い(い)きる。

生きることは言い切ること。

「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」とか最初に言い出したのは誰なのかしら?

先日、こんなツイートを見かけました。

「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」

ラノベは会話が多く地の文も説明的なのでマンガより読むのが簡単」

こういう話を見るのは、実のところ決して珍しいことではありません。マンガの売上低下とラノベ市場の拡大(この認識自体がどこまで正確かはさておき)を説明するものとして、しばしば持ち出される理屈です。

個人的な印象としては、eyebrow salivaのひと言に尽きます(英検100級です)。能力的な意味でマンガが「読めない」若者がそんなに増えてるなら、漫画村があんな大繁盛するか?という素朴な疑問もありますし、そもそもマンガとラノベの市場規模に巨大な差が存在する(マンガ>>>>>>>>>>>ラノベ)事実を無視した説に思えます。

しかしこの時は説の信憑性とは別に、あることがふと気になりました。

「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」説を最初に言い出したのは、どこの誰なのだろうか?

細かいことが気になってしまうのが悪い癖であるわたしは(特命係所属です)、さっそくツイッターで調査を開始しました。

まず目についたのは、こういったツイート。

いしかわじゅん氏といえば、日本を代表する漫画家であり漫画評論家です。ラノベそのものについて詳しいかどうかは知りませんが、マンガとの関係において一家言を持っていても不思議ではありません。


漫画の時間

漫画の時間

これは早くも正解に到達か?と期待したものの、肝心の「いしかわじゅんの放言」そのものはなかなか見つかりませんでした。ツイッター内で検索に引っかかったいしかわ氏のラノベ関係の発言といえば、せいぜいこんなものぐらい。

ネットでの発言で削除済みなのか、あるいはネット外での発言なのか。いずれにしてもこれ以上たどるのは無理かな……と諦めかけていたところ、こんな情報提供が。

なるほどなるほど。マンガ夜話もしくはバンキシャ。完全な特定には至りませんでしたが、いしかわじゅん氏がTVか何かでそのような発言をしたこと自体は恐らく事実なのでしょう。

というわけで、「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」とか最初に言い出したのは、いしかわじゅん氏でした。めでたしめでたし。






と、単純には言えそうにない事情がいくつかあります。

一つはこのツイート。

典型的なマンガ読めないからラノベ読む説ですが、問題はこれがいしかわじゅん氏へのリプライだということです。既に削除されたのかそれとも、そもそも特定のツイートに宛てたリプライでなくメンションだったのかは分かりませんが、送り先のツイートは不明です。ただ、本人の弁によれば、ラノベとは特に関係がない、あくまでマンガ読者の減少に関する話だったとのこと。

いしかわじゅん氏に送られたリプライが純粋に偶然にいしかわじゅん氏自身の主張と一致する。そんなこともあり得なくはないですが、もっと簡単な解釈があります。

当該リプライは2010年のものですので、マンガ夜話は既に終了していますが、バンキシャなら出演中の期間です(たぶん……)。いしかわじゅん氏はこのリプライを元にして、バンキシャで「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」説を開陳した、という可能性はないでしょうか?

(ちなみにいしかわじゅん氏にはこの件について質問リプライを送ってみましたが当然のように梨のつぶてでした)

それからもう一つ。いしかわじゅんラインとは(少なくとも表向き)関係ないところから出てきている、「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」説が複数存在すること。

「 子どもたち

 子どもの活字離れが言われて久しいが、先日、あるライトノベル作家氏から不思議な話を聞いた。このところライトノベルに読著が「戻って」きているのだという。戻るとはどういうことだろう。一体どこから戻ってきたのか……。
 詳しく聞くと、それがどうもマンガから戻ってきているという話らしいのだ。
(略)
状況が悪化してラノベも読まれなくなり、「近頃の読者は本を読んでる、といってもじつはマンガがせいぜ い」といわれたときも、その流れの当然の帰結だと思っていた。これは美水かがみ『らき★すた』(角川書店)の主人公・泉こなた(超オタクの女子高生)が、マンガやアニメは大好きなのに、その原作のラノベは「文字がいっばいで読めない」ことともシンクロする。
 要するに字が読めない。文字を読むのが面倒くさい。絵だから理解が手っ取り早い。だから活字離れの表象として、小説→ラノベ→マンガという変遷が起こったのだと理解していた。
(略)
 そうか! きっと携帯で文字を読めるようになった子たちが、再び文字量の多い媒体に戻ってきたんだ! だからマンガからラノベという逆のベクトルが発生したんだ! もしかしたら次のステップでは小説が読めるようになる子なんかも現れたりするのではないだろうか!
 絶望的な話題の多い年末、一綾の光明を見出して興奮する私を、くだんのライトノベル作家氏は不思議な生き物を見るように見つめている。種明かしは以下の通りであった。
「最近、マンガが読めない子って結構いるんですよ。コマ割りってあるでしょう?つまりマンガっていうのは、一頁のなかに上から下、右から左という時間の流れがあって、それを追っていくことで物語を読み進めるわけですよ」
「ところが、今の子はコマ割りによって作り出される時間の流れ、言い方を変えるとマンガの文法みたいなものがわからない。一枚の紙(つまり一頁)を、ひとつの同じ時間平面としか捉えられない。だから最初のコマと中段のコマ、終わりのコマに同一人物が描かれているとパニックになっちゃうんですよ。え、同じ時間に同じ人が、なんで別の場所に行ったり、いろいろなことを喋ったりするの、って」
「その点、ライトノベルは右から左へ読んでいけば取り敢えず時間は順を追って流れるじゃないですか。マンガを読むより楽なんです。だから僕は時間の流れがさかのぼるような、たとえば回想シーンを入れたりするときは、きちんと章や節を変えて、ここから違う時間が流れ出しますよ、と読者に教えてあげるんです。そういうことに気をつけて書いています」
 話を聞き終わる頃にはグッタリである。果たして書物が衰退したのか、読者が衰退したのか……。
(二〇一〇・一二・一八)」


(元記事が消えているのでインターネットアーカイブから)

「娯楽でも (廃人2号)2008-12-04 13:44:45
(略)
最近マンガを読めない子供が増えています。
その為、説明的描写が多いライトノベルというジャンルが産まれています。
まあライトノベルの定義が定かではありませんが...日本語の娯楽コンテンツでこの有様ですから、実用的な英語力を付けさせよとするには画一的な学校教育では無理だと思います。」

この、池田信夫blog(に付いたコメント)が、今回の調査で確認できた最古の「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」説でした(2008年)

このような「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」論者が並立する状況を、一次ソースらしきものが複数あるのだから若い世代の傾向として事実なのだろうと素直に解釈するか、それとも、どこが最初であるにせよ聞いた話をアレンジして自分オリジナルの主張・エピソードであるかのように語ってる人が複数いるだけでは?と疑り深い目で見るか。それは、皆さんにお任せします。

(別々の人間がそれぞれまったく独自に思いつくような説とは考えにくい、と思うのだが……)

また、あくまでネット上限定、それもツイッターGoogleで軽く検索をかけて出てきた程度の話に過ぎないため、調査として不十分なことは言うまでもありません。この記事の読者の中に「今の若者はマンガが難しくて読めないからラノベを読む」の件について何か知っている方がもしいたら、コメント等で情報提供してもらえるとありがたいです。

ときめきメモリアル 伝説の樹の下で

ときめきメモリアル 伝説の樹の下で

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: コナミ
  • 発売日: 1996/02/09
  • メディア: Video Game