東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 放送芸能 > 紙面から一覧 > 記事

ここから本文

【放送芸能】

第92回 米アカデミー賞 格差描き注目 オスカー通、行方を占う

 第92回米アカデミー賞が9日(日本時間10日)、米ロサンゼルスで発表される。社会や映画界の今を映すといわれ、世界で注目されるオスカー。最高賞の作品賞には9作品がノミネートされ、現代の格差社会を描いた米韓の2作品が注目を集めている。ほかに第1次世界大戦や黄金時代のハリウッドを舞台にした作品も有力視される。テレビやラジオで活躍するオスカー通に占ってもらった。 (酒井健)

「パラサイト 半地下の家族」

写真

 作品賞は混戦模様。映画パーソナリティー伊藤さとりの一押しは、韓国作品「パラサイト 半地下の家族」。韓国では貧しさの象徴とされる半地下の家に住む家族と、金持ち一家との悲喜劇を描いたブラックコメディー。「韓国の超格差社会を深く掘り下げながら、家族の喜怒哀楽を詰め込んだ。世界的にヒットし、共感を呼んでいる」。作品賞をとればアジア初の快挙だけに「アカデミー賞も、より国際的な映画賞としてブランド力を上げるのでは」と力を込める。

「ジョーカー」

写真

 ベテラン映画パーソナリティーの襟川クロの予想は、ベネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得した「ジョーカー」。こちらも、格差社会を背景にした作品だ。貧富の差が広がる街で、貧しく優しい青年が周囲の嘲笑と無理解から孤立し、狂気のダークヒーローへ変貌する。「見ると落ち込むが、強烈なパワーがあり、記憶に残る。(アメリカンコミックスの名作ヒーロー)バットマンの宿敵誕生の秘話としての驚きもある」と理由を説明する。

「1917 命をかけた伝令」

写真

 今年もWOWOWの授賞式の生中継番組(十日午前八時半)で案内役を務めるジョン・カビラが、米国メディアの動向を踏まえ一番手としたのが「1917 命をかけた伝令」。第一次世界大戦、西部戦線の英国軍。大惨劇につながる進撃を止めるため、伝令の兵士が戦地を駆ける。一時間五十九分の全編を途切れない映像のように見せる「ワンカット」の手法が評価されている。「サム・メンデス監督の技量と緻密さに圧倒される。どちらかというと演技や演出より、技術的な素晴らしさ」と力説する。

 対抗馬は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」。一九六九年のハリウッドを舞台に、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが共演。落ち目の俳優とスタントマンの友情を描く。「米国の年配映画ファンには、かなり魅力的では」

◆ホアキンを絶賛 主演男優賞ノミネート

 主演男優賞は三人とも「ジョーカー」のホアキン・フェニックスで一致。「作品からは『もっと社会への希望を見せて』と感じてしまうが、ホアキンの演技はダントツ」と伊藤。「体の動きやせりふ回し、表情。狂気をここまで演じることができる人は他にいない」とカビラも絶賛する。

 伊藤、襟川の女性二人は、主演女優賞に「ジュディ 虹の彼方(かなた)に」のレネー・ゼルウィガーを挙げる。名作「オズの魔法使(まほうつかい)」(一九三九年)の少女ドロシー役で人気を博したジュディ・ガーランドの後半生を追った作品。襟川は「主演は久しぶりだが、復活と言っていい内容」。伊藤は「年を重ね、ジュディになり切る演技を見せてくれた」とたたえる。

 邦画のノミネートは、アニメを含めゼロで「残念」(カビラ)、「仕方がない」(襟川、伊藤)と三人とも言葉少な。期待されていた「天気の子」について「世界に通用するスケール感はある。新海誠監督の次回作に期待したい」と伊藤はエールを送った。

◆ネットフリックスから2作 「俳優と脚本に力」「機運が熟さず」

 世界の主要映画祭に動画配信大手「ネットフリックス(ネトフリ)」による秀作が登場するようになった。アカデミー作品賞へのノミネートは、昨年の1作品から今年は2作品に増えた。配信作品のオスカー受賞はあるだろうか。

 今年の2作品は、米国の裏社会の男たちを描く「アイリッシュマン」と、離婚調停に臨む夫婦の物語「マリッジ・ストーリー」。昨年はメキシコを舞台にした「ROMA/ローマ」が作品賞を逃し、監督賞を獲得している。

「マリッジ・ストーリー」

写真

 「マリッジ-」は、アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンが夫婦役。「2人の演技が素晴らしい。テレビドラマでもおかしくないテーマを、俳優と脚本の力で楽しませてくれる」と伊藤。マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演の「アイリッシュマン」を含め「きちんと志を持って映画製作をしている」と評価する。

 一方で「私も映画賞の審査員をしているが、映画館で見たいと思わせる作品に賞を出したいとなんとなく思う。ネトフリは新参者に見えてしまう」と指摘。「今はじっくり見せるタイプの作品が多いが、社会背景やテーマの面で、エッジの利いた脚本が出てくれば」ネトフリ映画の作品賞受賞もあると続けた。「アカデミー(賞の審査員)も、まだそこまで機運が熟していないのでは」と襟川もみる。

 カビラも、ネトフリ作品の質は高いとした上で「いつ作品賞をとるかという時代」と展望。「スペクタクルな作品は銀幕で見たい。ネトフリがその概念すら覆してくれるか、楽しみ」と語った。

◆監督賞

マーティン・スコセッシ 「アイリッシュマン」

トッド・フィリップス 「ジョーカー」

サム・メンデス 「1917 命をかけた伝令」

クエンティン・タランティーノ 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

ポン・ジュノ 「パラサイト 半地下の家族」

◆作品賞

「フォードVSフェラーリ」 1月10日

「アイリッシュマン」 ネット配信中

「ジョジョ・ラビット」 1月17日

「ジョーカー」 昨年10月4日

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」 3月27日

「マリッジ・ストーリー」 ネット配信中

「1917 命をかけた伝令」 2月14日

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」 昨年8月30日

「パラサイト 半地下の家族」 昨年12月27日

◆主演男優賞

アントニオ・バンデラス 「ペイン・アンド・グローリー」

レオナルド・ディカプリオ 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

アダム・ドライバー 「マリッジ・ストーリー」

ホアキン・フェニックス 「ジョーカー」

ジョナサン・プライス 「2人のローマ教皇」

◆主演女優賞

シンシア・エリヴォ 「ハリエット」

スカーレット・ヨハンソン 「マリッジ・ストーリー」

シアーシャ・ローナン 「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

シャーリーズ・セロン 「スキャンダル」

レネー・ゼルウィガー 「ジュディ 虹の彼方に」

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報