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詳細不明の新型コロナウイルスに政府がとるべき対応

合理的・科学的な政策と“演出効果”を含めた果断な実行が必要。筋近いな憲法改正論議

米山隆一 前新潟県知事。弁護士・医学博士

完璧な水際対策は不可能

 現在、政府は新型コロナウイルス感染者を国内に入れない「水際対策」に躍起です。後述する通りその意義を否定するものではないのですが、上記の①の通り、新型コロナウイルス感染症では、症状の出ない軽症の感染者が多数いるとみられ、「完璧な水際対策」は実際問題、不可能と考えられます。

 仮に、「完璧な水際対策」を実現しようとすると、中国からの旅行者全員にPCR検査(遺伝子検査)を実施するか、中国からの渡航を全面的に禁止するするしかなくなりますが、その費用は甚大で、およそ現実的ではありません。

 また、仮にそれを実施しても、陸続きの東南・中央アジアやロシア経由で感染が入ってくる可能性を排除することは不可能です。地球上には77億人がひしめき合って移動しながら暮らしています。たとえは悪いかもしれませんが、我々は「地球」という動物園の唯一つの檻の中で、幾つかの群れに分れて暮らしている一種類の動物(人間)であり、ウイルスのタイプにもよりますが、一つの群れで発生したウイルスが他の群れに伝播することを完璧に防ぐ事は不可能なのです。

拡大チャーター機の第3便で羽田空港に到着した武漢からの帰国者ら=2020年1月31日

感染者数・感染確率を「臨界点」以下に抑えよ

 では、我々は新型コロナウイルス感染症に対して打つ手がないかというとそうではありません。

 感染のアウトブレークは、感染者数・感染率が一定の限度を超えると、感染が次々と連鎖して感染者が指数関数的に増加する、原子力発電における「臨界」のようなものです。逆に言うと、感染者数と感染確率を一定の「臨界点」以下に減らせれば、感染を制御することができるのです。

 上記の④で示した通り、新型コロナウイルスの感染者が治癒するまでの間に、新たに感染させる数である基本再生産数のR0は概ね2.0ですから、どうやっても感染は拡大してしまうように見えますが、仮に適切な治療で一人の感染者の罹患期間を30%減らして70%にし、「手洗い・うがい・マスクの着用」等の感染予防対策で感染確率を30%減らしてやはり70%に減ずればどうなるでしょうか。
R0=2.0×0.70×0.70=0.98
となり、感染は終息に向かいます。

 逆に、感染者数が一定の限度以上に増えてしまうと、治療がいきわたらずに罹患期間が延び、感染者と非感染者の接触機会が増えて感染確率が上がり、感染が急速に拡大して制御できなくなってしまいます。状況が分からないなかでの推測になりますが、武漢ではこの状況になっていることが危惧されます。

 これに対して日本では、1月30日時点で確認された感染者数は8人に過ぎず、「臨界点」に到達していないのは明らかです。とすれば、日本がやるべきは、散発的な感染や感染者の入国は避けられないことを前提に、感染者数と感染確率を「臨界点」以下に抑え続けることに他なりません。

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

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