寒いのはイヤじゃ!!!
その日は朝から木枯らしが吹きつける寒い一日だった。
温かなコーヒーを飲みながら部屋の窓の外を見ている玉姫も外出するのに気が引けるほど寒そうだ。
そこにやってきたのは、小玲。
『玉姫、散歩に行きたいので、外を暖かくしてくれ』
屈託のない笑顔でいきなり言われ、玉姫は飲みかけのコーヒーを噴き出しそうになった。
「外を暖かく……??」
『そうじゃ』
「それはちょっと…。さすがに、季節や気候を変えるなんてできないわ」
『なんじゃと、できぬのか……』
小玲は驚いて目を丸くしている。どうやら冗談ではなかったようだ。
『ならば仕方ない。わらわにあの冷たい風が当たらぬようどうにかしてくれ』
「じゃあ、ダウンやコートを貸してあげるから――」
と、クローゼットから防寒具を取り出そうとするが、小玲は不満げだ。
『そんなものでは物足りぬ! もっと暖かになる工夫はないのか?』
「……だったら、私がストーブを持って、あなたに当てながら街を歩く?」
玉姫は冗談のつもりだったが、小玲は本気に受け取る。
『おお、それはよい! 是非そうしてくれ!!!』
「いや、あのね……」
『寒いままでは、わらわは出撃の際も外出せぬぞ! 暖かになるまでは外に出ぬ!!!』
(このワガママっぷり……久しぶりに聞くなあ……)
このお姫様はどれだけワガママを通して生きてきたのか――気が遠くなる玉姫。
だが、今後も出撃の時に駄々こねられても困ってしまう。
何とかせねばと頭を抱えたその時、外からあの声が聞こえた。
「外が寒いからって悪いことばかりじゃないのよ」
『?? どういう意味じゃ?』
「いいから行きましょう!」
嫌がる小玲を無理やり外に連れ出した玉姫。
寒空の下、今、二人は公園でホクホクの焼き芋を食べている。
あの時、玉姫が耳にしたのは焼き芋屋の声だったのだ。
「どう? 寒い中で食べる焼き芋はとっても美味しいでしょ?」
『確かに美味じゃ! これはたまらん!』
満足そうな小玲にホッとする玉姫。
(やれやれ。これで冬の外出問題は解決ね……)
しかし今後、玉姫は外出のたびに小玲に焼き芋をせがまれるという新たなワガママに振り回されることになるのだが……。