もしもフィオレがターニャ・デグレチャフを召喚していたら……
そんな思考実験の小説です。
設定は、web版、漫画版、書籍版を都合よく拾っています。
続くかどうか不明。
どうぞよろしく
――戦友諸君。
1. web小説、その後。
私、ターニャ・フォン・デグレチャフと申しますが、故あって幽霊同士で戦争をしております。
何故死後もあれほど行った戦争に参加しなければならないのか。
死後の安寧とは約束されたものでは無かったのか。
てっきりヴァルハラなる戦士の安息場へ送られると……そう思っていました。
思っていたらそうではありませんでした。
病院のベッドで病気療養のために寝ていたところ、事態が急変し、そのまま死んでしまいました。
享年6X歳。
そうして存在Xのところに送られ、なんやかんやあり、魔術と奇跡が存在する世界に、今度は更生のためにと送り込まれました。
善意の押し売りなど迷惑も結構なことですが、
そもそもマッチポンプをするような存在です。
あまり期待してはならないのでしょう。
ならば。
今度は武力を持って倒すしかない。
神を!神を倒す力を私は欲したもう
今となっては過去となってしまいますが、
その瞬間、私は暗闇から光に引っ張りだされた。
2.降臨
その日フィオレは、懐中時計を身につけていた。
投手であるダーニックの集めた宝石の中に、一際目を惹く懐中時計があったのである。
何故、そこに入っていたのかは分からない。
しかし、魔力が充電されているのが目に取れたし、手に取って見ると、よく装飾された銀細工のように見えた。
そして『何故か、そのまま首に掛ける気になった』
――それが自然かのように。
――それが、昔から自分のものであったように。
そうして、そのまま彼女は祭祀場へ向かったのである。
●
フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは困惑していた。
なぜならば目の前にいる圧倒的存在感を放つ英霊がヘラクレスでも、ケイローンでもなく、
『幼女』
だったからである。
「サーヴァント、黒のアーチャー。
聖杯の求めに応じ参上いたしました。」
纏う真エーテルはまごう事無い英霊のそれ。
近代のサーヴァントだろうか?
セイバーやライダーの鎧と違い、
着ている服はかなりモダンなデザインである。
素材は現代の大量生産品の化繊の繊維ではなく、灰色のウール。
右肩から胸にかけて釣られている飾緒の風格が、
我らがユグドミレニアと格の違う威光を放っているのが分かる。
何より我らの飾緒があくまで『飾り』なのに対して、
彼女のそれは風格、重み、伝統を感じる。
そして、左胸に輝くメダルの数々。
一つ一つが大きく精巧に作られており、何より威風の軽いメダルがない。
加えて、肩と襟の階級章らしきものには星が一つついている。
ステータスを視てみると、バラつきの酷さが目に付いた。
筋力:E
耐久:E
敏捷:B
魔力:A+
幸運:B
宝具:E~A+
筋力と耐久がEなのは、見た目相応というところか。
魔力がA+と、充溢しているのは評価できる。
宝具の使用や戦闘時にプラスに働くのは間違いなさそうだ。
だがしかし、全体で秀でているのは、宝具と魔力と敏捷だけ。
それ以外は、Eと平均以下である。
天を仰ぎたくなる気持ちを抑えて、スキルを確認する。
クラス別スキルは以下の二つ。
対魔力:-
魔導防殻:B
演算宝珠における防殻が使用される。
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
加えて、Bランク以下の物理ダメージを無効化。
Aランク以上のダメージはBランク分のダメージを削減する。
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
それ以外のスキルは4つ。
神性:E-
本人は神を否定し災いと考えているため、神性のランクが下がっている。
カリスマ:C
指揮官先導の精神が顕れたもの。
国家を運営するほどの力は無いが、一軍を率いるには十分な求心力を持つ。
生死を共に分かつ仲間を持つ。
気配遮断:E
サーヴァントではあるが、平常時は一般人程度の気配になることができる。
戦闘時にはこの技能はなくなる
魔導:A+
魔導兵としてのスキル。
筋力、耐久力が2段階上昇する。
航空魔導、狙撃術式、貫通術式、爆裂術式、デコイ、魔導刃、防殻術式、空間爆裂術式、全てを最高レベルで使いこなせる、
魔導なるものが魔術とはどう違うのか、
いまいち要領を得ないが、
物理スキルも発揮できる稀有な力なのかもしれない。
しかしこの低いステータス……。
――これからどうするべきか。
幸い通常の聖杯戦争ではない。
これはチーム戦だ。
加えて真正面から戦うだけが戦いではない。
アーチャーの高い敏捷と宝具の如何によってはヒットアンドアウェイの戦略も取れるだろう。
自己正当化をしようと躍起になる。
――漠々たる思考に身を沈めるうちに、
――黒のライダーが真名をアーチャーに迫った
黒のアーチャーがこちらを見る。
彼女が視線で確認を求めた。
私は頷き、首を立てに振った。
「小官は、ターニャ・フォン・デグレチャフ。
魔導将軍として祖国に奉職しておりました。
よろしく、戦友諸君」
その日、運命に出会う。
あの後、結局お互いにセイバー以外真名を名乗り、
信頼関係を確認した後、解散となった。
黒のセイバーは真名が致命的弱点になりうるとのことで、
一族の主であるダーニックと我らが王たるランサー以外には伝えられなかった。
思うところは無くもないが、今は目の前の彼女に対するべきだ
今はこうして、私の自室にいる。
ちなみにここまで車椅子は彼女に押してもらった。
現代に理解のある英霊らしく、
足の動かないハンデに対する理解もあるようだ。
しかし予想もしていないサーヴァントを引き当てた上に、
ステータスが総じて低い。
『三騎士』ともてはやされるアーチャーなのにも関わらずだ。
気がついたら、私がテーブル越しに彼女に冷たい視線を向けてしまっていた。
サーヴァントは使い魔とはいえ英霊。
人格もあるし、過去に偉業を成し遂げたが故に、
その誇りも高いという。
お互いに大事なファーストコンタクトなのだ。
魔術師としての合理的な判断からも初頭から相手を冷遇することは良しとはできない。
しかし、
――ユグドミレニアの次期当主としての誇り
――責任からあまりに低スペックなサーヴァントを引いてしまった重みに
精神を引っ張られている。
――そのせいか、口から出る声音が冷たいものとなる。
「私はこの戦い、ユグドミレニア次期当主として、絶対に勝たねばなりません。
また、私には責任があります。
あなたのスペックが低かろうと、
あなたにも責任ある戦いぶりが求められます」
――アーチャー、まずはあなたの目的を聞かせてください。
あなたも聖杯にかける願いがあって
この召喚に応えたのでしょう?
つい、詰問口調になってしまう。
――弱いがお前にも役に立たってもらわねば困る
気づいたらそう言外に伝えてしまっていた。
彼女は引き締めた口を開き、言葉を発した。
「お互いに積もる話もあるでしょう。
――セレブリャコーフ大尉はいるか!」
彼女が別方向を見て声をあげると、その方向から女性の声が響いた。
「はっ、戦闘団長殿!
セレブリャコーフ『少尉』、ここに!」
苦笑した様子でアーチャーは霊体化を解除して現れた少女に向かって言った。
通常サーヴァントは一人一人が個別に呼び出されると思うのだが、
彼女は一体……?
「ヴィーシャ、我々は公式には『戦死』しているのだぞ。
二階級特進だ。
貴官も今後は大尉と名乗るがいい。
ところで呼び出して申し訳ないのだが、
コーヒーを頼む。
私とマスターの二人分だ」
――とびっきりのを頼む
そうアーチャーが告げると、彼女はどこからかか見るからに旧式なコーヒーメーカーを取り出し、テキパキと動き始めた。
「副官がコーヒーを淹れております。
少々お待ちください」
●
少し待ってから出てきたコーヒーは大変美味しかった。
少なくとも、多少なりとも腹立ちを抱えていた私を落ち着かせるには十分だった。
強すぎない酸味と芳醇な香り。
後味の苦味も強すぎるものではなく、むしろ爽やかなものだ。
キレがいいというのだろうか。
気づいたらもう一杯と彼女の副官らしい女性にお願いしていた。
アーチャーも満更でない様子で足を組んでコーヒーを楽しんでいた。
ご機嫌だったようにも見える。
満面の笑みだった。
――コーヒー一杯でこんなに優雅な時間を過ごせるとは。
時計塔に留学して以来、本場に触れたせいか、気づいたら紅茶党になっていた。
――そう、思えるぐらいには気づいたらコーヒーに夢中になっていた。
お互いにコーヒーを堪能した後、
何故だか互いに共通の趣味を分かち合った者独特の余韻を感じた。
互いに楽器を持ちより、バンドとして見事な合奏を遂げた後の達成感と高揚感。
――そして充実感。
名残惜しいが頃合いだろう。
そう思って私から切り出した。
●
「先ほどはごめんなさい」
そう私のマスターであるらしい女性は切り出した。
どうにも私のスペックの低さに切羽詰まってしまったようだ。
確かに、威風堂々とした王者の態度を取るランサーや、
屈強な戦士であるセイバーと私は違う。
――三騎士ともてはやされるアーチャーにして頼りない容姿
――ピーキーなスペック
――魔術なのかもよく分からない魔導スキル
確かに私もこの大戦をこのサーヴァントで戦い抜けと言われたら、躊躇するだろう。
何より、私には他の英霊にはある実績なるものが無い。
存在Xによって理不尽に転生させられてしまった私にとってはまさにこの状況こそ逆境。
「アーチャー、あなたには他のサーヴァントと共同して行動してもらいます。
そして敵サーヴァントを打ち倒して貰う必要があります。
……あなたはできると思いますか?」
マスターは私の能力に不安があるらしい。
冷静になったとはいえ、自身が持てないらしい。
当然のことだ。
異世界から呼ばれたばかりの無名な英霊を使いこなすのだ。
実績も何も無いに等しい。
今、私に求められていることは、実績を作り上げること。
――ならば言葉など不要。
「小官は軍人であり、口舌の徒ではありません。
口舌での戦働きの証明は致しかねます」
●
「……は? 今なんて……」
思わず私は聞き返してしまった。
もっと大言壮語を語り、詩とともに歌う。
そして華々しい戦装束に、お互いに名乗りをあげる正々堂々とした立ち居振る舞い。
それが、
――英雄
私はそう思っていた。
――傲慢な人格
――汲めども汲めども尽きる酒
――女も手篭めにして強引に妻にし、毎晩女を代わらせる
そういった人間のことかと思っていた。
……が、現実に目の前にいるコーヒーを幸せそうに飲む痩せ細った少女にはとてもそうは見えない。
私が、動揺していると、彼女はその幸せそうな顔から打って変わって、口角が上がった猛禽のような狂気の笑顔で告げた。
「そうせよ、と。
――ご命令ください。」
その飢えている瞳、狂気を感じる吊り上がった口角を見たとき、
――私はとんでもないモノを召喚した
と、背筋が寒くなった。