『ちぐまん受難』

※あくまで二次創作であります。公式とは違いますので設定等変わっている所もあると思いますのでご注意くださいませ。

ACTORS二次創作ショートノベル

『ちぐまん受難』

放課後。学園のいたるところに設置されたスピーカー。そこから流れる倖乎の声。この放送は放送部が行っている活動のひとつで、リスナーとなっている生徒は多い。考古学準備室にて部活動に勤しんでいた三毛と甲斐も、作業しながらこの放送を流し聞きしていた。

『え~本日から始まるトークコーナー天翔学園ゲーム解放区、最初のゲストは……なんと丸目千熊先輩でぇ~す』

『えっゲーム!? あ……よ、よろしくお願いします』

倖乎に引き続き、なんとも自信なさそうな千熊の声がした。

「はぁ!? 千熊なにやってんだ。来ねぇと思ったら……」

三毛は予想外の出来事にうっかり立ち上がってしまった。その拍子に座っていた椅子を倒してしまう。

「ちぐまん先輩が放送部の番組出てるなんてねぇ。びっくりだよぉ」

「なんだお前も知らなかったのか」

「うん。今日はいつも通りの時間に来るって言ったよ」

『丸目先輩はぁ、どんなゲームが好きなんですか?』

『う~ん、な、なんだろうなぁ。しょ、将棋とか……』

『アナログですねぇ。テレビゲームとかはどうです?』

『ゲ、ゲーム……はは、あんまりやったことないし』

「あはははちぐまん先輩ウソついてる」

「ごまかすのに精一杯って感じだな。てかなんで隠してるのにわざわざこんな番組出てんだよ。バカなんか!?」

三毛は呆れた。

「たぶんね、芦原先輩に頼まれたんじゃないのかなぁ。ちぐまん先輩って頼み事断れないしねぇ」

「にしてもこれは選ばなきゃダメだろが」

「三毛くんどうしよう?」

『丸目先輩は携帯ゲームとかやらないんです?』

『携帯ゲー……あ、あんまり……』

『じゃあスマホゲームは?』

倖乎はしどろもどろになってしまう千熊に、ひたすら質問を浴びせる。

「マズイな。ちょっと連れ戻してくるわ。ありゃ無理だ」

「そうだねぇ。僕も一緒に行くよぉ」

考古学準備室からあわてて飛び出す三毛と甲斐。

「おや? お前らどうした? そんなに慌てて」

準備室から出たあたりで、顧問の鷲帆が非常階段のほうから上がってきていた。

「今から千熊を連れ戻してきます。あいつピンチっぽくって」

「ああ、この放送か。確かに丸目には都合が悪い展開だな。なるべく穏便に解決してやれよ」

スピーカーから流れる声を見るかのように鷲帆は天井に目をやった。

「了解しましたぁ」

事態を理解し苦笑いする鷲帆にふたりはそう答えると、駆け足で千熊救出に向かっていった――。

遡る事30分前。

午後の授業が終わるチャイムが鳴る。どの教室も騒がしくなり、ぞろぞろと生徒たちが教室から出てくる。いつも通りの風景。その生徒たちに紛れて放送室に向かうのは葦原倖乎と湯山靖隼のふたり。放送部の活動は放送室で行われるからだ。

放送室は部活目的のそれとはまた違った役割を持つため、視聴覚室などと同じ場所にある。倖乎たちの移動距離は長くなくすぐに到着するが、すぐに部活動を始めたいためいつものように少々早足で向かう。

「トークで使うエフェクトなら手持ちのスマホで十分だろ」

「せめてタブレット使わせてよぉ。安いのでいいからさ」

「もう予算ほとんど残ってないんだが」

「その予算誰が使ったんですかぁ?」

「放送部だろ」

「そういう言い訳許さないよ~。DJミキサー購入に充てたいって言ったの靖隼でしょ」

「お前も便利だーって喜んでるだろ」

「僕が喜んでる機能はもっとグレード下げてもあったやつですぅ。有無を言わせず一番高いの選んだのは誰ですかぁ」

「……いいよ分かったよ。タブレット買ってもいいが予算足りないぞ」

「足りない分は小遣いで何とかするよ~」

「まあ頑張れ」

「いえ~い勝ったぁ! 久々の勝利! ううう僕、やりましたぁ~」

「よかったな」

「あ、そうそう。ねぇ靖隼」

「なんだよ」

「新しいコーナー始めようと思ってるんだけどさ」

「どんな?」

「面白いゲームを熱く語ったり、ゲスト呼んでみたりとか」

「倖乎ってゲームやってたか?」

「少しやってる程度だけどねぇ。ほら靖隼は好きでしょ?」

「俺任せかよ。やだね喋る気ないぞ」

「そこはゲーム好きのゲスト呼んだりしてさ、いろいろ聞いたり語ってもらうの」

「それならいいが。あてはあるのか?」

「大丈夫じゃよ~。倖乎様のネットワークを甘く見るでないぞ」

「で、最初のゲストは誰にすんだよ」

「一応リストは作ってあ……わわわあれ!?」

「どうした?」

「ほらあそこ! すっごい人いた!」

倖乎が嬉しそうに反対側から歩いてくる生徒に指を差す。

「あれ……丸目先輩だ」

「!」

靖隼は倖乎が指差した先を見ると声を出す事さえできず驚いた。
目の前の集団となっている生徒たちの中心に千熊がいたのだ。彼に幾人もの生徒が付いて来ておりそれで一団となっていたようだった。

「ねね、声かけてみようよ?」

「あんなに取り巻きがいるのに声かけんのかよ。無理だろ」

「成せばなる成さねばならぬ何事も……丸目センパーーーーイ!」

「おいこら倖乎やめろ」

靖隼の制止を聞かず、倖乎は一直線に千熊のもとに駆けていく。

「あ、芦原くんじゃない? それに湯山くんも。こんにちは」

千熊は二人に気付くと優しく微笑んだ。

「こ、こんにちは!」

少々声が裏返ってしまった靖隼。それを見て倖乎がニヤニヤしている。

「丸目先輩、こんなところでどうしたんですか?」

「職員室に用事があってね。その帰りだよ」

「先輩、もしよかったら放送部寄っていきませんか!?」

取り巻いていた何人かの生徒が怪訝そうな顔をする。
それを敏感に感じ取った靖隼が焦るが、倖乎はそんな事お構いなし。

「ん、まぁ……ちょっと待って。時間あるかな……?」

「おい倖乎、丸目先輩を困らせるな。迷惑だろうが」

「あはは。えっと……まだ時間あるからお呼ばれしちゃおうかな?」

「ほんとですかぁ? やった~」

「無理言ってしまって先輩マジすみません」

「気にしないでいいよ。僕もお誘い嬉しいしね」

「うう、丸目先輩神過ぎる。後光差してる……眩し過ぎる……」

靖隼は思わず千熊を拝んでしまった。

「うわ!? 靖隼が壊れたぁ~」

「こ、壊れたの!? 大丈夫!?」

「いえ自分は至って正常です。当然の反応です」

「そ、そうなんだ」

「ささ、丸目先輩行きましょ~」

そう言いいながら倖乎は千熊の腕をつかむ。

「わわっ!? み、みんなまた明日ぁぁぁ……」

千熊は倖乎に引っ張られながら、それまで一緒にいた生徒たちに苦笑いしながら小さく手を振った。
そして去り際に靖隼は申し訳なさそうに彼らにお辞儀をしたのだった。

「――いやぁ三毛くん助かったよぉ」

三毛らに救出された千熊は余程いっぱいいっぱいだったのか、解放され気が緩むとその場にしゃがみこんでしまった。

「ちぐまん先輩大丈夫?」

「うん。もう大丈夫だよぉ」

倖乎たちに連れられて放送室を訪れた千熊は、話の流れで放送部のトークコーナーに出演することになってしまっていた。三毛は鷲帆からの緊急の呼び出しがあると嘘をつき、千熊を半ば無理やり放送部から連れ出していたのだった。

「ったく、助けに行かなかったらやばかったぞ」

「そうだね。バレちゃうとこだったよ」

「ちぐまん先輩、なんであんなコーナー出ちゃったんですか」

「頼まれちゃってねぇ。でもゲームの話をするコーナーだと思ってなかったよぉ。てっきり考古学部の事を話するもんだと……」

「脇が甘すぎ。ちゃんと確認とっとけよ」

三毛はやれやれといった表情で千熊を叱った。

「心配かけてごめんね。でも芦原君たちは悪気ないからね。僕のゲーム趣味知らなかったんだし」

「そうだけどな。じゃあ助けた代わりに今日のノルマ俺の分もやってもらおうか」

「もぉ~そういういじわる言わないの。三毛くんの言うこと聞かなくていいですからね」

「えへへありがと。でもなにかお礼しないとね」

「そうだな報酬はコーラでいいわ。1.5な」

「甲斐くんはなにがいい?」

「じゃあ僕はヨーグルト系で」

「わかったよ。戻る途中購買部寄っていこう」

「やったぁ」

「あ、鷲帆先生の分はコーヒーでよかったっけ? 部室で待ってるでしょ?」

千熊はそういいながら立ち上がったのだった。

END

はじめ適当に倖乎と靖隼のやりとりに千熊絡めたシーンだけ書こうと思って書いてたんですよ。でも場面転換しようとしたところの切り替えがいまいちで、これじゃ書き上げてもしゃーないので時系列いじってみた結果、三毛甲斐出てきていつのまにかメインが誰か分からなくなるという主人公不在の事態に。まぁいいや。

比率変えたおかげで千熊が攫われたヒロイン役になっとりました。救出する王子は三毛という配置。気の向くままに書いたらこんなふうに収まるとは……しかし制限なく自由に書けるって楽しいですね。放送部のふたりはまた改めて書きます。