いだてん

IDATEN倶楽部

2019年1215

「ストップウォッチが金栗さんのスタートから押されていたのはうれしかったな!」(中村勘九郎)
「ホスト国となりコンゴからたった2人の選手を迎え、交流を深めたのは感慨深いです」(阿部サダヲ)

「いだてん」を駆け抜け、泳ぎ切った主役のお二人に思い出深いシーンや、ついに迎えた最終回についてうかがいました。

田畑政治が目指したオリンピック

阿部サダヲ(以降:阿部)
1940年の東京オリンピック招致にあたって、田畑さんは河野さんに「オリンピックは運動会だよ単なる。あんなものは2週間かけてやる盛大な運動会。それ以上でも以下でもない」と言っていました。オリンピックは政治が介入しないスポーツの祭典だという田畑さんの理想が込められたセリフなのですが、僕もシンプルにそれでいいんじゃないかと思っています。
中村勘九郎(以降:中村)
そういう田畑さんのストレートすぎるオリンピックへの情熱と、純粋におもしろいことをやりたいという思いこそが、嘉納治五郎先生との共通点。金栗さんにとってのオリンピックは選手目線なので、それこそ田畑さんのセリフじゃないけど「マラソンで勝ちたい」という気持ち以外はなにもないんです。
阿部
田畑さんと金栗さんでは全く違った視点でオリンピックを見ていたんだなぁ。
中村
そうなんです! だから金栗さんにはない視点でオリンピック招致にまい進していた田畑さんが頼もしく、それだけに組織委員会を外されてしまったときはやりきれない気持ちでした。
阿部
田畑さんを演じる僕としても、あんなにあっけなくこれまで積み上げたものが崩れるなんてと、台本を読んだときは驚きました。でも、田畑さんの敷いたレールは着実に夢の実現につながりました。1912年に金栗さんと三島さんの2人だけで始まった日本のオリンピックが、1964年にはホスト国となり、たった2人のコンゴ選手を迎えて彼らと交流を深める流れは感慨深いですね。彼らが母国に帰りスポーツを広めて、いつの日かオリンピックを開けたら。そんなふうに平和の祭典が広がっていけたらいいんじゃないかな。

それぞれのラストシーン

阿部
2人のシーンは最終回もおもしろかったですよね。金栗さんが聖火リレーの最終ランナーについてネチネチした男に(笑)。
中村
勝手に最終聖火ランナーを目指して走り続けていただけなんですよね、金栗さん。それなのに往生際が悪いというか…(笑)。嘉納先生が絶対的な存在だったので、とにかくオリンピックに関わっていたかったんでしょう。
阿部
田畑さんは嘉納先生の手紙を読まされて、途中で読むのをやめちゃうんだけど、結局、金栗さんが暗記していて…(笑)。ほんと笑える!
中村
これが最後の共演シーンになりましたね。ラストシーンといえば、半世紀以上もたって、金栗さんはストックホルムオリンピックのゴールテープを切ったんですよね。「ゴールを要請します」という手紙を出すなんて、スウェーデンのオリンピック委員会、すごくおしゃれ。金栗さんもうれしかったでしょうね。
阿部
印象的なラストでしたよね。それが史実なんだから本当にすごい! 田畑さんのラストはくるっと回ってストップウォッチをうっかり押しちゃうというシーン。それが金栗さんのゴールに重なるという。
中村
ストップウォッチについては、いつから押してたんだろうとずっと気になっていましたが、ストックホルムオリンピックで金栗さんがスタートした時でしたね。うれしかったな!
阿部
田畑さんを演じた僕としてはやっぱり東京オリンピックの閉会式のシーンが実に印象的でしたね。各国の選手が入り乱れて入場した場面は、田畑さんが目指したオリンピックを象徴しているようないい光景だったなと思います。1932年のロサンゼルスオリンピックのときはあれだけ「メダル、メダル」と言っていたのに、1964年の東京オリンピックになると「メダルを取れない選手も一生思い出になる大会」を目指している。それってすてきな変化ですよね。

完走&完泳

中村
来年はついに、東京に2度目のオリンピックが来ますね。僕らが「いだてん」で演じたスポーツとオリンピックの歴史が今につながっているんだと実感します。
阿部
最終回の撮影をして来年のオリンピックの開会式がたくなりました。田畑さんを演じた以上は選手村にも行ってみたいですね。
中村
僕はやはり陸上を観に行きたいと思っています。それに、自分自身が走ることも続けていこうかと。フルマラソンは走ったことがないので、どこかでこっそり走りたいですね! 1年間、金栗さんを演じてスポーツの見方がずいぶんと変わったなと思います。
阿部
「いだてん」を通して近現代史に興味を持ったり、スポーツについての視点が変わったりといろんな変化がありましたが、やはり数多くの役者の方々と共演させていただいた経験は何ものにも代えがたいですね。
中村
役者がいて、落語家がいて、歌舞伎役者がいて、ミュージシャンがいて、“和製アベンジャーズ”のような現場でしたよね。1年間、ひとりの人物を演じるという経験はそうはできません。ですから、金栗さんと出会えたこと、宮藤官九郎さんが生み出した多くのキャラクターと出会えたことは一生の財産です。
阿部
役所広司さんとお芝居をさせていただいて光栄でしたし、ふだんは会えないミュージシャンや歌舞伎役者の方たちとご一緒できたことは貴重な経験でした。また、ショーケンさん(故・萩原健一さん)との共演は、一生の思い出です。

IDATEN倶楽部トップへ