こんにちは、スタッフ2号です。
前回のブログリレーから間が空いてしまいましたが、みなさん如何お過ごしでしょうか?
さて、実は昨年末、ガイドの机上講習会にてスポーツ専門の事案と山岳事故を扱う弁護士さんから「過失責任」についてお話を聞く機会がありました。
全て民事においての紛争(刑事罰に処さられることのない裁判)を想定していますが、かなり突っ込んだ内容が興味深かったのでご紹介したいと思います。
①登山道の整備について
なかなか一般の方が整備をする機会はありませんが、例えば日本山岳ガイド協会や信州登山案内人が所属している地元の母体団体、それに関連した遭難対策協議会(通称:遭対協)などでは登山道の整備を行っています。
これは各自治体からの要請に基づき行われ、かく言う自分も唐松岳頂上山荘直下にある「木橋」を1週間ほど掛けて作ったことがあります。
また、遠見尾根の草刈りや不帰キレットの鎖設置にも携わっています。
出典:唐松岳・五竜岳【強風T^Tでも最高の快晴\(^o^)/】
ヘリで部材を荷上げ。ここでホゾ等の加工をしてこしらえた。今は土台に石垣が積まれ、夏道も崩落により通行禁止。
その役目も終わりに近づいている。
ここで問題になるのは「もし整備した鎖が切れて事故が発生したらどうなるのか」「もし切り落とした枝が目に入り負傷した場合はどうなるのか」
こんな疑問が湧いてくるわけですが、みなさんはどう思われますか?
状況にも因るので一概には言えませんが、大概に於いて「整備側の責任」を問われるそうです。
ただし、行政などの後ろ盾があるのと無いのでは大違い。
そもそも、ガイド業を営むものは高額な請求にも耐えうるだけの「賠償責任保険」に加入していますし、プロとしての責任を全うするだけだと思うので仕方ないとも言えるでしょう。
けれども、あくまで個人的な理由で整備を行った場合はどうなるのでしょうか・・・ということです。
具体的な事例として、あくまでも「善意」に基づいて草を刈り、枝を落し、ロープを張っている場合。
本人は「いいルートだよな」「これを整備したら他の人にも楽しんでもらえるよな」というケースです。
しかし、万一、これが原因で事故が発生した場合は重過失を負う場合があるそうです。
ケースで考えてみると、例えば「岩場に張ったトラロープが切れて負傷または死亡」した場合。
トラロープというのは元来「登山用」ではなく、山中に放置されるものではありません。加水分解しやすく劣化も早いので、そのことは恐らく理解しているのではないかと思います。でも、登山用のロープは高いし、そもそも山は「自己責任」なんで大丈夫だろう・・・と。
しかも「善意」だし。
いやいや。
「自己責任」「善意」なんて便利な言葉は通用しないのです。
「当ルートは趣味で整備しているので一切の責任は負いません」という看板を山中で見掛けたことがありますが、こんなのも全く無意味。
しかも、行政や地主からの指示や許可なく勝手に木を切り倒したり枝を伐採することは違法以外、何ものでもありません。
(国の山林はその殆どが国有地または私有地)
また、看板の設置なども問題になるそうな。もし風であらぬ方向を向き、それがもとで道迷いに繋がったら・・・。
中には自分でトラロープを切って「切れた!」と大騒ぎをしたり、看板を破棄して「道に迷った!」と事を大きくする輩も現れたら大変です。
「君子危うきに近寄らず」
十分にご注意を。
②ラク!落石だ!
分りやすいように3つのケースをあげていました。
登場人物:
Aさん(山岳会のリーダー・男57歳)
Bさん(山岳会の会員・女40歳)
Cさん(山岳会の新入会員・男24歳)
(ケース1)
Aさんがつづら折れのガレ場を歩行中に落石を起こし、後方を歩いていたBさんの顔面に直撃。Bさんは顔を40針以上縫う大怪我を負った。
(ケース2)
Bさんが不安定な岩場を通過中に落石を起こし、後方を歩いていたCさんに直撃。足の骨を折る大怪我を負った。
(ケース3)
先頭を歩いていたAさんに変わって、ものは経験とCさんが先頭を歩いていた。
不安定なガレ場を通過中にCさんが落石を起こし、後方を歩いていたAさんを直撃。怪我自体は大したことなかったが、それがもとでバランスを崩し20m滑落。
全身5ヶ所の骨折を伴う重傷を負った。
さてこの場合。
誰がどんな責任を負うのでしょうか?
基本的には「落石を起こした人物」が賠償責任を負うことになります。
ただし、過失割合には大きな差があるようで、下記のような感じになるとのこと。
(ケース1)Aさんに非常に大きな過失割合。
(ケース2)Bさんにやや大きな過失割合。
(ケース3)CさんとAさんはほぼ同様かわずかにCさんに大きな割合だが、過失相殺が行われるケース。
Aさんはやはりリーダーということで大きな過失を負う「責任」が生じる模様。BさんとCさんは対等ですが、この場合はこの「事案」を発生させた人物に過失があると認定されるようです。
また、受傷側にも「注意義務」は存在するので相手が100%悪い!!なんて事態になることは少ないようです。
3番目のケースは「リーダーなんだから落石を予見することはできたでしょ」「滑落の危険性が高い場所だということは判断できた」「そういった場所で経験の少ないCさんを先頭で歩かせたのはAさんの責任」というリーダーならではの理屈が成立するそうな。
怖いですね。
明日は我が身・・・注意しましょう。
③セクハラ問題
これも3つのケースで説明されていました。
(ケース1)
Aさん(男57歳)がBさん(女性40歳)と登山中、AさんがBさんに対し「雰囲気が変わったね。髪切ったの?見違えたよ」と言いました。
これは果たしてセクハラに当たるのか。
(ケース2)
同上AさんがBさんに親睦を深めるため「飲みに行こう」と誘いました。
数回断られたのですが、諦めずに4回、5回と誘いを入れました。これはハラスメントに当たるかどうか。
(ケース3)
同上Bさんが新しく山岳会に入会したCさん(男性24歳)に対し冗談交じりで「イケメンですね。今度遊びに行きましょう」と誘いました。
Cさんは年が離れており違和感を感じたので断りましたが、その後、同様の誘いを数回受けています。これはセクハラに当たるかどうか。
みなさん、どう思いますか?
正解は・・・。
相手がどう感じるかによってですが、基本的に全てセクハラ!だそうです。
因みにケース2と3は可笑しなことに程度にも因るみたいですが、凡そ3回くらいまでは大丈夫とのこと(笑
それ以上になるとセクハラまたは付きまとい(ストーカー)と判断されるケースだそうな。
誘う側は大した意図がなくても、受け取る側の問題だから難しい。
誤解されるような行動は慎むのが一番ですね。
④ガイド業の問題
世の中には公認・自称を含めた「ガイド」さんが存在します。
公認とは前述の「日本山岳ガイド協会」や「信州登山案内人」の試験を受けて資格取得をしたガイドであり、自称とは何の資格も持たずに営業しているガイドさんです。
そしてこのガイド業。
本来であれば旅行業法に則った資格を持って会社組織を立ち上げていない限り、規定のガイド料金しか受け取ることができません。
そしてクライアント(お客さん)と自分を含めた山小屋の予約や現地までの送迎など、お金を取っていなくても報酬を得る業務内では法律で固く禁じられています。
ましてや交通費を徴収し、集合場所からガイドが用意した車に乗って移動なんてことはもってのほか。
俗に言う「白タク」行為。
道路運送法に思いっきり抵触しています。
あの手この手で補助費・手数料・会員費用などと言い方を変えていても、ダメなものはダメ。
ただ、これを知らない人は多いと思います。
万一、ガイドが運転する車で事故を起こした場合、上記①~③とは異なり本人事由による刑事責任が発生するため、ガイドが加入している賠償責任保険が下りないケースが考えられます。
山での事故も無資格の場合や、職能範囲を越えたガイド業務によっても同様。
ガイド自身は自業自得なので当然として、クライアントとしてはたまったものではありません。
当人は業務上過失致死傷で禁固刑、クライアントは泣き寝入り・・・。そういった事態に陥らないためにガイドさんの素性はしっかりと調べることをおすすめします。
【チェックポイント】
①ガイド本人の氏名(本名)が公開されているか
ホームページなどでガイド本人の氏名が明記されていないケースが散見されますが、こういうガイドさんは後述する職能範囲を偽っていたり、そもそもガイド資格を持っていないと思われるので止めた方が無難でしょう。
またハンドルネームで申し込みが可能などと言ったことは常識から大きく外れており、事故発生時に大変な事態を招くことになりますので注意しましょう。
②ガイド本人が取得している資格が明記されているか
実はガイド業って無資格でも営めます。ただし、何かあった時の保証や信頼度はまったく異なったものになります。
一番重要な部分は「ガイド業としての賠償責任保険に加入できない」ということ。
山での業務上の事故は通常の「賠償責任保険」では対応が不可能です。
あくまでも山岳地帯での「業務上」の賠償責任保険が必要です。
これは事故発生時に大きな影響を及ぼします。
③自分がガイドをしてもらいたいルートとガイド本人が所持している資格の職能範囲が合致するか
持っているガイド資格によって報酬を得たガイド業ができるエリアや環境(職能範囲)が限定されています。
例えば「自然ガイドステージⅡ」の資格では八ヶ岳や北アルプス・谷川岳などでのガイド行為は出来ませんし「登山ガイドステージⅡ」では雪が積もった山のガイドは職能範囲外となります。
逆に合格率が非常に低い「信州登山案内人」の場合、エリアは長野県内および県に付随するアルプス一帯と限定されますが、季節や登山レベルは限定されていません。
また、日山協(日本山岳・スポーツクライミング協会)の「スポーツ指導者」は日山協または傘下の団体が行う事業やイベント事の「指導」や「運営」をする資格です。
④料金範囲の確認
基本的に規定のガイド料金のみの受け取りになります。
交通費や宿泊費が含まれている場合は旅行業としての登録を済ませていない限り、旅行業法違反となるので避けた方が無難です。
また「会費」「補助費」「手数料」などと用途が不明な名目の場合は旅行業法からの言い逃れを主としたものです。交通費に充当されたり、ガイド料金以外に請求された場合には要注意です。
上記が大まかなチェックポイントでしょうか。
しかし、これはガイドを選ぶ側にも「下調べをする」責任があると言えます。
事故が発生してからでは遅いのです。
十分にご注意を、そして正確な判断を。
とまあ、何でも「自己責任」で片づけようとする最近の風潮。行政が行う「立入・通行禁止」措置に対して「自己責任で~」なんていうのも例外ではありません。
それだけでは済まない世界があるということを知って欲しいので、このようなブログを書いてみました。
世の中は意外にもドライです。
そして、ひと昔前の「義理人情」では済まされないケースも多々あるようですので十分ご注意下さい。
ではでは。
追記
ここに書かれている全てのケースは細かな状況や過去の判例により異なる場合があります。また、上記事案は④を除き「民事での裁判・責任」を想定していますので「刑事責任・刑罰」については触れていません。
ご注意下さい。