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詳細不明の新型コロナウイルスに政府がとるべき対応

合理的・科学的な政策と“演出効果”を含めた果断な実行が必要。筋近いな憲法改正論議

米山隆一 前新潟県知事。弁護士・医学博士

野党への責任転嫁、緊急事態条項への言及は筋違い

 最後に、新型コロナウイルス対策に関連して、政府・与党から「野党批判」(世耕弘成参院幹事長が29日、参院予算委員会の質疑中に立憲民主党の蓮舫氏の質問内容についてツイッターで疑問を呈しています)が飛び出したり、憲法への緊急事態条項への導入を求める発言が出たりしているのは、極めて残念だと言わざるを得ません。

確かに現在の検疫法は、

第2条(検疫感染症)
この法律において「検疫感染症」とは、次に掲げる感染症をいう。
① 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)に規定する一類感染症
② 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に規定する新型インフルエンザ等感染症
③ 前二号に掲げるもののほか、国内に常在しない感染症のうちその病原体が国内に侵入することを防止するためその病原体の有無に関する検査が必要なものとして政令で定めるもの
第14条(汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等についての措置)
検疫所長は、検疫感染症が流行している地域を発航し、又はその地域に寄航して来航した船舶等、航行中に検疫感染症の患者又は死者があつた船舶等、検疫感染症の患者若しくはその死体、又はペスト菌を保有し、若しくは保有しているおそれのあるねずみ族が発見された船舶等、その他検疫感染症の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等について、合理的に必要と判断される限度において、次に掲げる措置の全部又は一部をとることができる。
① 第2条第①号又は第②号に掲げる感染症の患者を隔離し、又は検疫官をして隔離させること。
② 第2条第①号又は第②号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者を停留し、又は検疫官をして停留させること(外国に当該各号に掲げる感染症が発生し、その病原体が国内に侵入し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときに限る。)。

と定め、政府が今般政令で指定した「指定感染症」、もしくは「政令による検疫感染症」では、感染の恐れがある地域から入国しようとしている人を一定期間施設に留め、感染の有無を確認する「停留措置」を行うことはできません。

 また、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」、通称「感染症法」は

第6条(定義等)
(8)この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。
第7条(指定感染症に対するこの法律の準用)
指定感染症については、一年以内の政令で定める期間に限り、政令で定めるところにより次条、第三章から第七章まで、第十章、第十二章及び第十三章の規定の全部又は一部を準用する。
第17条(健康診断)
都道府県知事は、一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し当該感染症にかかっているかどうかに関する医師の健康診断を受け、又はその保護者に対し当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に健康診断を受けさせるべきことを勧告することができる。
第18条(就業制限)
都道府県知事は、一類感染症の患者及び二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者又は無症状病原体保有者に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該者又はその保護者に対し、当該届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができる。
第19条(入院)
都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の患者に対し特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院し、又は当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。

と定め、健康診断は「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」に、就業制限は「感染症の患者又は無症状病原体保有者」に勧告・強制できますが、入院となると、「当該感染症の患者」に限定され、症状が出ていない人にこれを勧告・強制することはできません。

 検疫法は昭和26年、感染症法は平成10年にできた法律ですが、現在のように非常に多くの人が、飛行機に乗って短時間で国と国の間を行き来するという事態を想定しておらず、新型コロナウイルス感染症のような事態に十分に対応できるものにはなっていないのです。

 しかし、それは単なる法の不備であり、例えば検疫法においては、14条1項8号を追加し、指定感染症、もしくは政令による検疫感染症でも停留措置をできるようにすればよいことです。

 感染症法では、条文の文言上はやや苦しい所もありますが、

6条(定義等)
(9) この法律において「新感染症」とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。
53条(新感染症の政令による指定)
(1) 国は、新感染症に係る情報の収集及び分析により、当該新感染症の固有の病状及びまん延の防止のために講ずべき措置を示すことができるようになったときは、速やかに、政令で定めるところにより、新感染症及び新感染症の所見がある者を一年以内の政令で定める期間に限り、それぞれ、一類感染症及び一類感染症の患者とみなして第三章から第六章まで、第十章、第十二章及び第十三章の規定の全部又は一部を適用する措置を講じなければならない。

を用いて、政令で新型コロナウイルス感染症を「新型感染症」に指定すれば、法改正せずに、感染者に入院を勧告・強制できます。また、条文の文言に厳密であるなら、6条9項の「明らかに異なる」を「異なる」に改正等するなり、19条を改正して、指定感染症について政令で指定する期間、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」について、入院を勧告・強制できるようにすればよいことです。

 そういった必要事項に限った政令の指定、ミニマムな法改正であれば、政府にその気さえあれば、ただちに政令を指定し、改正法案を立案し、委員会での審議に付し、採決して公布・施行することは決して難しくなく、それほどの時間もかからないでしょう。そうしないのは、率直に言って政府の怠慢でしかなく、それに口をつぐんで、政府の新型コロナウイルス感染症対策が必ずしもスムーズに進んでいない責任を野党に転嫁し、憲法に緊急事態条項を導入する口実に使うのは、私には筋違いにしか思えません。

拡大新型コロナウイルスについて緊急事態を宣言するWHOのテドロス・アダノム事務局長(中央)=2020年1月30日、ジュネーブ

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

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