中国・武漢市からチャーター機で帰国した邦人二人が、症状がないのに新型肺炎に感染していた。政府の監視態勢の早急な見直しが必要だ。感染の封じ込めへ状況の変化に機敏に対応したい。
チャーター機で帰国した邦人のうち発熱などの症状のある人は医療機関に収容された。だが、症状のなかった二人は帰国後、他の帰国者とホテルに宿泊していた。政府は無症状の感染者を想定していなかった。対応に不備があったと言わざるを得ない。
同じ便で帰国した別の二人は検査を拒否し帰宅した。法的な権限がない以上、強制はできない。
チャーター機に同乗した検疫官は会見で「検疫は一方的にやるものではなく、相手があって成り立つ業務」と協力を訴えた。後続便で武漢から帰国する人も含め、人権に配慮しつつ粘り強く検査や健康観察への理解を得るべきだ。
政府の監視態勢全体の見直しも迫られる。現在は、症状がでて医療機関を受診した人を把握、患者と接触した人を同時に特定して健康状態を観察している。
重症者からの感染が主だった重症急性呼吸器症候群(SARS)は医療機関で把握できたが、無症状の人は医療機関を受診しないためそれが難しい。空港などの検疫も擦り抜けてしまう懸念がある。
無症状の人が感染源になるか否かは不明だが、厚生労働省は「否定できない」という。今後は患者急増を想定して監視の網を広げるなど対策を強化する必要がある。
政府は新型肺炎を感染症法上の「指定感染症」に指定したが、強制入院などの措置は感染が疑われる人が対象で、無症状の人は対象外だ。症状のない人への対応は今後の感染症対策の課題だろう。
国内でも武漢からの客を乗せたバス運転手ら人から人への感染が確認された。症状のない人からも感染する可能性があるとなると、さらに不安が増しかねない。
だが、国内では広く流行が認められているわけではない。SARSより致死率は低いとされ、重症化は糖尿病などの持病のある人に多いことが分かっている。
過剰に心配せず、予防に有効なマスクの着用や手洗い、うがいの徹底に心掛けたい。
ウイルスについては不明な点が多い。疫学調査や研究を通してワクチン開発や簡易検査キットの開発が待たれる。
国際社会は既にワクチン開発に着手している。日本も知見を集め積極的に協力したい。
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