いだてん

IDATEN倶楽部

2018年1228

「志ん生は落語界のピカソみたいなもんでさ。そのすごさを今の人にも知ってもらえたらいいよね」

「いだてん」の物語は、昭和の名人・古今亭志ん生の架空の落語「東京オリムピック」によって紡がれていく。型破りな芸風と浮世離れした人生を歩んできたことで知られる志ん生を演じるのはビートたけしさん。自身も幼少期から志ん生を聞いて育ってきたというたけしさんに志ん生の魅力を聞きました!

「オイラが志ん生さんのまねをしたって勝てるわけがないのよ」

宮藤官九郎さんとは、仲良いわけでもないけど、知らないわけでもなかったんだよ。急に話がきてさ、「俺は何をやるんだよ、やだよ」って話をしてたんだけどさ。よく聞いてみたら、オイラに志ん生さんを演じてほしいって言うからさ、「志ん生さんみたいな芸はできないよ」って言ったんだけど、“NHKの大河”っていうイメージと全然違うスタイルのドラマがやれそうなんで、引き受けたんだよね。

志ん生さんの落語は子どものころから聞いてきたし、それこそ一晩中聞いてるけど、本当の天才だから、あんな芸はオイラにはできないよね。だって、志ん生さんのまねしたって勝てるわけがないんだから。

ずっと勉強はしてるから、志ん生さんのやり方を意識することはあるけど、今回は物語の進行役だって言うから、落語のうまい下手は関係ない。それは気が楽だよね。

「志ん生さんは常識外れだなんだって言われるけど、実際は違うんじゃねぇかと思うよ」

志ん生さんってのはさ、バクチ好きだとか酒好きだとか、世間ではいろいろ言われてるけど、そんなものは後づけだと思うんだよな。

志ん生さんが常識外れなのは高座での芸事であって、プライベートな私生活だったり、性格っていうのにはあてはまらないんじゃねぇかな。

なんでそんなイメージが後づけされたかっていうと、あまりに高座での芸が唯一無二なんだからなんだよね。「こんな誰もまねできないような芸ができるんだから、私生活もさぞや型破りにちがいない」って考えたんだろうね。

まあ、実際にそういうエピソードもあるにはあるけど、ただ酒好きのオヤジってだけでさ。逆に言うと、私生活とのギャップがないと、ああいう落語はできないよ。オイラだって、ふだんの生活はそうでもないもんな。

「今の人たちに志ん生さんの落語を聞いてみたいって思ってもらいたいね」

志ん生さんのすごさってのは、寄席で見せる芸事にあるんだよな。

有名な落語家に文楽さんていう人がいて、よく志ん生さんと比較もされるけど、オイラから言わせれば「文楽はマティス(※1)、志ん生はピカソ(※2)」だと思うね。

志ん生さんってのは、本当は都都逸(どどいつ/※3)だって常磐津(ときわず/※4)だって何でもできるんだけど、そういう古典落語を一回転してデフォルメしてるんだよな。「俺にはこの芸ができる!」っていうスタイルがなくて、「どうだ、おもしろいだろう」っていうしたり顔をすることもない。オイラが知りうるかぎり、志ん生さんみたいな落語家は出てきてないし、これまでも出会ったことがないね。

志ん生さんの魅力は、客の前で寄席や芸事をやったことがないとわからないかもしれないけど、せめて「いだてん」を通じて、志ん生さんがどんだけすごかったかっていうことぐらいは伝えられたらいいね。

今の人たちは、オイラのことでさえ『ツービート』っていう漫才師だったってことを知らないだろ? だから、志ん生さんのことだって落語好きとか古い人しか知らない。ごく一般的に暮らしてる今の人たちが「志ん生さんの落語を聞いてみよう」って思ってもらえたらいいよね。

※1マティス=アンリ・マティス。生没1869-1954年。フランスの画家で「野獣派」と呼ばれる色彩豊かな画風で知られている。
※2ピカソ=パブロ・ピカソ。生没1881-1973年。スペインの芸術家で、「キュビズム」という現代美術の創始者ともされている。
※3都都逸=江戸時代末期に誕生した定型詩のひとつ。七・七・七・五の音数律が基本
※4常磐津=江戸時代中期に誕生した浄瑠璃のひとつ。落語界では初代船遊亭扇橋が常磐津を取り入れた音曲噺(おんぎょくばなし)を始めた。
「いだてん」では、天才とも破天荒とも称された古今亭志ん生の半生とともに、たけしさん流の“志ん生落語”を披露してくれています。その独特で唯一無二の世界観をぜひお楽しみください。

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