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詳細不明の新型コロナウイルスに政府がとるべき対応

合理的・科学的な政策と“演出効果”を含めた果断な実行が必要。筋近いな憲法改正論議

米山隆一 前新潟県知事。弁護士・医学博士

アウトブレークを防ぐ三つの対策

 そのためには、次に述べる三つの対策が必要だと考えられます。

 (1)現在アウトブレーク状態で、言葉は悪いですが感染者の供給源となっている武漢からの入国制限を講ずる必要があります。日本政府は1月31日になってやっと「湖北省に2週間以内に滞在歴のある外国人と、湖北省発行の中国旅券を所持する外国人は、特段の事情がない限り当分の間、入国を拒否する」旨の対策を発表しました。遅きに失した感はありますが、少なくともアウトブレークが続いている間は必要だと考えられます。とはいえ、「湖北省に2週間以内に滞在歴のある」ことは事実上、自己申告に委ねられています。2月1日に新型コロナウイルス感染症を指定感染症とする政令が施行されるのを契機に、必要に応じてさらに医師の診察と検査を義務付ける等の対策を取ることが求められます。

 (2)感染が確認された場合、患者を適切な環境で迅速に治療して、罹患期間を減らす対策を講じる必要があります。③で示した通り、新型コロナウイルス感染症には特別な治療は必要ではなく、対症療法を行うだけですので、幸いにして感染者数が限られている今のうちに、隔離ができる環境で重症患者を含めて対症療法ができる感染症病棟の確保を進めることが求められます。

拡大
 (3)感染確率を下げるためには、地味に見えて「手洗い・うがい・マスクの着用」等の感染予防対策が有効です。極論すれば、(1)(2)をまったく行わなくても、感染予防対策によって感染患者からの感染確率を51%低下させられれば、それだけでR0=2.0×0.49=0.98
となり、感染を制御できます。

 今現在、中国以外の国ではアウトブレークは生じておらず、新型コロナウイルス感染症による死亡者も出ていません。中国を悪く言うつもりも、楽観的な事を言いたいわけでもないのですが、国民の間で感染予防対策が普及している日本では、感染予防対策をより一層徹底すれば、それだけでも感染のアウトブレークを防げる可能性は決して低くないと思われます。

 つまり、(1)(2)(3)の適切な対策を迅速かつ徹底して実施すれば、日本においては、散発的な感染はあっても、アウトブレークを起こさず、不幸にして感染した患者さんの多くが治癒し、被害を最小限に抑えることは十分に可能であり、むしろそうなる可能性の方が高いのでないかと、私は思います。

適切な対応をタイムリー・果断に実行することが必要

 一方、実際に上述の(1)(2)(3)の対策を行うには、ただ単に政府が打ち出すだけではなく、現場が適切にそれぞれの対策を実行できること、すなわち、人々の不安が払拭され、社会全体がパニックに陥ることなく、冷静に対策を実行できることが必要です。

  そのために、「適切な情報の提供」が重要なのはもちろんですが、不安を感じている人に「不安になる必要はない」と言っても、不安は払しょくされません。とりわけ今回の新型コロナウイルス感染症のように、「適切な情報」を提供しようにもそれ自体が限られているときは、単なる「情報の提供」は「情報が限られている」ことを強調することになってしまい、かえって不安を増幅することにもなりかねないのです。

拡大武漢からのチャーター機で到着した乗客を搬送する救急車=2020年1月31日、東京都大田区
 この様な時、不安の解消に最も有効な方策は、「適切な対策の提示と果断な実行」だと私は思います。政府が新型コロナウイルス感染症の対策を着実に実行するためには、多少の演出効果をまじえ、(1)(2)(3)の適切な対策を、全体像が見える形でタイムリーに提示し、ただちに果断に実行することが必要だなのです。

 ところが現実には、政府の対策は今までのところ極めて中途半端でもたもたしており、国民の不安を払しょくするものになっているとは到底いえません。

 対策の中身自体ではないですが、政府がいったん「チャーター便の費用約8万円」を帰国者から徴収するという方針を示しながら、批判を浴びるや突如、政府負担とするよう方針を転換したり、206人の帰国者が待機するための客室を140室しか確保せず、一部で感染者と非感染者の相部屋になったりしたことも、「桜を見る会」での政府の不公平な扱いも相まって、政府への不信感をいっそう高め、社会全体での冷静な対策の実行を困難にする、極めて不適切なものだったと思われます。

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

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