日本の教育が利権化した原因
執筆者は、元・文部科学審議官の寺脇研さん。あの前川喜平さんの先輩にあたる人である。
この記事には、「役人時代に言えなかったことと映画」という副題がついている。
そう、寺脇研さんは、この2月に公開予定のある映画のプロデューサーを務めており、それに関連して、現在の日本の教育が抱えている問題について記事の中で述べてくれている。
寺脇さんが文部省(現・文部科学省)に入ろうと決意したのは、大学3年生のときだった。
寺脇さんが高校生のときは、大学紛争が最も盛んだったが、寺脇さんはそれを見ながら、力で何かを変えようとするのは無理だろうと感じていたそうだ。
そんな寺脇さんは、高校時代はもっぱら映画をよく観るようになった。“力”よりも“文化”に惹かれたのである。
高校卒業後は東京大学の法学部に進学した寺脇さんは、あるとき、政治学者で行政学者でもある辻清明さんの行政学のゼミに入った。
そこは「官僚のあるべき姿」を説くゼミで、官僚は日本の教育や文化を変えることができると知った寺脇さんは、文部省へ入りたいという気持ちが大きくなった。
もともと寺脇さんは、中学生ぐらいのころから、些末な知識を何でもかんでも暗記して○×式のマークシートで回答する旧来型の学力テストに強い疑問を感じていたのみでなく、中学・高校を過ごした1960年代の、やれオリンピックだ、万博だ、アポロが月に行ったと騒ぐ、いわば“金と力”で世の中が動いていることに、強い違和感があった。
その違和感を解決するには、教育や文化で世の中を変えるのが最善かもしれないと思ったのである。
だが、現在は再び“金と力”がモノを言う世の中となってきている。
そして、あろうことか、“金と力”が教育を蝕みつつある。昨年の「大学入学共通テスト」に民間英語試験を導入する話(入試民活)などは、まさにその典型的な例だろう。
もともと今年で最後となる大学入試センター試験にしたって、その会場が自宅の隣の人もいれば、住んでいるのが離島で会場が無いという人もいた。つまり既に格差があった。
それでも国がやっていることだからと皆ガマンしてきたのだが、民間の試験だと、経済的に裕福な家庭の子どもは「腕試し」として何回も受けることが可能なために、元からある格差にさらに、裕福ではない家庭の子どもが不利になるという問題が生じる。
ところが入試民活のキーマンだと言われている下村博文(元・文部科学大臣)の補佐官は、すべて悪いのは旧弊な官の発想だとして、こんなことを言っている。
「国がやると準備期間がかかるし、開発費用もかかる。今のセンター試験の受験料の倍になる。ところがベネッセの試験を使えば6820円で済む」
寺脇さんに言わせると、この主張には何の根拠もないそうだ。
さらに寺脇さんはこう指摘する。
(以下、「紙の爆弾」2020年2月号より引用)
さすがに元通産官僚らしい発想で、結局、金の論理なんです。こちらは金と力は親の仇だと思ってるんだけど(笑)。しかも、下村さんもこの人も、ベネッセと何かと関わりがある。問題の始まりから“教育利権”と言われても仕方がない面がある。
(引用、ここまで)
つまり、この度の民間英語試験導入の話も、その根本にあるのは格差問題なのである。
現職の文部科学大臣、萩生田光一は、「自分の身の丈(=身分)に合わせて頑張ってもらえば」などと発言して大問題になったが、この男の貧困家庭の子どもに対する本音は「お前たちが大学行こうなんていうことは、身分不相応だ」ということなのだ。
そんなことを言っていたら、貧困家庭の子どもは、大学へ進学して勉強して、より良い未来を切り開くという道を、閉ざされてしまうではないか。
さて、寺脇さんが3年前から企画して、この2月から公開される映画『子どもたちをよろしく』には、30年以上文部省にいた寺脇さんが、役人の立場では絶対に言えなかったことが込められているという。
すなわち、貧困の問題を解決してくれない限り、学校や教育がどうやったってダメだという真実である。
この映画は、寺脇さんの後輩の前川喜平さんが新宿区歌舞伎町の出会い系バーで聞いてきた話などをもとに、隅田靖監督とともに脚本を練り上げたそうだ。
再び「紙の爆弾」2020年2月号から寺脇さんの発言を引く。
(再び引用)
映画の主人公の一人、洋一君は、ギャンブル依存症の親を持つとこんなことになるのかという典型です。それでも彼の父親は、夜には家に帰ってきますよ、パチンコ屋が閉まるから。でもカジノは二十四時間営業だから、依存症の人は一日中帰ってこない。そんなことも考えないで、日本経済の景気をよくするためにIRを作ろうという。いつまでそんなことを言ってるんだ。“ボーっと生きてんじゃねーよ!”と言いたい。まず政府に対して、貧困というものをどう考えるんだと訴えたい。
(引用、終わり)
まだ公開されていない映画の話題を取り上げるのは初めてでしたが、未来を担う子どもたちのためにも、世の大人たちよ、必見ですぞ。
【uzumasafilm】
映画『子どもたちをよろしく』
映画『子どもたちをよろしく』公式サイト
http://kodomoyoroshiku.com/
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