いだてん

IDATEN倶楽部

2019年121

東京オリンピック開催に力を注いだ
岩田幸彰と東 龍太郎を演じて

1964年の東京オリンピック開催に向け、田畑と二人三脚で歩んだ岩田幸彰と、オリンピック知事と呼ばれた東 龍太郎。そんな2人を演じた、松坂桃李さんと松重 豊さんに、田畑の魅力、そして岩ちん、東龍とうりゅうさんの思いをうかがいました。

《Theme1》役柄について

岩田幸彰さんはヨットでオリンピックを目指していたスポーツマン。戦争で夢を諦めたものの、オリンピックには並々ならぬ強い情熱を抱いています。その情熱の源は田畑さんの人となりにひかれたからだけでなく、「たとえ裏方でもオリンピックに関わりたい」という熱量と、彼の挫折があったからなのだと知ったとき、役に気持ちがグッと乗りました。また、岩田さんは田畑さんの右腕として活躍された方。いわば、田畑さんありきの岩田さん。田畑さんの言動をいち早く理解し、応じる岩田さんを演じるにあたり、ドラマの中の関係性のように、阿部サダヲさんのお芝居の動きに僕自身も柔軟に反応したいなと思っていましたね。
僕が演じる東 龍太郎さんは1964年当時の都知事で、東京オリンピックを成功に導いた人物。田畑の情熱に突き動かされる形で都知事となり、さまざまな思惑が飛び交う政治の世界へ足を踏み入れました。もともと東京帝国大学のボート部出身でスポーツ医学の権威、一人でコツコツやっているほうが好きな学者肌タイプ。いろんなところで「人柄がいい」と書かれているので、何か起こるとやり玉に挙げられるようなポジションに就いたことで、相当ご苦労があったのではないかなと想像しています。 ただ、1940年の東京オリンピック返上を、スポーツマンとして、体協メンバーとして同志の田畑と同じく悔しい気持ちで受け止めており、いつか再び東京オリンピックを実現させたいと情熱を燃やしていたと思うんです。その一歩であるオリンピック招致を成功させるためには、関連するポストを身内で固めることが大きな力になることから「晩節を汚しても」と役割の一つとして引き受けたのかもしれませんね。それほどまでに、まーちゃんとオリンピックを実現させたかったというのは、演じていて人間ドラマとして共感できました。

《Theme2》田畑政治の人物像

田畑さんは、“嵐”のような人。本来ならば嵐は避けたいものですが、田畑さんにはどこか巻き込まれたいと思わせる魅力があるんですよね。チーム田畑は、それに魅了された人の集まり。たとえ無理難題でも、田畑さんに言われたら絶対楽しいことが待っていると思って断れませんからね。

また、田畑さんはそれまでの空気をガラリと変えてくれる存在。何か行き詰まっていても、田畑さんが「なにぃ!」と言うだけでネガティブだった気持ちが、「やってやるぞ」と前向きに変化します。それは、何より演じた阿部さんの魅力があるからだと思います。阿部さんがひと言発しただけで、その場のムードが一瞬でできあがる。役者として本当に勉強になりました。阿部さんのお芝居を間近で見られたのは僕の中でとても幸せな時間でした。
同志の田畑は東の対極ともいえる個性の持ち主。田畑がせっかちで失言だらけなのに、皆に慕われ、事務総長としてオリンピックを牛耳れたのは、誰よりも強いオリンピックへの愛と情熱的で憎めない性格によるものだったのかもしれません。オリンピックをキーワードに、戦前、戦中、戦後の日本のスポーツをヒューマンドラマとして描いてきた「いだてん」においては、1940年の東京オリンピック返上、そして敗戦を経て立ち上がり、再び日本にオリンピックを招致した希代のカリスマですよね。 ただ、行動も発言も思い切りが良すぎて、いつもギリギリのところにいる感じがするんですよ。今よりも比較的、世の中が寛容だった当時ですら事務総長の座を追われてしまったのですから、現代に生きていたら舌禍事件でもっと早く潰されているんじゃないかな。 そうは言っても、田畑のようにある意味、策士的で勢いのある人物は、どこか魅力がありますよね。戦後の日本を動かしてきた人びとは政治家であれ、財界人であれ、力業で世の中をかき回すような人が多いですし、日本人はどこかでそんな強い存在を求めているようなところがあると思うんです。そういう大物は大概、失脚してしまいますが(苦笑)、それでもひきつけられるパワーを持っているなと改めて感じました。

《Theme3》田畑政治の失脚

1964年東京オリンピック開催に向け、招致活動から田畑さんと共に歩んできた岩田を演じ、田畑さんの失脚にはひたすら悔しいという思いがこみ上げてきました。敵は多くても、オリンピックに人生をささげてきた人がさまざまな圧力で外されてしまう…。チーム田畑はみんな、無力さを感じたんじゃないかな。でも、裏組織委員会が開かれるようになって、田畑さんにオリンピックの話をすると本当にうれしそうな顔をするんですよね。それを見て、「やっぱり田畑さんについてきて良かったな」という気持ちが自然と湧きました。

田畑さんのように、まわりの顔色をうかがうことなく自分のやりたいことや意見を押し通すことができる人はすごく強いですし、何かをなし遂げる人はこういう人なのだと思います。どこか冷めているように感じることもある今の社会、田畑さんのような存在にとてもひかれますね。
立場上、ずっと一緒にやってきた田畑とたもとを分かたざるをえなくなってしまった東。「いだてん」では寝業師・川島正次郎の暗躍によるところが大きくクローズアップされていますが、結局はオリンピック招致委員会と政府が抱えた国際問題の責任を取らされたということですよね。いろんな政治状況の混乱が田畑一人に集まってしまい、東としては一緒にいるのに、手を差し伸べることができなくなってしまった。謀略かもしれないと感じつつも、この問題を処理しないことには先に進めないと追い詰められ、東も決断を下さざるをえなくなったのでしょうね。 これまでの関係が崩れるような出来事だっただけに、とても難しいお芝居でしたが、川島さんに杯を突きつけられて「それは困る」と言いながらもつい飲んでしまい、田畑の辞任について反論ができなくなる様子を描いたことで、人間ドラマとして合点がいくところに落ち着くのかなと思いました。また、その後、田畑家で開かれている裏組織委員会の楽しげな様子を垣間見ながら声をかけられず、酒瓶を落とした場面は、東のしゅん巡する心の内が表現されていました。いはしてしまったけれど田畑を友として慕う東の本心が伝わって、全てが救われる気がしました。

《Theme4》ここが見どころ!

宮藤さんの脚本は、緊張と緩和のバランスがとても絶妙です。緊張感のあるシーンだと思っていざ現場に入ってみると、全員緊張したお芝居をすることによって思いがけず笑いが起きることもありました。そして、キャラクターそれぞれが個性的です。激動の時代を生き抜いた人たちの輝き放っている魅力を、時にストレートに、時に変化球でクスッとなりながら感じられるのはこの作品の見どころの一つです。

「いだてん」に出演し、東京オリンピックの裏側を疑似体験させていただいて、当時、考えをふりしぼってオリンピックという“日本最大の祭り”を盛り上げようとした人たちがいたことを実感しました。岩田としてそこに参加できたことは本当に光栄でした。
これまで何度か大河ドラマに出演してきましたが、これほど肩の力を抜いて取り組めた作品はありませんでした。大河といえば、まずふん装して歴史上の人物になるという作業が必要で、カツラをつけ、装束に着替え、現代とは違う言葉づかいで話す。いわゆる時代劇って、実はものすごく肉体的に負荷をかけて挑んでいるんですよね。 でも今回はヒゲをつけて役の気分を味わうだけで、衣裳も洋服。宮藤官九郎さんの台本はどこかホームドラマのような部分もあり、会話はテンポよく、笑いもあって、全ての面でリラックスして現場にいることができました。 でもその分「大河ドラマって何だろう」と演じる側として考えさせられました。戦国時代や幕末など今につながる歴史の背景を描いていくのが大河ドラマだとしたら、現代の僕らが背負った歴史とは間違いなく第二次世界大戦を経て復興してきたこれまでの時間なんですよね。ですから、今の自分の立脚点をしっかりして、大河ドラマなりのお芝居をしたいとは心がけていました。そうやって演じるのはやはり新しい挑戦でしたし、とてもおもしろかったですよ。 大河ドラマの台本を読んで声を上げて笑ったのも初めての経験。宮藤さんが描かれる台本の軽妙さと言葉のタッチ、そしてこの世界観が非常に新鮮で、そのなかで東として楽しく生きさせていただき光栄でした。

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