子供の頃、お年玉を貯めて買った顕微鏡で近所の池の藻を見るのが好きだった。思えば、昔の子供にとって顕微鏡で何かを見ることはプラモデル作りやラジオ作りと並ぶ「エキサイティングな遊び」のひとつだった。
そんな少年時代のロマンティックな「科学の心」を思い出させてくれる顕微鏡。世間では多くの人々が「レンズで拡大して見るあれだろ?」と思っている。しかし、レンズで拡大しても見えないほど小さなものを見るために、実にさまざまな顕微鏡があるのだ。
光学顕微鏡、電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡。科学がナノレベルに向かってどんどん発展していくにつれ、「レンズで拡大して見る」のではないさまざまな顕微鏡が登場してきている。
そんなふうに、顕微鏡に思いを馳せていたら、おもしろい研究所のことを思い出した。スペシャルな顕微鏡によって生命科学を極めていくという明確なテーマを掲げるWPI拠点、金沢大学ナノ生命科学研究所(以下、WPI-NanoLSI)。
我々WPI潜入チームは少年時代の科学の心を思い出しながら、一路、金沢に向かった。
「まずはこの映像を見てください。何だと思います?」
わっ、いきなりですね……うーん、何か踊ってますね。虫かな?
「実はこれ、タンパク質です」
タ、タンパク質……?
「じゃあ、こちらも見てください。何だと思いますか?」
歩いていますね。シャクトリムシみたいな……。
「タンパク質です」
えー! これもタンパク質! どうしてタンパク質がこんなに動いてるんですか!
「これが実態だからですね。我が研究所が擁する高速原子間力顕微鏡(以下、高速AFM)で見ることによって、タンパク質のこんな動きが分かってきたのです」
我々を出迎えてくれたのは、WPI-NanoLSIの松本邦夫教授(主任研究者)と柴田幹大准教授。
松本教授は肝細胞増殖因子(以下、HGF: Hepatocyte Growth Factor)と創薬に関する研究者、柴田准教授は高速AFMを使ってさまざまな細胞や分子を観察し続けている研究者である。
今回は柴田准教授からスペシャルな顕微鏡に関するお話をうかがい、松本教授からスペシャルな顕微鏡を駆使したHGFの研究についてうかがうこととなっている。