「なんて行動力のある人だったのだろうと圧倒されました」
「利家とまつ~加賀百万石物語」以来、17年ぶりの大河ドラマ出演になりました。今回は明治時代が舞台ですが、自分はこの作品で初めて大森兵蔵という人物を知ったんです。岡山の氏族の出で、アメリカに留学した兵蔵はとても優秀な方だったんでしょうね。また、安仁子とアメリカで国際結婚をして、帰国後はバスケットボールやバレーボールを日本に初めて紹介して……と、なんて行動力のある人だったのだろうと圧倒されました。
当時の日本にスポーツの精神を根付かせるため、きっとご本人は大変な苦労を重ねたと思いますが、宮藤官九郎さんの描く兵蔵はひょうひょうとしてダンディー。そして、英語まじりの日本語を話したり安仁子とラブラブムードを隠さなかったりと(笑)、ある意味とてもチャーミングな人だと思います。そういう宮藤さんの脚本にゆだねるところはゆだねて、兵蔵を楽しんで演じさせていただいています。
「オリンピックのスタジアムがほぼそのまま残っていたのには胸がいっぱいになりました」
兵蔵を演じていて特に印象的だったのは、やはりスウェーデンのストックホルムでのロケでしょうか。現地に行った際、兵蔵たちが金栗四三らと行進したオリンピックのスタジアムがほぼそのまま残っていたのには、本当に胸がいっぱいになりました。この場所が、日本がその後長きにわたりオリンピックに参加することになった第1歩だったのかと思うと、とても感慨深かったです。しかも日本はまだ足袋やわらじで歩いている時代に、欧米にはスポーツのための大規模なスタジアムがあったわけですから。特に初めての海外渡航となった四三らにとっては、相当なカルチャーショックだったと思います。
そんな中で、わずか5名という小人数で日の丸を掲げて入場行進をした彼らのことを思うと、2020年の東京五輪や、現在の日本スポーツ界の世界的な活躍ぶりをぜひ見せてあげたいくらいです。そういえば、現地ではちょうど安仁子役のシャーロットさんのお誕生日会を、中村勘九郎さんをはじめとする俳優陣やスタッフの皆さんとお祝いしたりもしました。いろいろと思い出深いロケになりました。
「日本のスポーツ界の礎を築いた夫婦がいたことを覚えておいていただけたら」
安仁子役のシャーロットさんは、まさに“安仁子”にぴったりの方。とてもプロ意識の高い方で、今回の役を演じる際に、母国アメリカで安仁子と兵蔵について日本には残っていないような資料を自分で見つけ出してファイリングしていらっしゃいました。そうした緻密な役作りと、舞台仕込みのアドリブも自在な彼女のそばにいるだけでとても刺激を受け、きっと兵蔵にとっての安仁子もこういう尊敬できる女性だったのかなと、思わずにはいられませんでした。
兵蔵は病を得て、その後、身体を悪くしてしまったりもするのですが、彼はその中でも「わが道」を貫いて生きた人だと思います。宮藤さんも、兵蔵の生き方を通して伝えたいメッセージをしっかりと描いてくださっているので、私もそれを最後まで大切にしながら演じ切りたいです。金栗四三らの活躍を楽しみながら、ぜひ大森兵蔵・安仁子という、日本のスポーツ界の礎を築いた夫婦がいたことを皆さんに覚えておいていただけたらうれしいです。
「日本のスポーツが世界に通用するよう、安仁子も兵蔵とともに何事も真剣に取り組んでいたのです」
今回は大森安仁子役で、大河ドラマに出演する機会をいただいて本当に光栄に思っています。彼女は私と同様にアメリカ人。明治時代に留学生の兵蔵と国際結婚をして、その後日本に渡り、帰化までしたという行動力のある人物です。日本のスポーツ界の発展に夫・兵蔵とともに尽くした安仁子という女性を、私はこの役をいただいて初めて知ることができました。
宮藤官九郎さんが描く安仁子は、怒るのも喜ぶのも、悲しむのもすべて早い! 感受性が豊かで楽しい女性です。“四三(フォーティ・スリー)さん”こと金栗さんには厳しくテーブルマナーを指導していたので、安仁子はちょっぴり怖い女性だと思われたかもしれません(笑)。でも、彼女は金栗さんが絶対できる人だと期待をしていたのだと思います。また兵蔵さんの英語をアメリカ人の安仁子が日本語で解説する場面などもユーモアがあって楽しかったですが、私にとって日本語は第二言語なのでちょっとドキドキして、お芝居のテンポを崩さないように気を付けて演じていました。
「彼女の言動や人生のすべては、きっと兵蔵さんのためにあったのだと思います」
私が安仁子を演じていていちばん好きなところは、竹野内 豊さん演じる夫・兵蔵のことを心から愛しているところ。彼女の言動や人生のすべては、きっと兵蔵さんのためにあったのだと思います。だからこそ、日本のスポーツが世界に通用するよう、安仁子も兵蔵とともに何事も真剣に取り組んでいたのです。
また、兵蔵を演じる竹野内さんはとてもチャーミングで、地に足のついた紳士的な方でした。「いだてん」の撮影の合間には、私は日本語のセリフについて竹野内さんに相談したり、逆に彼竹野内さんは私に英語のセリフについて、よりナチュラルな表現になるように相談してくださったりと、お互いにいろいろと頼れるパートナーだったと思います。
「本当に安仁子役を演じられて幸せだったなと思います」
安仁子は兵蔵とともにストックホルムに同行しますが、私も実際にロケでストックホルムに降り立ち、レンガ造りのオリンピックスタジアムを見たときに思わず鳥肌が立ち、涙があふれました。一瞬にしてすべての空気が変わるような感覚があったんです。それは、ついにこの物語の中の真実に、しっかりと触れられたからなのかもしれません。現地で安仁子の衣装を身に着け、その場に立つと、まさに当時にタイムスリップしたかのような気持ちになりました。本当に安仁子を演じられて、幸せだったなと思います。
撮影は連日ハードではありましたが、俳優陣はもちろんスタッフの皆さんもすべてに妥協せず取り組んでいたので、そのパッション(情熱)がとても心地よく伝わってきました。それが、大河ドラマのだいご味であり、すばらしさなのでしょうね。撮影中は、みんながファミリーのように思え、撮影後はとても寂しくて、離れがたいものがありました。今も私自身、ふとドラマを見ながら兵蔵との夫婦漫才のような場面に吹き出したり、四三さんたちとの何気ないやりとりを懐かしく思ったりしています。ぜひ皆さんにも、最後まで楽しんでいただけたらうれしいです。