さてヤンが頭である事は当然として、元帥府副指令にメルカッツ上級大将、元帥府付陸上任務群司令官にオフレッサー上級大将、そして臨時昇進を果たしたメックリンガー
とりあえずは無難な人事と言ったところだろう。
「次にロイ、ミッター、ビッテン、エルンスト、ルッツ君、アージュ、アーディはそれぞれ正規編成の艦隊を率いてもらう。階級は中将だし問題ないだろう?」
公式的に言えばロイエンタール、ミッタマイヤー、ビッテンフェルト、アイゼナッハ、ルッツ、ワーレン、ファーレンハイトの七名だ。
半ば予想していたとはいえ、それぞれの形で喜びを出す七人の提督……非主流派として過ごしてきた日々を思えば、その喜びは
「私とメルカッツ先輩の艦隊をあわせて9個艦隊……勘定は合うだろう?」
そして次は当然、准将から少将に昇進したケスラー、もともと少将のシュタインメッツ、大佐から准将に昇進したキルヒアイス、元から准将のミュラーの番だった。
「ジークはまだ若い。しばらくまだ私の副官でどうだい? 第一、君が淹れた紅茶が一番舌に合うんだ」
「喜んで」
そう微笑むキルヒアイスは本当に嬉しそうだった。
准将が副官というのも贅沢に思えるが、ヤンの階級が階級だけに不自然とは思えない。
「カールは、旗艦艦長の続投ってことで。不満がなければね」
「まだ艦長席にも馴染んでないのに、早々と外されたほうが嘆きますって」
と笑うシュタインメッツ。
「ウルリッヒは情報参謀としては勿論、分艦隊を率いて私の本艦隊の一翼を担ってもらおうと思ってる。ああ、メックもミュラー君にもね」
「えっ!?」
そう声を発したのはミュラーだった。
反して落ち着いてるのはメックリンガーで、
「規模は?」
「差し詰め一人当たり5000隻。私が直轄で15000率いるよ。ああ、15000は他の正規艦隊の定数だと思っていて欲しい」
潤沢な艦数に驚きを隠せない提督たちだった。
分艦隊でも5000隻と言うのはかなり破格だろう。
「となるとヤンの本艦隊は30000、正規2個艦隊分か……少々多すぎやしないか?」
メックリンガーの言葉にヤンは首を横に振り、
「いや、アスターテで20000を率いてみたが、分艦隊司令官がまともなら存外に悪くないんだよ。それにメック、君達の能力を生かそうと思ったら、最低5000はいる」
「ふむ……」
髭をいじりながら何やら考え込むメックリンガーに、
「それに手元に30000あると、取れる戦術選択肢が格段に増えそうなんだよ」
「どうやらロクでもない未来が待ってそうだな……主に
だがメックリンガーは何かを思い出したようにフッと笑い、
「そう言えばヤンは、叛徒という言葉を好まなかったな?」
「覚えていてくれて幸いだよ。私は敵を無駄な優越感から過小評価をして痛い目に合いたくないんだ」
そしてあえて周囲を見回し、
「これは共通認識として持っていて欲しいんだけど……敵は
そう、なぜなら……
「帝国の人口は
☆☆☆
その後、キスリングも「元帥府付憲兵隊の隊長さんだよ」と紹介され、
「まっ、一つお手柔らかに頼むよ。ああ、ただし軍規違反がわかれば何一つ遠慮することはない。規律は美徳で重んじられなければならないものだからね……特に民間人と禍根や軋轢を残すような事例は優先的に対処してくれ。守るべき民に手を上げるような輩は放置できない。無論、階級や身分は考慮しなくていいよ? そのための憲兵隊なんだし」
と柔らかい笑顔でヤンに言われ、
「とはいえ、憲兵隊もいい人材を回してくれたものだね」
思わず恐縮してしまう一幕があった。
もっとも前世のヤンを知るものがいるとすれば、「お前が言うな!」と言われそうだが。
とはいえキスリングとて杓子定規の堅物ではなく、清濁併せ呑む気質だ。取り締まるべき軍規違反とそうでないものの区別くらいはつく。
そうでなければ、憲兵隊という手柄が立てにくい裏方にいながら弱冠20代で大佐などにはなれないだろうが。
「ああ、そう言えば全員に言っておかなければならないことがあったね」
ヤンは悪戯っ子のような顔で、
「この場にいる正規艦隊、分艦隊の提督には階級に関係なく”
”ざわっ!!”
一気に色めく提督達……それはそうだろう。
『自分だけの船を持つ』というのは、全ての帝国軍艦乗りのステータスであり、憧れであり、夢だ。
当然、そこへ至る道は厳しい。
なぜなら専用艦は、「皇帝陛下より下賜される」という形式がとられるため、大将以上でないと受けられないと不文律で決められていた。
実際、皇帝を憎んでいたラインハルトでさえ、下賜されたブリュンヒルトに子供のように喜びはしゃぎ、素直に受け取っていたほどだ。
そして彼はブリュンヒルトを溺愛し、生涯の愛艦とした。
「実はカールにガルガ・ファルムルの慣熟航海のついでに、船たちをまとめて引き取りに行って貰ってたのさ。もうオーディンの衛星軌道上に待機させてある」
ヤンの言葉にシュタインメッツは頷く。
「ただ、どの船を誰に渡すかの話をする前に、君達に伝えておかなくてはならないことがある。今回、君達に渡す船は、公式には”陛下より直々に下賜された船”って扱いじゃないんだ」
ヤンはクスリと笑い、
「表向きは『可愛い可愛い寵姫の兄が元帥府を開いたので、妹のおねだりで気をよくした陛下が祝いの品を大盤振る舞いした』ってことになっている」
ギョッとする一同にヤンは愉快そうな雰囲気を隠そうともせず、
「『
ガッハッハ!と笑い出したのは、
「おいおい
「まったくだよブラウベア。同じ帝国貴族として私も恥ずかしい限りさ」
と肩を竦めるヤンについにメルカッツまで低い笑い声を上げ始めた。
流石は上級大将のベテランコンビ、肝が座っている。
そしてヤンは再び見回し、
「まずはそういう状況に”
「何故?と聞いてよろしいですか? 閣下」
そう真っ先に口を開いたのはロイエンタールで、
「もちろんさ、ロイ」
ヤンはすっと瞳に宿る知性の濃度を濃くし、
「”思考は言語によって形成される”、さ。つまり言語にない概念は思考の判断材料にならない。食べ物の好き嫌いにどこか似てるね? 好き嫌いがないという人間は”食べたことがないもの”は好き嫌いの範疇に入らないもんだよ。存在すら知らないんだから当たり前だけどね」
ヤンが言わんとすることに首をかしげる一同だが、
「あっ……先生、そういうことですか?」
最初に合点に至ったのは、当然のようにキルヒアイスだった。
「ジーク、君が辿り着いた答えを言ってごらん」
ヤンは正解に至ったであろう愛弟子に促した、
「先生は……『門閥の若手貴族にわかりやすい状況を、
帝国と同盟の人口、人口比、経済比が原作に比べてちょっと変です。
銀河帝国:250億人→300億人
自由惑星同盟:130億人→180億人
人口比率(帝国:同盟) 250:130→5:3(300:180)
経済力比率(帝国:同盟) 48:40→5:4(50:40)
フェザーンの人口を加えてちょうど500億人、フェザーンの経済掌握は相変わらず10%なので……フェザーンを加えた人口比率が15:9:1、経済力比率は、5:4:1になります。
原作に比べ人口増加は帝国/同盟共に50億人ですが、同盟は人口比で原作を上回り、帝国は経済力比(+一人当たりの経済力)で原作より改善されているみたいです。
更に重要なのは、全体的に人口が増えてるので比率は上のとおりでも「経済規模自体が拡大」していますが、「艦隊数/観戦保有数から見た戦力」は”拡大した人口や経済規模に比べれば大きな差はない”って感じらしいのです。
バタフライ効果?