イスラエルに一方的に肩入れした内容は和平案と呼ぶに値しない。トランプ米大統領が中東和平案を発表した。平和共存の実現は期待できないばかりか、災いの種になる危険すらある。
トランプ氏の傍らには満面の笑みを浮かべるイスラエルのネタニヤフ首相。ホワイトハウスでの発表の席に、もう一方の当事者であるアッバス・パレスチナ自治政府議長の姿がなかったことが、和平案の偏向ぶりを物語っている。
和平案は双方が帰属を争う聖地エルサレムをイスラエルの「不可分の首都」と位置付けた。これに対しパレスチナ国家の首都は、パレスチナが求めるエルサレム東部ではなく、その周辺部とした。パレスチナ暫定自治区や周辺国に暮らす五百万ともいわれるパレスチナ難民の帰還は認めなかった。
ヨルダン川西岸の占領地でイスラエルが建設した入植地問題では、その存続を認めた。これは入植地建設を国際法違反とした国際司法裁判所の判断や、建設反対の国際合意を踏みにじるものだ。ネタニヤフ氏は早速、入植地の併合を進める姿勢を見せた。
トランプ氏は就任以来、エルサレムをイスラエルの首都に認定し、テルアビブにあった大使館を移転したのをはじめ「二国家共存」の和平構想を放棄するに等しい行動を重ねてきた。
和平案はその帰結である。パレスチナのことなど眼中にないのだろう。
一昨年は国連パレスチナ難民救済事業機関への支援打ち切りを決めた。難民への医療、教育などの支援やインフラ整備を行う機関だ。米国は最大の拠出国だった。
一方で、トランプ氏は和平案受け入れの見返りに五百億ドルに上る経済支援策をパレスチナに提案した。パレスチナを経済的に締め上げた上で、目の前にニンジンをぶら下げるというあざとさだ。しかもカネは湾岸諸国の拠出をあてにしている。
それでも米国の顔色をうかがってか、主なアラブ諸国からは和平案への異論は目立っては出ていない。
イスラエルの経済封鎖でガザ地区は困窮し、失業率は45%に達する。全面降伏同然の和平案を突きつけられた揚げ句、手を差し伸べるアラブ諸国もなく孤立感を深める。そのうえ生計を立てるすべもない。そんな状況に追い込まれた人が過激思想にからめとられてテロに走らないか、憂慮する。
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