金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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銀英伝で一番の機動兵器戦術職人はメルカッツさんだと思う。

この小説は多分にメルカッツ押し成分を含んでいます。


第007話:”であ・るふとばっふぇん・ふろって”

 

 

 

アスターテ星域、自由惑星同盟第4艦隊旗艦”レオニダス”、艦橋(ブリッジ)

 

 

 

「ば、バカなぁーーーっ!! なんで帝国の戦闘艇にこんな場所で襲われるのだっ!?」

 

それが第4艦隊提督パストーレ中将の聞き取れた最後の台詞だった。

直後、メルカッツ大将麾下の単座雷撃艇とワルキューレからなる”混成(Gemischt )機動兵器群(Luftwaffen-Gruppe):GLG”の急襲で艦橋を破壊されて真空中に吸い出され、見事スペースデブリの仲間入りを果たしたのだから。

 

だが、彼も寂しくはないだろう。

有機無機を問わずデブリ仲間は、これより大量発生するのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

同アスターテ星域、帝国軍”メルカッツ()()分艦隊”、旗艦”()()()()()()()

 

 

 

「脆い。脆過ぎるな……」

 

そうアドミラルシートで呟くのは、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ()()であった。

自慢の航空部隊( Luftwaffen)に敵艦隊旗艦、分艦隊旗艦、戦隊指揮艦が食い荒らされる様子をリアルタイム・ホログラムで表示される空間展張ディスプレイを見ながら、メルカッツはどことなく面白くなさそうな顔をしていた。

 

「ご不満ですか?」

 

そう問いかけるのは副官のベルンハルト・フォン・シュナイダー少佐だ。

 

「なに。大将への昇進祝いに後輩(ヤン)が気と口を利かせて下賜が許された”ヨーツンヘイム”……せっかくのデビュー戦の相手としては、いささか物足りないと思ってな」

 

とメルカッツは髭を撫でる。

 

「小官に言わせれば贅沢な悩みですな。主砲アウトレンジからの航宙艇の大量投入による一気呵成の急襲ならびにピンポイントでの粉砕は、提督の十八番とするところではございませんか?」

 

シュナイダーの言葉に偽りはない。

同盟軍将官には「粘り強くいやらしい戦いをする」と防御に定評のあるメルカッツだが、それはかれの一面に過ぎない。

むしろ真骨頂と言えるのは、雷撃艇や戦闘艇を用いた航空機動戦術にあった。

 

そもそもメルカッツがこの手の戦いを得意とするようになったのは同盟軍との正面切った戦いではなく、辺境の反政府組織や海賊、密輸団や麻薬組織の船舶との戦いであった。

 

その手の非政府がまともな戦闘力を持つ船……例えば払い下げの軍艦などを持ってることは貴族や軍の一部による叛乱を除けば稀であり、大概は武装商船レベルだ。

その手の違法改造船舶は全体的に小兵であり武装や防御は貧弱だが、商売柄のせいで速力と隠蔽性(ステルス)に優れている。

しかも堂々たる艦隊なぞ組むはずもなく、小部隊か下手をすれば単艦航行……

 

人目を阻んで後ろ暗い活動をする相手に、敵艦の撃滅を主目的とした正規軍艦で戦うのは中々に難しい。

戦闘が始まればまず勝てるが、宇宙から逃げ隠れする相手を見つけ出し戦闘に持ち込むまでが至難の技なのだ。

 

そこでメルカッツが考え練りこんだのが、『航宙艇の大量投入による広域捜索と機動追撃』だった。

現代風に言うなら『エアシーバトルにおけるワイドレンジサーチ&ハンター・キラー』とでもなろうか?

 

 

 

そのような経緯もあり、メルカッツは現代で言う艦隊航空戦を得意としていたのだ。

第二次世界大戦時の某帝國軍に例えるなら、山口多門あるいは角田覚治あたりに例えられるだろうか?

そのせいもありメルカッツの率いる分艦隊はかなり特徴的な編成が成されていた。

そもそもヨーツンヘイムは膨大な防御力を誇るヴィルヘルミナ級直系の巨大艦であるが、その最大の特徴は最大180機ものワルキューレを集中運用できることにあった。

言うならばヨーツンヘイムは航空戦艦、あるいは装甲空母に類する軍艦だ。

 

それだけではない。メルカッツの率いる28()0()0()隻の分艦隊の中には、先祖に当たる巨艦ヴィルヘルミナ級を改装した”改ヴィルヘルミナ級雷撃艇母艦”12隻と、144隻の標準戦艦を改装した”ワルキューレ装甲空母”が含まれていた。

ちなみにこれら150隻強の機動艇特化型の船は、今回の遠征にシュターデン達が参加すると決まった時点で、ヤンが軍や自領の艦隊から急遽かき集めて直援艦ごとメルカッツに預けた兵力だった。

本人曰く『貴族特権って言葉は好きじゃないけど、特権というのは使うべく時して使わないと意味がないからね』とのこと。

 

実は雷撃艇母艦も装甲空母も今回初参戦というわけではなく、記録上は第六次イゼルローン攻防戦にて源田実……もとい。カール・グスタフ・ケンプ大佐を艦長とする船をはじめ、複数が試験的に運用されていたらしい。

 

だが今回のように3桁に上る数が集中運用されるのは初めてであろう。

いや、それ以前に大量投入できる前段階の大量建造、いや大量改装が可能となった裏には、ヤンやヴェンリー財閥の存在が見え隠れするようだが……

 

ともかく現在のメルカッツは1万機以上の雷撃艇やワルキューレを集中投入できる手段を持ち、それを遺憾なく発揮していた。

司令や指揮を司る高価値目標(HVU)を次々と宇宙の藻屑に変え、第4艦隊を大混乱に陥れていた。

なるほど艦隊副指令だけでなく、ヤンから非公式に”航空参謀”と古式ゆかしい呼ばれ方をするだけの戦いっぷりだ。

もっとも彼に言わせれば、1万機以上の航空機でたかだか100隻に満たない船を沈めればいいだけなので難しい仕事ではないのかもしれないが。

 

 

 

「ファーレンハイト艦隊が突撃を開始したようですね」

 

混乱をさらに拡大させるべく、どこぞのオレンジ猪ばりの猛チャージを開始する若手艦隊の様子をディスプレイで確認したメルカッツは徐に、

 

「隊を撤収させよ。ほどなく本艦隊の統制斉射(サルヴォー)が来る。邪魔してはならん」

 

「ハッ!」

 

敬礼しながらシュナイダーは「なるほど。名将とはこういうものか」と納得する。

無理に欲張らず引くべきときには引く……攻め時だけではなく引き際も弁えてこその名将なのだと。

 

「我が艦隊は雷撃艇ならびワルキューレを回収後、本艦隊のフォローに回る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ケンプ、涙目。

たまには真面目に解説など……

銀河帝国の宇宙空母は本来、標準戦艦をベースに建造されたって設定がありますが、OVAに画像を起こす際、雷撃艇を運用するのに標準戦艦ではどう考えてもサイズ的に無理があり、あわててヴィルヘルミナ級をベースに再設定されたって経緯があるようです。
フリコレにある宇宙空母は、このヴィルヘルミナベースの船ですな。

というわけでこの作品では、標準戦艦ベースのワルキューレ用装甲空母とヴィルヘルミナベースの雷撃艇母艦という形で、空母職人メルカッツともども両方登場させました。


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