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 英国が欧州連合(EU)を離脱した。欧州の国同士が戦った第2次世界大戦後、平和を維持するために始まった欧州統合の歴史で初めて起きる「縮小」。EUの大統領として5年間、28カ国の調整に奔走した前・EU首脳会議常任議長のドナルド・トゥスク氏に、英国の離脱への思いや統合の行方について聞いた。

「ゲームは終わった」

 ――英国がまもなくEUを離脱します。

 「悲しい瞬間です。首脳会議常任議長としてあらゆる場面で、離脱をやめるよう説得を試みました。でも、昨年12月の英下院の総選挙で離脱という民意が再び示されました。ジョンソン英首相への圧倒的な支持は、ゲームが終わったことを意味します。悲しい理由は、第一にこれがEUの歴史上、初の離脱ということです。EU拡大はこれまで良好な歴史を歩んできました。ブレグジット(英国の離脱を示す英語の造語)は極めて重大な政治的な出来事です」

 ――かつて共産圏だったポーランドの政治家という視点からは、どう見えますか。

 「欧州をできる限り、平和でフレンドリーで協力的にする――。独裁体制の意味を知っているだけに、EUは平和のための最高の政治的発明だと信じています。EUは自由、人権、高いレベルの民主主義のシンボルでした。それだけに、EUを弱める英国の離脱は、つらいのです」

 ――離脱を問う英国の国民投票では、そうしたEUの価値観が非難の対象になる場面もありました。

 「確かに、ブレグジットは英国民の怒りの一つの表現であったと思います。EUが体現してきたリベラル・デモクラシー(自由と民主主義)への対立軸として、離脱が人々に支持されたという側面もあると思います。トランプ大統領が当選した米国の大統領選でも同じ現象が見られましたが、それはとても危険な傾向です。特に愛国的で孤立主義で、外国人を敵とみなし、反移民感情を高める。感情、怒り、恐れの融合です。問題の核心は反自由、反民主主義のメロディーが奏功してしまうことです。英国のEU離脱はまさにこうした言説に導かれました。今後、外国人嫌悪や反移民を訴えるナショナリストやポピュリストをさらに勢いづかせることになるのではと懸念しています」

最大の原因は「政治的ミス」

 ――英国はなぜ離脱を選んだと思いますか。

 「感情、伝統、国益がとても複雑に絡み合い、原因になったと思っています。ただ、最大の原因はキャメロン首相(当時)の政治的ミスです。国民投票があったのはユーロ圏の金融危機と、(地中海などを越え欧州に渡る難民申請者が年間100万人を超えた)移民危機の直後で、欧州が不安定で混沌(こんとん)としていた時でした。いわば最悪の時です」

 「キャメロン首相は、英国で台…

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