「主役の二人ともすごい人だけど、失敗もする。そういうところが人間らしくておもしろいなって思ったんです」
最初は大河ドラマを制作するという意識はせずにプロデューサーの訓覇さんと、「スポーツとかオリンピックにまつわる話にしよう」と、テーマだけを決めていました。そこで、明治から昭和にかけてオリンピックに関わった人物の資料を読ませていただいたんです。
そのときにシンパシーを感じたのが、中村勘九郎さんが演じる金栗四三さんや阿部サダヲさんが演じる田畑政治さんでした。ほかにもすごい人たちはたくさんいたんですけど、僕自身、勝ち進んで上に登りつめていく人よりも、何か大きな目標に向かっていったのに達成できなかった人に親近感が湧いてしまうんですよね。
金栗さんは期待を背負って出場したストックホルムオリンピックで気を失ってしまったり、田畑さんは失言がもとで64年の東京オリンピックの直前に大事なポストから降ろされたり。でも、そういう部分に人間味をすごく感じました。めちゃくちゃなことをやってるんだけど、なぜか周囲からも愛される人物。
この二人を主人公にすれば、いいドラマになると感じました。
「歴史を動かした偉人より庶民の話が描きたかった。それで落語を取り入れようと考えました」
今回の脚本は時代もシチュエーションもあちこちに飛び越えることが多いので、その橋渡しに落語を取り入れるのがいいんじゃないかと考えました。
マラソンには落語っぽいエピソードが多いんですよ。たとえば1908年のロンドンオリンピックで、走れない選手を無理やり担いでゴールさせちゃったドランドの悲劇(※1)と呼ばれる実話があるんですが、落語でいうと『らくだ』や『粗忽長屋(そこつながや)』に少し似てるんですよね。
それに、歴史を動かした偉人というよりは庶民の話を描きたかったので、その点でいえば落語は庶民のお話なので、僕が描きたいドラマ像にふさわしいんじゃないかと。そう考えると、志ん生さんのような人物をストーリーテラーにしたかったんですよね。
※1ドランドの悲劇=1位で競技場に入ってきたイタリアのドランド・ピエトリ選手がゴール直前で倒れ、競技役員に補助されながらゴールし、のちに失格となった出来事。
「これ大河になりますかね?というところから始まってる。でも、当時の日本を描くことには真剣に取り組んでいます」
これまでの大河ですと、視聴者も登場人物や史実がある程度わかったうえで物語が進行していたけど、今回は、そこまで知られていない人物がメインになるので、正直「大河になるのかな?」って思ってました。
その点で言えば、今までの大河ドラマとは違うとは思うんですけど、これまで描かれていた合戦などを、今回は競技で表現しているだけで、そういう意味ではしっかりと大河の枠組みではありますし、当時の人々を表現することには真剣に取り組んでいます。
あくまで実在の人物や史実を基にしているので、物語としてどこまで創作の余地があるのかはいつも考えてます。年表と物語をどうすればうまくつなげられるかと、けっこう楽しく書いています。資料が多すぎて、いっぱいいっぱいですけど(笑)。
「日本人はこんな純粋にオリンピックに憧れて、ピュアな気持ちでやってたんだ、と改めて気づいてもらえればうれしいです」
今回は物語の途中に戦争が登場しますが、そこもしっかりと描きたいと思っています。
以前から、戦争を“悲劇”としてだけではない描き方をしてみたいと考えてはいました。もちろん戦争はよくないことはみんなわかっている。でも、その渦中にいた人にも日常の生活があって、毎日泣いてたわけではなく、笑ったこともあったはずですよね。そういった人々の思いというものをきちんと描きたい。
たとえば、1940年に東京で開催されるはずだったオリンピックが戦争でなくなってしまったんですけど、そう考えてみると1964年の東京オリンピックって相当な思いがこめられた、いわば悲願だったんだと思います。
当時の日本人が、そんな純粋でまっすぐな気持ちでオリンピックを待ちわびていたことに僕自身気づかされました。「いだてん」が終わったら、2020年の東京オリンピックがやってきます。そのとき、視聴者の皆さんにも、このドラマのことを思い出して、オリンピックは楽しくやるものだってことに気づいてもらえたらうれしいですね。
膨大な資料をもとに宮藤官九郎さんが独自の視点で見た激動の時代と、そこに生きた人々が紡いできたスポーツとオリンピックの歴史。そこに秘められた愛と笑いにあふれた人間ドラマを描いた「いだてん」をどうぞお見逃しなく!