
    down20
    2020/1/12 10:28
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