いだてん

IDATEN倶楽部

2019年77

「女子スポーツの夢や希望となった人見絹枝さんを、魂で演じたい」

日本人女性初のオリンピック選手・人見絹枝。世界を舞台に活躍するダンサーで、「いだてん」が演技初挑戦となった菅原小春さんにお話をうかがいました。

「人見絹枝さんの情熱を次世代に伝えたい」

私が演じた人見絹枝さんは、日本人女性初のオリンピック選手。アムステルダム大会から女性の参加が認められた陸上競技で、800メートル走に出場し銀メダルを獲得されました。当時は多くの人が「女子はスポーツをやるべきではない、早く結婚をして子を産むことが幸福だ」と考えていた中で、人見さんは体を張って、日本の期待を背負い世界に挑みました。そして、「なにかを残さないと帰れない」とあとに続く人たちのための道を切りひらいた方。こんなにも熱い情熱を持った人は、今の時代にも少ないと感じています。そんな彼女の魂を私の心と体を通して次の世代に伝えるため、思いっきり表現したいと、初めてのお芝居にチャレンジさせていただきました。

人見さんの何かを感じたいと、人見さんの故郷である岡山県を訪ねました。ご親族の方にお会いし、銀メダルはもちろん、日記を見せていただいたのですが、かわいらしい文字でギャグも交えて書かれていて、人見さんはとってもチャーミングな方なのだなと思いました。一方、彼女の写真を見たときには、魂を燃やしてきた人だと一瞬でわかるすさまじいものが伝わってきました。それはスポーツ選手ということ以上に、コンプレックスに悩み、戦ってこられた強いパワーを感じたからかもしれません。私も日本では浮いてしまうような体型と筋力のせいで、大勢でダンスを踊る際に「ちょっと下がって」とか、「ちょっとエナジーを抑えて踊って」などと言われ、とても悩んだ時期がありました。でも、海外へ飛び出してみると「なんだ、普通じゃん」と感じ、たとえコンプレックスがあったとしてもその部分を磨く努力をして自分の強みに変えていけばいいと思えたんです。だから、“化けもの”“六尺さん”と言われながらも挑戦し続けた人見さんにはとてもシンパシーを感じますね。

「一人で戦わなくても良い」

ダンスは、大好きすぎて大嫌いなんです(笑)。知りすぎているからこそ、つらさも経験してきました。けれども、お芝居は初めてですべてが新鮮。役者さんたちの役作りの過程も勉強になりましたし、「次は何をするの? どんな衣装着るの?」と終始楽しかったです。ダンスを踊るときは、テクニックよりも魂を込めることに重きを置いているので、お芝居も心で演じさせていただきました。ただし、魂が先行してしまうと、力の抜きどころがなくなってしまって…。リハーサルから全身全霊でやってしまい、演出の大根 仁さんに「ちょっと待った! これは本番にとっておこう」と言われてしまったほど。そうやって、バランスを取っていただいたので、力を入れる部分と脱力の良い波が作れたように思います。

ロッカールームで永山絢斗さん演じる野口源三郎さんや、仲間一人一人に「800メートルも走らせてほしい」と伝える場面は、どう演じようと考えなくてもシマさんから引き継いだ意志や、人見さんの心境を想像したら自然とあのお芝居になりました。実は私もあんなふうに泣くことがあるんです。自分をストイックに追い込んで、孤独にさいなまれて家でひざを抱えて…。でも、最近は誰かに頼れば良いのだと気づくことができました。今回も、スタッフの皆さんが、私が届けたいメッセージを同じように感じてくださっていたので、迷ったらこうしてみようとみんなで相談しながら作り上げていくことができました。想像を超えるプレッシャーの中で獲得された人見さんの銀メダルも、仲間や応援してくれる方たちとともに勝ち取ったものなのかもしれません。

「熱く燃える魂に気づいてほしい」

人見さんはシマさんに出会っていなかったら、ずっと自分の魂を生かせないでいたと思います。金栗四三さんや、二階堂トクヨさんとの一つ一つの出会いが人見さんの扉を開けて、最強の状態で魂を使えるように未来へと引っ張り出してくれた。自分の世界だけに閉じこもっていることは、ある意味、幸福だったかもしれませんが、人見さんの強い意志が、日本の女性選手に希望や夢を与えました。皆さん一人一人にも、人見さんのように熱く燃える魂が絶対にあると思うのです。この物語を通して、自分と同じ世代の人たちや若い子たちに、少しでもそれに気づいてもらえたらうれしいです。

お芝居の知識がない中で、自分の感情の赴くまま最後まで体当たりでやらせていただきました。これからは体を動かすのとは正反対に、ずっと座っているだけでもダンサーとして成り立ってしまうような表現を、ジャンルを問わず追求できたら良いなと思っています。ダンスを取り巻く固定観念を取っ払っていくことにも挑戦し続けていきたいです。

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