街の床屋さん、頑張ってください!

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 時代が変われば仕事も変わる。あんなに流行っていたものもあっという間に忘れ去られたり、あんなに街中にあったものもまったく見かけなくなったり、盛者必衰とはよく言ったもの。令和の時代、衰退の一途を辿っているのが「街の床屋さん」である。

 東京商工リサーチが発表した2019年「理容業・美容業倒産動向」調査では、理容業・美容業の倒産件数が1989年以降の30年間で最多となる119件。どの街にも一軒くらいある床屋だが、店内を覗いてみるとお客が入っていない様子をよく見かけ、厳しい現状が分かる。こうしたお店は、実際にどうやって経営を成り立たせているのか。筆者自宅近くの杉並区にある、古びた床屋さんに話を聞いてみた。

◆全盛期は1日20人もの客。現在は……

 駅から徒歩4分という好立地にその店はある。よく言えばレトロだが寸法通りにいうと古びた建物で、青山や表参道の美容室と違って中が見えない。窓には「TRENDY HAIR」と、時代の止まったキャッチコピーが掲げられていた。

 特に予約をせず飛び込みで来店してみると、50がらみの店主は「まさか」といったような驚いた表情で立ち上がり、イヤホンを外した(ラジオか何か聞いていたようだ)。

 散髪をしてもらいながら、お話を聞く。

――ここは創業何年くらいですか?

店主:50年とちょっとになると思います。父親の代からですので。

――2代目なんですね。ご自身に代替わりされてどのくらいになるんですか?

店主:父と二人でやってた時期もあるんですが、私一人になってからは20年経ちましたね。

――ここ20年、またお父様の時代から考えてお客さんの流れは変わりましたか?

店主:そうですね。昔は子供も大人もみんな来ていましたが、最近はもう子供はまったく来なくなりましたね。それから、若い男性もすごく減りました。

――若い男性が美容室に行くようになったということですか?

店主:それもあるとは思いますが、なにより景気の低迷ですね。景気が悪くなってからは、いわゆる「1000円カット」のような店に行っているようで。

――多い時はどのくらいのお客さんが来てたんですか?

店主:多い時は1日20人以上という時代もありましたよ。ですが、ここ何年かは…。それと昨年、母が大きな病気になりまして、私が介護をしなくてはならなくなり、5ヶ月間お店を閉めていたんです。今年の1月8日から再開したんですが、なかなか大変です。

――1日平均でどのくらいのお客さんが来るんですか?

店主:もう、ゼロという日がほとんどですよ。

――それ、やっていけないですよね…どうやって日々を過ごしているんですか?

店主:そうですね。バブルの頃に買っていた不動産が、二間だけなんですけどありまして。それを貸してなんとか。あとは、母の保険金を切り崩しながらという感じですね。

◆客が来なくても店を続ける理由

――他のこうした街の床屋さんも、苦労なさってるでしょうね。

店主:閉められるところも多いですし、出張でやられているところもあるようですね。

――それでもお店を続ける理由ってなんですか?

店主:本当にわずかですが、来てくださる地元の方のためですし、そして親が残してくれたものですからね。やっぱり、二人でやっていた時期もあったので、なかなか閉めるという気にはなれません。

 家族の思い出の詰まった店は、経済面だけでは手放せないワケがあった。建物は古びていたが、内装はリフォームされ掃除も隅々まで行き届いていた。機材もピカピカに磨かれてお客を待っている。30年近いキャリアをもつ店主の腕は確かで、美容室や1000円カットでは行われない髭剃りもしてくれるのが理容室だ。そこまでしてもらうと、単に「髪を切る」というだけでなく、「身だしなみを整えた」という気持ちになり、心も背筋もキリリとする。

 たまには、こうしたお店で身だしなみを整えてみてはどうだろう?<取材・文・撮影/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。