「世界に誇れる芸能を経験できたことは幸せでした」
僕の演じる五りんは、昭和の大名人といわれた落語家・古今亭志ん生の弟子。でも、もともとは師匠の家にふらっと来て居座るだけの落語に興味のない役柄。なので、最初は落語をやらないものだと油断していたんです。第15回から徐々に落語パートが加わり、「あれ、おかしいぞ」と(笑)。しかし、実際にやってみると、いっぱいいっぱいでしたが、とにかく楽しむことを心がけて、お芝居ができました。半人前の五りんの高座をお客さんに聞いてもらうには、下手でも楽しいと思わせるものがないといけない。だから、かむことを恐れず、思いっきりやらせていただきました。そうすると、お客さん役のエキストラの方々も反応してくださって、とてもうれしくて僕も気持ちがのってくるんですよね。
実際に寄席へ落語を聞きに行くと、笑うだけでなく泣いてしまうこともあるくらい、心を揺さぶられました。普通に話すだけでも難しいはずなのに、落語家さんたちは修業の苦労をみじんも出さずに軽やかに演じられるじゃないですか。さらに、照明や舞台装飾なく噺だけで人の気持ちを動かしてしまう。落語家さんたちのすごさを改めて思い知りました。この先もずっと継承し続けてほしい日本の芸能伝統の一つですし、役柄を通して世界に誇れる芸能を経験でき本当に幸せでした。
「たけしさんは、器の大きさも世界レベル」
五りんが師匠の志ん生をおんぶして帰る場面は、二人がそれぞれ改めて落語への覚悟を持つきっかけになります。和気あいあいとした雰囲気に見えて、すごく大事なシーンでした。最初から「いだてん」を見てくださっている方には、五りんと師匠の関係性がより深まる感動的なシーンになったと思います。下り坂でのおんぶだったので、「自分がどうなっても“世界のキタノ”を頭から落とすわけにはいかない」と必死の思いでおぶわせていただきました。ちょっと体勢がずれてきたときに「師匠、上に行きますよ!せーの」というと、僕がおんぶしやすいように体を上げてくれたんですよ。すごくほっこりした気持ちになりました。
たけしさんは“世界のキタノ”と呼ばれるほど国内外を問わず、幅広く才能を発揮されている方。そのすごさを知っているからこそ、勝手に恐れ多く、怖いというイメージをもっていました。まさに“アウトレイジ”です(笑)。でも、ドラマでは五りんは志ん生に失礼な態度をとるわけです。師匠の思い出のたい焼きも「僕、いらないっす」と遠慮なく断りますし(笑)。だから「この人すごい」っていう思いをなくさないと気を遣った態度が出てしまう。そこで、「怒られてもいいや」と撮影の合間にちょっとしたことでも思いきって話しかけたところ、本当に優しくて。例えば、志ん生が五りんを扇子でたたく場面で「どこにいたら、たたきやすいですか?」とお聞きしたら、頭を持っていく位置やタイミングなどリアクション芸について指南してくださいました。たけしさんからじきじきに芸を仕込んでいただくなんて、このうえない財産になりました。うれしかったなあ。五りんが師匠の人柄や芸に惹かれていく気持ちがリアルに画面に伝わるんじゃないですかね。想像以上の返しでお芝居に付き合ってくださる、人としての器が無限大だと思いました。
「オリンピックにかけたさまざまな物語を知り、来年が待ち遠しいです」
大河ドラマには4度目の参加となりますが、最初から最後まで出演させていただいたのは今回が初めてです。1年かけて大作に関わることで、どう役を育てていこうかと深いところまで考えることができました。また、キャラクター一人一人に対するスタッフさんたちの強い愛情を肌で感じる現場でしたので、貴重な経験をさせていただいたと思います。「いだてん」を通して、スポーツ選手だけじゃなく、監督やコーチなどのサポート陣や招致・運営する側などそれぞれのオリンピックに人生をかけたドラマがあることを初めて知りました。今ではスポーツを見ていると、その方の人生の転機や裏側を想像して違う角度からも楽しめるようになったほど。来年のオリンピックが待ち遠しいですね。
五りんはもともと地に足の着いていないキャラクターでしたが、最終回に近づくにつれ状況を二転三転させます。「結局君は何がやりたいの?」と思うほど着地点が見えなくなってしまうのですが、後でそれは彼が目的を探すために必要なプロセスだったとわかるんですよ。その台本を読んだときは動揺してしまいました。五りんの今後の動向も作品の見どころの一つですので、最後まで楽しんでいただけたらと思います。