色々キャラが出てきそうですが、まずトップバッターは……
第019話:”戦勝報告”
”アスターテ会戦”と呼ばれることになったこの戦いにおいて、帝国の評価はおおよそキルヒアイスの予想通りの評価だった。
”たった1個増強艦隊で倍以上の3個艦隊を破った稀代の英雄!”
”帝国の魔術師、叛徒共をアスターテより一掃!!”
”ヤン・ヴェンリー・フォン・ローエングラム伯爵こそ、帝国と貴族の強さと正しさの体現者!!”
まあ、最後の一つは多分にプロパガンダが含まれているものの、概ね帝国の上から下まで大勝利に沸きかえっていた。
エルラッハ少将の戦死という勝利に水を差す一事例があったものの、それは「大規模な艦隊戦に不慣れなエルラッハ少将が包囲のための突出のタイミングを間違えた」という結論がなされた。これが「命令無視の独断専行でヤン艦隊の進路に踊り出た」などと書くと大問題となり角が立ち、エルラッハのバックボーンであるリッテンハイム家と無用な波風を立てかねない。
それを回避しつつ、当たり障りのない「エルラッハのミスによる自滅」という結論を書き、ヤンに責任が及ばないようにしてるあたり戦闘詳報をまとめたケスラーの政治センスが光る。
ちなみに初戦でぶっ倒れアスターテからの帰還まで医務室で治療中だったシュターデンではあるが、「戦闘時における極度の緊張からの不可抗力」と看做され、特にお咎めなしとなった。ただし昇進は見送られたようだが。
ついでにあだ名が”理屈倒れのシュターデン”に次いで”戦場倒れのシュターデン”という二つ名が追加されたらしい。
そういう意味では門閥貴族トリオの中での唯一の勝ち組はフォーゲル中将で無事に大将への昇進を果たし鼻高々だが、ブラウンシュバイク閥の若手からの評価は……という感じだ。まあ、真面目に軍人続ける分には問題ないだろう。
残りは順当に昇進。メルカッツは上級大将に、ファーレンハイトは中将にそれぞれ昇進した。
キルヒアイスやケスラーはもちろん、ヤンも昇進となるのだが……まあ、それは後の話に譲ろう。
今回スポットライトを当てたいのは……
☆☆☆
ベーネミュンデ侯爵夫人邸
「はぁ……ふぅ……」
侯爵夫人の称号を持つ寵姫の館に相応しい整理の行き届いた広々とした自然公園と見紛う庭の一角で、化粧をした顔立ちの整った男が大の字で芝生に寝転がっていた。
特に大きな怪我をした様子はないが、呼吸は荒くさしずめ青色吐息と言ったところか?
オネエ系かもしれないが色男が台無しである。
そして、そんな男を刃を落とした練習用のサーベル片手に見下ろす、汗一つかいてないような涼しい顔の
「ねえ、”クルムバッハ”……貴方、少し剣の腕が落ちた?」
「そ、そんなことはないと思いますが……」
「デスクワークばっかりで鈍ってるんじゃないかしら? 衰えを歳のせいにするには、貴方はまだ若すぎるわよ?」
「
「そう? ジーク……ああ、私の弟分ね?もこのくらいはできるんじゃないかしら? まだ追い抜かせる気はないけど。普段からそれなりに鍛えてるし。あっ、でも潜った鉄火場の数はそろそろ負けてるかも」
穏やかな調子で何やら突っ込みどころ満載の会話をしているこの美女、名を”アンネローゼ・フォン・グリューネワルト”伯爵夫人……現在二人居る銀河帝国第36代皇帝”フリードリヒ4世”の寵姫であり、旧姓を”アンネローゼ・フォン・ヴェンリー”といい、要するに悠々自適な寵姫ライフを満喫中の”ヤンの
さてアンネローゼ、木陰に置いといたスポーツドリンクのボトルの一つを、ようやく上半身を起こせる程度に回復したオネエ……もとい。クルムバッハに投げ渡す。
その時、
「”アンネ”、相変わらず無駄にハイスペックな身体能力よね貴女ってば」
と後から褐色肌に黒髪の美女から声がかかる。
するとアンネローゼは嬉しそうな顔で、
「”シュザンナ姉様”、ご機嫌麗しゅう♪ それと結構、無駄じゃないんですよ? 実際、ドロテーアさんの一件では役に立ちましたし」
その返答に呆れ顔で返すシュザンナ姉様、公式には”シュザンナ・フォン・ベーネミュンデ”伯爵夫人。
つまりもう一人の皇帝寵姫である。
特徴はどんな理由からか妙にアンネローゼに懐かれ、しょっちゅう屋敷へ気軽に遊びにこられてしまう事。そんなアンネローゼを憎からず思っており、なんだかんだと世話を焼いてしまうことだろうか?
ちなみにシュザンナは韓非子の存在自体を知らないらしい。
「プロの決闘請負人に普通に勝っちゃう寵姫って、実際どうなのよ?」
シュザンナが言っているのはいわゆる”決闘者”のイベント、ハイドロメタル鉱山の利権を巡ってヘルクスハイマー伯爵にシャフハウゼン子爵が決闘を申し込まれた一件のことである。
ヘルクスハイマーはプロの請負人に依頼し、寵姫になりたての頃に子爵婦人に世話になった恩返しもかねて、シャフハウゼン側の代行者として決闘場に立ったのがアンネローゼだった。
アンネローゼは十分に勝算があった。
流石にフリントロック/先込め式のタイプは持っていなかったが……実はアンネローゼ、母親譲りの金髪が美しい可憐な外見とは裏腹に、趣味で火薬式の銃は拳銃から重機関銃までコレクションしてて扱いなれており、乗馬しながらの狩りもお手の物、早撃ちにも自信があった。
なんせ実家、ヴェンリー家にいた頃は敬愛MAXハートな
『たかが武装商船に毛が生えたような海賊船風情で、一昔前の
と女だてらに輸送船の積荷を狙う宇宙海賊やら何やらと殺り合っていたのだ。
よくこんなのが寵姫やってられるといっそ感心すべきか……あるいは帝国軍の艦長や提督に女性が居なくてよかったというべきか? 一体どこのエメラルダスなんだ? いや、エメラルダスは海賊の方だったか。
貴族のしきたりである決闘こそ初体験だったが、鉄火場、あるいは血と硝煙の匂いにアンネローゼは慣れっこだった。
伊達に荒くれ揃い戦闘艦乗りどもから、”鉄砲お嬢”とか”ガチ
見た目は温室育ちの可憐な花でも、中身は野育ちのタフな雑草……それがアンネローゼの本質というわけだ。
別の世界線の弟が見たら、喜ぶか嘆くか微妙なところだろう。
もっとも海賊やら暗殺者やら殺し屋やら誘拐犯やら強姦魔やらを返り討ちにしていたときの癖で、決闘の作法である手ではなくつい眉間を撃ち抜いてしまったのはご愛嬌だろう。
まあ相手の”黒ずくめ”もアンネローゼの心臓を狙っていたのでお互い様だろうが。
ヘルクスハイマーは当然、異議申し立てをしたが皇帝に「ふむ。何故そちは、我が寵姫に眉間を打ち抜かれる程度の代行人しか用意できなんだのか? 不思議だのう」と言われ押し黙るしかなく、報復したくともその後にヘルクスハイマー自身が”ある秘密”を知ったためにそれどころじゃなくなったようである。
まあ、その後の一件にもヤンが関わっているので、ヘルクスハイマーにとってヴェンリー一族は鬼門かもしれない。
それはともかく……
「ああ、そうそう。今、連絡来たけど……お兄さん、勝ったみたいよ?」
「当然ですわね♪」
アンネローゼ、どうやら本当に欠片ほども心配してなかったようである。
「あら、驚かないのね? 倍以上の敵が待ち構えてるって聞いてたけど……」
アンネローゼは同性であるシュザンナさえも見惚れるような笑顔で、
「兄を
今生のアンネローゼの身体能力=原作ラインハルトの身体能力?
下手すればそれ以上だったりして。