いだてん

IDATEN倶楽部

2019年98

「四三を息子として愛せたことは、幾江にとって人生の喜びです」

金栗四三の養母で、名家・池部家を女手一つで切り盛りしてきた幾江。演じる大竹しのぶさんに、役について、幼少期から知る中村勘九郎さんとの共演について、うかがいました。

「つくづくご縁を感じます」

ずっとお仕事をしてみたかった宮藤官九郎さんが大河ドラマを描かれると知ったときから、「いだてん」への出演を熱望していました。しかも主役は中村勘九郎さんと聞き、共演できることも大きな魅力だったんです。実は以前、大河ドラマ「元禄繚乱」で、勘九郎さんのお父様で友人でもある故・中村勘三郎さんと夫婦役をやらせていただいたので、子どものころからよく知る勘九郎さんともぜひ共演したいと思っていました。ですから幾江役での出演が決まったときは、本当にうれしかったですね。父子二代にわたって家族を演じさせていただけるなんて、つくづくご縁を感じます。

でも、前半部分は四三がいつも東京に居たので共演シーンは思ったよりもずっと少なかったんです。ようやく四三が熊本に帰ってきたと思ったら、第2部に突入して主役が交代。今度は池部家のシーンがあまりなく、やはり数えるほどしかご一緒できていません(笑)。

そんななかでも、勘九郎さんのお芝居がお父さんに似ていてハッとさせられることがあります。お父さんを尊敬しているから似てくるのか、DNAがそうさせているのか、とにかく感情をこらえる場面のお芝居や、セリフの言い回しがソックリなんです。思わず「哲明さんだっ!」(中村勘三郎さんの本名)と、グッときてしまうほどです。

「でっかい人間になれば」

遺影で拝見した実際の池部幾江さんは厳しい雰囲気を持った方でした。「いだてん」で描かれる幾江も、名家を女手一つで切り盛りしてきただけあり、厳しさと強さを感じさせるキャラクターですよね。その一方で、四三のオリンピック出場を資金面で援助するなど、きっぷのいい一面も描かれました。私自身はあそこまで怖くないし、強くもありませんが、思い切りの良さは共通する部分。一見とっつきにくいけれど内面は温かくて気配りのできるでっかい人間になればと、宮藤さんが描く幾江さん像に近づくためにがんばっています。

「息子として四三を愛するように」

「いだてん」では、幾江はスヤと一緒に暮らしたいがために、四三を養子に迎えました。ですから、スヤの幸せが一番で、妻をないがしろにする四三に腹を立てることもしばしば…。その鬱憤をよく実次にぶつけていましたよね。当初、四三のことはこれっぽっちも好きじゃなくて(笑)、暑苦しい男だなと思いながら過ごしていたのですが、時間をかけて変わっていったのかなと思います。一生懸命な姿を見るうちに、いつの間にか、息子として四三を愛するようになっていく、そうした変化は一人息子を亡くした幾江にとって人生の喜びだったのではないでしょうか。

そんななか、再び上京するという四三に「寂しくなかこつ、あるわけなかろが!」と、幾江が初めて心情を吐露しました。四三も幾江に抱きついて感情をあらわにし、涙を流すのですが、演じていて本当の親子になったような不思議な感じがしました。2人の間に通じるものがあったのだと思います。

「役を通して体感しています」

ストックホルムオリンピックに出場する四三を資金面で支え、その後も四三のランナーとしての歩みを見守ってきた幾江ですが、スポーツに関する知識や理解があったわけではありませんでした。当時はまだ世間にスポーツが認知すらされていない時代でしたから、無理もないですよね。

それから時代は移り変わり、ロサンゼルスオリンピックは家族そろってラジオ放送を聞くまでに。ですが幾江はラジオで耳にしたデニス、ヤコブという名前から、前畑が男と戦っていると勘違いするなど、やはりスポーツの知識はあまりないようでした。でも「たいした時代ばい、水の音までよう聞こえる」と話す様子からは、スポーツに対する見方が変わってきていることがうかがえます。レースの様子を想像すること自体、大きな変化! きっと、ラジオにかじりついて必死に応援する四三を見て、息子がこれまで懸命に戦ってきたオリンピックへの認識を少し変えたのでしょうね。

「いだてん」では金栗四三をはじめ、オリンピックに向かって懸命に努力を続ける大勢の人びとの物語が描かれます。なぜ人びとがこんなにもオリンピックに情熱を注ぐのか、私も役を通して体感しているところです。

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