伊方原発で一時外部電源喪失。頻発するインシデントと、それらを軽視する擁護論者の完全なる誤り
四国電力伊方発電所3号炉は、去る1月17日に広島高裁によって下された山口ルート運転差し止め仮処分決定によって運転停止中です。このことは、全三回(1、2、3)の解説記事をご覧ください。
伊方3号炉は、2019年12月26日より第15回定期点検中(定検中)*ですので、仮処分にかかわらず2019年12月26日から2020年4月27日まで停止中です。今回の定検は、通常の3か月に比して長めの4か月です。この定検終了後は、広島高裁の仮処分の効力で、本訴判決が出るか、四国電力が保全異議申し立てをしてそれが認められるまで伊方3号炉は操業できません。さらに2021年3月23日以降は、特定重大事故等対処施設(特重施設)完成猶予期間の期限切れのために1年程度の操業停止が見込まれています。
〈*伊方発電所3号機 第15回定期検査の実施について2019/12/12四国電力〉
筆者は、本来13か月運転、3か月定検で単純計算上の設備利用率81%から四か月定検により76%に低下し、更に特重期限切れのためにつぎの第16回定検周期では、設備利用率が平時換算で69%にまで低下することがやや気になりましたが、定検を慎重にやることは、いまの原子力業界には必要なことと思いあまり重く見ていませんでした。
筆者は、伊方発電所では昨年のインシデント*が多いように思えていましたのですが、それが特重工事による作業量増加にともなう確率的なものか、なにか異常が起きているのか分からずにいました**。
〈*インシデント(incident)とは、通常からの逸脱や危機的状態など、人命や設備が失われる事故(アクシデント, accident)まで至らない事態等を言う。インシデントには妥当な訳語がない。安全工学や医療、運輸、セキュリティなどにおいては、インシデントとは極めて重要なもので、インシデント情報の収集と分析、結果のフィードバックは安全の柱と言える。:インシデント・アクシデントの重要性 日本内科学会雑誌 第101巻 第12号2012/12/10本間覚〉
〈**国内原子力・核施設でのインシデントやアクシデントについては、「トラブル」という日本原子力業界の方言によって原子力施設情報公開ライブラリーで公開されている〉
大切なことは、どのように些細なインシデントであってもその情報を徹底して集め、公開・分類・分析し、フィードバックすることですが、実は日本人が最も苦手とすることです。またインシデントとアクシデントの分別も重要ですが、日本の原子力業界では、官民を問わず一丸となってすべてを「トラブル」という工学上全く無意味な言葉にまとめてしまう最悪の習わしがあります。この悪弊の原点は原子力船「むつ」中性子束漏洩重大インシデントを報道被害に矮小化したヒノマルゲンパツPA(JVNPA)による重大な悪影響であると筆者は指摘してきています。この件については、機会があれば将来論じますが、原子力インシデント、アクシデントの「トラブル」への言い換えは、原子力船「むつ」重大インシデントを起源とするJVNPAそのもので、極めて重大な弊害があり、福島核災害の原因の一つであることを指摘し、この言い換えは断じてやめるべきであると考えています。
まず第15回定検中に伊方発電所で発生したインシデントについてすべてを見てゆきます。本稿では、インシデントの程度についても筆者の独自階級付けをしています。筆者は、人身事故の場合に階級を一段上げています。INES(国際原子力事象評価尺度)*とは全く異なるあくまで独自格付けですのでその点はご了承ください。
〈*INESは、日常のインシデント分類には、階級が荒すぎて使いもにのにならない。以下に例示するインシデントは、INESでは多くが評価対象外であり、最高でも0-(尺度以下)となる〉
1) 2019年12月27日:警備員の転倒による負傷(参照:四国電力)
中度のインシデント(人身事故であるため)
2) 2020年1月7日:伊方発電所3号機 中央制御室非常用循環系の過去の点検時期誤 (今回発見されたインシデント) (参照:四国電力)
中度のインシデント(記録と手順に関わるため)
3) 2020年1月12日:伊方発電所3号機 原子炉容器上部炉心構造物吊り上げ時の制御棒引き上がり(参照:四国電力)
重大なインシデント(国内PWRでは初のインシデントと思われる)
4)、5) 2020年1月20日:伊方発電所3号機 燃料集合体の点検用ラックへの乗り上げと燃料集合体落下信号の誤発報 (参照:四国電力)
中度のインシデント(燃料集合体のラックへの乗り上げ)
重要なインシデント(燃料集合体落下信号誤発報)
6) 202年1月25日: 伊方発電所3号機18万7千V送電線からの受電停止(参照:四国電力)
重大なインシデント(外部電源喪失であるため且つ伊方発電所特有の重大な脆弱性を強く示すため)
以上、6件のインシデントが第15回定検中の伊方発電所で一か月間に生じています。列記したのはすべて中度以上ですが、これはヒヤリ・ハット事故*と称される軽度のインシデントは、数が膨大であり公表する価値がないとして公表されていないからと思われます。実際、翌月にまとめて発表される報告には、より多くのインシデントが記載されています。
ヒヤリ・ハット事故については発電所、四電内ですべて把握し、分類、評価、分析、フィードバックが行われていれば良いです。それにより、より重度のインシデントが抑止されます。
〈*職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例 厚生労働省〉
定期点検中だった伊方原発3号炉
原子力船むつ 船尾外板(実物) 2019/07/07撮影 牧田
むつは運用終了後、原子炉区画を撤去して海洋地球研究船みらいとして現在も運用されている。船としては進水後51年目とたいへんな長命で、幸せな船と言える。展示されている船尾外板は、原子力実験・貨物船から研究船への用途変更の際に切り取られたものである。むつは、1960年代設計の貨物船として、たいへんに美しい船である
伊方3号炉第15回定検中に発生したインシデント
伊方発電所正門遠景2019/02/11撮影 牧田
写真左下電柱の右が守衛所である。
定検中の日中は、数多くの車両が往来し、ラッシュ時には坂の上まで大型車両が詰まり、守衛さんは回し車の中のハムスターのように大忙しとなる。
インシデント発生時は深夜で、当時は気温もそれほど低くなかったが、この斜面は北向きなので海風で凍結しやすい
県道に見える集団は、毎月11日に台風が来ても集まる抗議集会の市民である
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