いだてん

IDATEN倶楽部

2019年23

「好きなものを撮る──それがいい写真を撮るための第一歩です」

濱田英明さんはインターネットにアップした写真が評判になり、世界中にファンがいる写真家。おもにフィルムカメラを使用することにこだわり、独特の人物や風景の世界観も人気です。そんな濱田さんに今回、「いだてん」オリンピック予選会のロケ現場に3日間密着撮影していただきました! IDATEN倶楽部では、撮りながら感じた「いだてん」や、SNSで映えるすてきな写真を撮るためのコツなど、さまざまなお話を聞いてきました。

▶︎「いだてん」公式Instagram
濱田さん撮影
“オリンピック予選会のスペシャルフォト” 公開中!

東京オリンピックは世代を超えて共有できるビッグイベント。その意味でも「いだてん」はすばらしいドラマになると思います。

──「いだてん」ロケの模様を撮影してみた感想はいかがでしたか?
本当に楽しみにしていたドラマだったので、オファーをいただいたときはすごくうれしかったですね。現場では、役者さんをはじめスタッフの皆さんが一丸となってドラマをおもしろくしていこうという気持ちが伝わってきました。たとえば、役所広司さん演じる嘉納治五郎が、あてにしていた三島弥彦(生田斗真)から融資を断られて卒倒するシーン(第4回)。あの役所広司さんが何度も倒れる練習をしていたんです。倒れ方一つとっても試行錯誤を繰り返し、自分なりの嘉納治五郎を追求している。そのストイックさに心動かされました。

──濱田さんが感じている「いだてん」の魅力とは何ですか?
まず、2020年に東京オリンピックを控えた、このタイミングでやるというのがすばらしいと思います。絶対に今年しかできない題材ですよね。個人的にも東京オリンピックが楽しみなんです。世代を超えてたくさんの人が共有できるビッグイベントになると思うし、2020年をキッカケにしてみんなが未来を描けるような気がしているんです。いまの時代の節目の出来事になるだろうオリンピックにみんながどう関わって、オリンピックが開催される時代をどう表現していくのか興味があったので、オリンピックを題材にした「いだてん」というドラマ自体も楽しみですし、そこに携われることがうれしいですね。

──「いだてん」ロケで撮影するときに気を付けていたことはありますか?
ドラマの一場面を切り取ったような写真とは違った視点になるように気を付けていました。実際に被写体に対する撮る角度もそうなのですが、ドラマ本編を見ているだけでは気付けない「いだてん」の断片や側面というものに注目して撮影しました。ドラマのお話とは少し離れた写真にはなりますが、それを見ることで視聴者の皆さんが自然と想像をふくらませていけるような写真。これはドラマの現場に限ったことではなく、いつも心がけていることなんです。見えていない部分にこそ大切なものがあるんじゃないかと思っているので。見落としているものをすくい上げることで多く人が自分ごと化しやすいきっかけになったり、見た人の中で物語が立体化していくといいなと思っています。

「好きなものを撮る」「好きなものこそ一歩下がる」

──濱田さんのようなすてきな写真を撮るためのコツがあれば教えてください!
たとえば構図など、誰か好きな写真家のまねをして技術を身に付けることももちろん役に立つと思いますが、いちばん見失ってはいけないことは、“好きなものを撮る”っていう気持ちです。それはほとんど答えは決まっていて、家族や恋人のようないとおしい存在だったり、本当に大事にしているモノだと思っています。そういう対象はほかの誰でもない自分にしか見えない瞬間があるはずなので、その感覚を大切にしてシャッターを切れば、その人にしか撮れないすばらしい写真になるはずです。

──SNSで高評価を得るコツはありますか?
写真を“自分だけのもの”にするか“他人と共有したいか”という意識の持ち方で大きく変わってきますね。誰かに見せることを考えるのなら、その写真を見た人が想像をふくらましていける余白があるかどうかが大事です。たとえば、目の前にあるペットボトルを写真で表現しようとしたとき、極論を言ってしまえば対象物となるペットボトルが写っていなくてもいいんです。そこにあったということが伝わればいい。ではそのためにどうやって撮るか? 同じように人を撮るときも表情を中心に考えがちですが、むしろ後ろ姿だけでもいい。もしそれがうまくできたら、写真を見た人が能動的にペットボトルの存在や、人の表情、感情のイメージをふくらませることができるんじゃないかと思っています。難しいとは思いますが、そういう考え方もあるということを知っておくだけでも違うと思います。

──人を撮ると、どうしても大体同じような写真になってしまうのですが……。
一般的に、友人や家族、恋人などを撮るときって、その対象との心の距離感がそのまま表れてしまいがちなんです。たとえば、親が撮る子どもの写真なら、かなり顔の表情に寄ったものになりがたちです。そんなときは、全体的に一歩引いてみてください。好きなものこそ一歩下がる。人間の目ってほんとうは無意識的にもっといろんなものを見ているはずなんですよ。ここだと思った場所から一歩下がる。ちょっと画に余白を作ることを意識すると少し変わってくると思います。

自分にとって当たり前の中に才能がある。

──濱田さんが写真家になったのは、アップしていた写真がインターネットで評価されたからだと聞きました。
そうですね。本当にラッキーでした。趣味で撮っていた写真に海外のユーザーから評価をいただいて、そこから写真の世界に飛び込みました。

──もともとカメラを、仕事にしたいと考えていたのですか?
いや、そういうわけではなくて。ただ好きで撮ってただけなんです。前の仕事に違和感を覚えていて。でも、そんなときに周りの人から趣味だったはずの「写真が良い」って言ってもらえた。それまで自分に写真が向いてるなんて考えたこともなかったのですが、初めて自分がシャッターを切っているときは何のストレスも感じていないことに気付いたんです。そんなふうに、向き不向きって自分では気付けないんだなって。自分が当たり前だと感じているものの中にあるっていうか。でも誰かに自分でもわかっていないような価値に気付いてもらうには、やり続けるしかない。今はインターネットがあるから誰かがその価値に気付いてくれる可能性が増えました。もし今、息苦しくて生きづらいと考えている人がいたら、少しそんなふうに考えてみてほしいですね。自分では気付けない当たり前の中に、才能が隠されているかもしれないですから。
濱田さんのお写真は、「いだてん」公式Instagram で公開中! こちらもぜひ、ご覧ください。

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