新型肺炎の原因であるコロナウイルスをクレベリンで退治するのは無理
武漢発のコロナウイルスが原因となった新型肺炎が世界中に拡散しています。このようなパニック寸前の状況になると、必要以上の恐怖を煽るもの、被害を受けないようにインチキ商品を売ろうと試みる怪しげな人々が蠢きます。
つい先日、知人である産婦人科医(@syutoken_sanka)さんがこんなツイートをしました。
クレベリンのラインナップを知らなかった私はこんなリプをしました。
そこで、室内に漂うウイルスや細菌を除菌するというふれこみのクレベリン(大幸薬品株式会社)について少々調べていたら、やはりいました、慌てん坊さんが。
「コロナウイルス99.9%不活性化!?クレベリン まだ買ってないの?」(https://www.youtube.com/watch?v=yW6cNF0c0ME)、薬機法を意識して微妙な説明に終始しているとことが、ある意味悪質かも。
このクレベリンという商品がコロナウイルスはもちろんのこと、室内のウイルスや細菌を除菌する効果は無い、と私が判断する理由を述べてみます。
そもそもクレベリンの除菌効果とは?除菌という医学用語はありません
除菌という言葉はクレベリン以外の商品でも多用されています。しかし、除菌という医学用語は存在しません。医学的に微生物による汚染を取り除くことは、「滅菌」と呼びます。滅菌は病原体・非病原体を問わずすべての微生物を死滅させることです。医学用語として「消毒」もあり、これは病原性微生物を死滅させ、感染のリスクを無くすことを意味します。
除菌は微生物の数を減らす、ことであり除菌されたから全ての微生物が死滅した状態にはなっていません。この除菌は洗剤業界が自主的に作った言葉であり、除菌されたことによって感染しなくなる、との考え方はリスキーです。
クレベリンの効果はエビデンスがあります、はかなり微妙なエビデンス
世の中でエビデンスという言葉が多用されています。私達医療関係者が「エビデンス」と発言した時の多くは根拠に基づく医療(Eevidence-Based Medicine、略してEBM)を意味しています。
ヘンテコリンな民間医療を見つけた場合、「それはエビデンスがあるの?」なんて感じの使い方ですね。
エビデンス単独の意味は「証拠」ですけど、エビデンスといっても信頼度が高いものから、信頼性が危なっかしものまであることに注意が必要です。
クレベリンは自社のHPでこのようなことを伝えています。
https://www.seirogan.co.jp/cleverin/より
このエビデンスが曲者です。
6畳相当の閉鎖空間で空気を撹拌(循環)させたところに、二酸化塩素発生装置を用いて空気中の二酸化塩素濃度を0.01ppmに保ち、浮遊するウイルスの一種と菌の一種の除去率を調べた結果、浮遊ウイルスは180分間で99%、浮遊菌は120分間で99%除去できることが確認できました。
日本防菌防黴学会 第41回年次大会発表(東京、2014)で発表されたようです。これで強気で「クレベリンはエビデンスがあるよ」発言につながっていることが予想されます。
消費者が受けとめる「エビデンスあり」は当然、ウイルスを退治する効果が実証された、でしょうけど。学会で発表しただけでは、効果が実証されたとは言い切れないのです
このようなプレスリリースもクレベリンは行っています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000004917.htmlより
このような記事を見かけたら、クレベリンがコロナウイルス感染を予防してくれると、前掲のユーチューバーの方が信じ込んでしまっても仕方のないことなのかもしれません。
でもねえ、これらのクレベリンがウイルスを退治することは無理であることを検証した、質の高いエビデンスがあるのです。
クレベリンの主成分である二酸化塩素で室内のウイルスを退治することは無理
二酸化塩素によって室内に浮遊するインフルエンザウイルスをやっつけることが可能なのかを検証した論文があります。結論として二酸化塩素を室内で使用しても、感染リスクの低下はほとんど認められない、と報告しています。
環境感染誌Vol.32 no.5.2017「低濃度二酸化塩素による空中浮遊インフルエンザウイルスの制御」より
一般社団法人日本環境感染学会によって発行されている学会誌であり、論文を投稿するにあたってCOI(利益相反)自己申告書の提出が必須となっています。
利益相反とはこのようなものです。
日本医科大学利益相反マネジメント委員会(https://www.nms.ac.jp/coi/rieki.html)より
一方、クレベリンの効果はエビデンスあり、の根拠の一部とする論文はこれ。しっかりとクレベリンの会社の人が研究に参加していることに注目を。
英文であることで、権威がありそうだと感じる方も多いでしょうけど。
この論文の要旨は日本語でクレベリンを発売している会社が公表しています。
http://www.seirogan.co.jp/uploads/arrival/pdf_409.pdfより
第三者が検証した研究結果と自社製品を大学と協力して得た研究結果の場合、信頼度は前者の方が高いのは当然ですよね。
さらにこの論文が証明しているのは試験管レベルの細菌類に関する研究結果です、室内にクレベリンを拡散させることによって、空気中のウイルスが除菌(ウイルスなんで菌じゃないけど)されることのエビデンスにはなり得ません。
なぜクレベリンがコロナウイルスを99.9%不活化するとの結果を得た研究は論文になっていないようです。私が見つけられなかっただけなのかもしれませんが、ひょっとするとやっぱり学会で発表しただけかも。
でもなんか変。クレベリンを販売している大幸薬品の2013年の学術情報の学会の項目(http://www.seirogan.co.jp/medical/news/2013)には、コロナウイルス99.9%を不活性化したことを日本ウイルス学会学術集会で発表したことが書かれていません。なんでだろう?
どちらにしても、前掲の信頼度が高いと判断される論文でバッサリと効果は否定されています。
クレベリンの主成分である二酸化塩素に関する国民生活センターの見解
このようなものを見つけました。
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20101111_1.pdfより
この報道資料には
二酸化塩素による部屋等の除菌をうたった商品は、さまざまな状況が考えられる生活空間で、どの程度の除菌効果があるのかは現状では分からない
と書かれています。
除菌という曖昧な定義さえクレベリンをはじめとした二酸化塩素を主成分とする除菌グッヅは、除菌作用自体が国民生活センターの実験によって不明と判断されているのです。
アンケート調査をエビデンスと呼べるのか?
クレベリンのサイトはこんな面白いことを効果の証明として掲載しています。
https://www.seirogan.co.jp/cleverin/cleverin/より
どのような医師103名に対して行った調査であるかも不明ですし、どのような方法で回答を得たのかも不明ですし、何名中103名の医師が回答に応じたのかも不明です。さらに「勧めたい」と「やや勧めたい」の割合も記されていませんし、この調査を行ったのが「リッチメディア」という会社なんです。
このリッチメディアは数年前に私と激しいバトルを繰り広げたトンデモ医療健康情報サイト「ヘルスケア大学」を運営していた会社だと思われます。
ヘルスケア大学を運営している会社の社長にも私は直接面談しました。
この後で、「営業妨害で訴えるぞ」との内容のお手紙を内容証明にていただきました。
クレベリンの効果を全く認めていない医師ならば、アンケート調査なんて無視するのが当然の選択でしょうし、医師監修と称したトンデモ医学健康記事と大量に増産していた会社のアンケートはある程度ネット事情に詳しい医師であったら相手にしないと思います。
このアンケートで「勧めたい」「やや勧めたい」と回答した103名の医師はクレベリンの主成分である二酸化塩素は滅菌はもとより消毒剤としても、医療業界では認められていないことをご存知だったのか非常に気になります。
クレベリンの安全性には問題あり
二酸化塩素の危険性をしっかり理解していたのでしょうか?日本では二酸化塩素を使用する際の安全基準は日本産業衛生学会の作業基準にも掲載されていないのです。
米国の基準としては疾病管理予防センターCenters for Disease Control and Prevention 略してCDC)はこのように二酸化塩素について記載しています。
https://www.cdc.gov/niosh/npg/npgd0116.htmlより
下の方に目や呼吸器系への影響が記載されており、肺水腫・慢性気管支炎などの原因になることが書かれています。
安全に使用できる濃度さえ明らかになっていない二酸化塩素を主成分としたクレベリンを無責任に推奨してしまう医師はトンデモさんの可能性が大です。
しっかりと除菌する濃度だと、人体に対して悪影響がある、なんてことも無いとは言い切れないと思います。
だから国民生活センターはこのような事例を公表しているのです。
国民生活センターの見解の後で広告における表現はそれなりに控えめにはなったとは思えますが、前掲のユーチューバーのような善意からであっても、そそっかしい人も出てきますので、注意が必要だと考えらます。
とにかく、クレベリンは除菌効果があったとしても、ウイルス感染を防ぐことは明確にはなっていないのです。
マスクの予防効果に関してはこのようなブログを書きました。
ひょっとして、手指についたウイルスを口や鼻から体内に入れることを防ぐ効果があるのでは、と考えこのようなブログも書きました。
ご参考になれば、うれしいです。