人工知能(AI)の技術が目覚ましく発展する中、2つのAIを競い合わせることで、より完成度の高い画像データなどを作りだす「敵対的生成ネットワーク(GAN)」と呼ばれる技術が近年注目を集め、実用化に向けた動きも加速している。ただ、本物と見分けがつかないほどの生成技術であるが故に、偽動画などに悪用される懸念も。技術の進歩で“リアル”と“フェイク”の境界がますます曖昧になろうとしている。(桑村大)
ゴルフ用品メーカー「本間ゴルフ」(東京都港区)のWebサイト。トップページには「Who am AI?」と書かれ、クリックすると秋冬の最新デザイン約50種を着こなすモデルが次々と登場する。
実はこのモデル、全員がこの世に存在しない架空の人物だ。AIが目や鼻、口元などを少しずつ変えながらCGで生み出している。
Webサイトを手掛けたのは、2017年に立ち上がったばかりの京都大発のAIベンチャー企業、データグリッド(京都市左京区)。最新技術のGANを駆使し、1万人に及ぶ実在しないモデルを作り上げた。
GANの仕組みはさほど複雑ではない。ジェネレーターと呼ばれるAIが“本物らしい”画像を作ると、ディスクリミネイターと呼ばれるもう一方のAIがその画像と実画像とを比べて真偽を判断。偽物だと見破った場合は、ジェネレーターがその原因を分析し、新たな画像を生成して再び対抗する。
2つのAIが「敵対的」に切磋琢磨することで、そのうち人間が見ても不自然に感じない、実物に近い画像が作られるようになる。データグリッドの岡田侑貴社長によると、同社ではGANを使って約1秒に1枚のペースで顔画像を生み出せるといい、「当初と比べて違和感のないほど完成度が高い画像が作れている」と自信をのぞかせる。
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