いだてん

IDATEN倶楽部

2019年1124

「川島もオリンピックを成功させたい一人なんです」

圧倒的な存在感を見せつけた“政界の寝業師”川島正次郎。常にナンバー2として政界に君臨し、時代を動かした川島を演じる浅野忠信さんに、役作りや大河ドラマについてうかがいました。

「川島なりの正義があるのだと思います」

政界の「寝業師」「策士」と呼ばれる川島正次郎は、田畑政治にとって難敵となる存在。今まで数多くの“悪役”を演じてきて感じるのは、はなから誰かを陥れようとしているわけではないのだなということでした。川島もあくまでオリンピックを成功させようという目的のために動いている。オリンピックは国際社会で日本の株を上げるために利用できると考えたのでしょう。そのために、本当に力のある人を見極める役割を担ったのだと思います。

彼の行動は、「俺みたいな男が突然現れて、君たちはどう振る舞うのかな」という試練を田畑らに与えているようなもの。「僕についてこられるならばオリンピックに関わらせてあげるけど、ここでダメな人間は悪いけどバッサリ切るよ!」という思いがあるのだと想像しています。その先に行くための必要悪を彼は演じているのだなと。今ではオリンピックに政府が関わるのは当たり前ですが、当時、前例のないものにいち早く目を付け、「政府が口をはさみ、お金も出そうじゃないか」と手を上げたのは川島なりに日本の未来を考えてのこと。勘が鋭く、時代を動かす力を持っている方ですよね。さらに川島さんの資料を見るといつも笑みを絶やさず粋でしたたかな二面性が魅力的な人物だったそうです。川島さんには失礼なやり方かもしれないけれど、僕はあえて田畑と敵対する役として見えるように演じつつ、実際の川島さんの魅力を忘れないようにしています。

「なんとも言えない気持ちが芽生えてくれたら本望です」

川島の田畑を見定めるような視点は最初の出会いから始まっていたのかもしれません。東龍太郎さんの都知事選に向けた選挙対策本部で、田畑から「100万や200万の金も集められんくせに、それでよく幹事長が務まるもんだね!」と記者たちが集まる前でののしられる。でも、川島は100億単位の金を動かせる地位と権力を持った男ですから、田畑とは見ているレベルが違うのだと思います。「用意できないんじゃなくて、こんなちっぽけな金なんて用意したってしょうがないんだよ」「なるほどね、君みたいな素人はそういうところをそういうふうにしか見ないんだね。じゃあ、試してあげるよ」と、ドラマでは描かれていない駆け引きを細部まで想像しながら演じさせていただいています。

アジア大会での混乱は川島正次郎にとって「待っていました」と言わんばかりの状況。まさに思うつぼ。外野からバンバン意見を言って田畑に決断を迫りながら、いざとなると「決めたのは自分ではない」と手のひらを返して窮地に追い込む。アジア大会から田畑の事務総長解任までの流れは、“寝業師”の真骨頂を見た気がしましたね。一方、田畑は一生懸命自分の夢に向かって動いていて、憎めないキャラ。「田畑さんのためなら」と、強引な部分はあっても彼の思いに皆がついていくじゃないですか。きっと視聴者の皆さんも田畑に感情移入していると思いますから、僕の演じる川島は嫌われものでしょうね。最後まで邪魔者が入らず田畑の思い通りにオリンピックまで到達するのもおもしろいのですが、川島の策略によって思わぬ挫折を味わう。見てくださっている方になんとも言えない気持ちが芽生えてくれたら僕としても本望です。そして、なにか思いを巡らすきっかけになればと思います。僕自身、作品を見ている最中も終わってからも、なんでこんなことが起きたんだと考えたいんです。そうすることで、ドラマが終わっても物語は続いていくと思っていますから。

「自分に向いている役柄を、念願の大河ドラマで」

大河ドラマは多くの方に愛されていますし、ずっと参加したかった作品。2014年の土曜ドラマ「ロング・グッドバイ」に出演後、次は“大河”に出演できたらと話していたのですが、なかなかオファーをいただけず(笑)。だから、声をかけていただき、もう、うれしくてうれしくて。なにより、とても良い役をいただきました。自分で言うのもなんですが、川島のキャラクターは自分に向いていると思いましたから。宮藤官九郎さんとは以前映画で共演したことがあり、お芝居においてじっくりと向き合って、充実した時間を過ごすことができたので、僕という俳優を見てもらえたのかもしれません。宮藤さんの脚本は、一つ一つのセリフにしても、キャラクターを無駄なく描いてくれていて、セリフを練習していてとってもおもしろいんです。けれども台本任せにならないよう、セリフから生まれる所作や振る舞いを入念にイメージして川島を作っていきました。宮藤さんは最初から最後まで考え尽くして書かれているはずなので「もっと追いついてこいよ」と思われるのがこわいんです。だから、しっかりとかみ砕いて、先を見越して作品に乗っかっていかないと。宮藤さん、やっぱりすごいですね。

日本でのオリンピック開催に向け一から土台作りをしてきた人たちの物語は、2020年を前にして、注目すべきことがたくさんある作品でした。スポーツ選手にとってオリンピックは夢の大舞台だと思うんです。我々俳優にも大河ドラマに出演したい、映画祭で賞を狙いたいなどの夢があり、世界一をめざす姿には共感する部分が多いので、オリンピックでの活躍を心から応援したいです。

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