『本を売る技術』本屋における暗黙知が1冊に!

田中 大輔2020年01月29日 印刷向け表示
本を売る技術
作者:矢部 潤子
出版社:本の雑誌社
発売日:2020-01-23
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

『本を売る技術』という本を買った。本書には自分が書店員になったときに教わったことと、誰からも教わることなく、10年働いていた間にトライ&エラーを繰り返して、最適解だと思ってやっていたことが書かれていた。書店員になったときに、この本があれば、あんなに苦労しなくても済んだのに!

書店を辞めてから5年近くが経ち、だんだん書店員時代の記憶もうすれつつある。自分が書店員時代に見聞きした、書店における暗黙知のようなものが、本書には論理的にまとめられていた。本書のレビューに加えて、自分が記憶している暗黙知についても少し話せたらと思う。

著者の矢部潤子さんは芳林堂書店からパルコブックセンターを経て、リブロ池袋本店などで36年間、書店員として活躍をされていた方だという。パルコブックセンター渋谷店では、立ち止まらないと有名だったそうだ。とにかく売場を動き回り、品出しや棚整理、売れ行きを確認していたので、出版社の営業の人は著者と並走しながら話をしたとか。自分も書店員だったときは、品出しをしながら話を聞いていたことはあったが、移動しながら話を聞くということはさすがになかった気がする。

本書を読むと矢部さんがものすごく論理的に売場づくりをしていたということがわかる。いままでも書店員が書いた本をいくつも読んできたが、ここまで実践的で、再現可能な形で書かれた本はなかったように思う。この本を読んで、書かれていることを愚直に実践するだけで、間違いなくいっぱしの書店員にはなれるだろう。

とはいえ本書に書かれていることのすべてが正しいとは思わない。店によって考え方は違うし、取捨選択をする必要はあるだろう。本書のなかに「仕掛けて売るって今日入った子でもできると思います」と書かれているが、書店員時代にたくさんの仕掛け販売をしてきた身からすると、その言葉にはさすがに同意はできない。とはいえこの辺りは考え方の違いなので、深く掘り下げないことにする。

この本に書かれているようなことを、常にきちんとできているお店というのは、あまり多くない気がする。自分が書店員だったときも、こういった基本的なことをおろそかにする人達を数多く見てきた。加えて近頃はギリギリの人員で回していることが多く、そこまで手が回らないというお店も少なくないと思う。しかし本書にはそういう場合でも、どういう手順で改善していけばいいかが書かれているので、それを参考にできるところから改善していけば、よい書店が作れると思う。

私は基本的なことがなによりも大事だと思っていたので、本書に書かれているようなことは割と愚直に実践していた。ちなみに私が書店員のときに意識的にやっていたことを列挙すると、必ず出勤している日はすべての本に触れていた。会社の方針でもあったが、開店前には必ず面合わせ(本を棚の前に出すこと)をし、棚と平積みのほこりはすべて掃除する。ちなみに平積みの高さは基本的に同じ高さにそろえておいた。そうすることで1日でどれがどれだけ売れたかが一目瞭然になるからだ。

また売場は常にきれいであるべきだと思っていたので、スリップや帯のずれは必ず直していた。また棚に本をさすときは、スリップを最後のページ2枚目くらいのところにさしなおしていた。これはお客さんが立ち読みをした際にスリップが邪魔にならないようにするためだと認識している。

また棚さしをする際には面合わせも同時にやっていた。平積みの本を出すときは冊数によって、本をひっくり返して本の傾きをなくしたりしていた。どれも似たようなことが図入りで本書に書かれているので、詳しくはそちらを参照してほしい。

品出しのときに商品を出す順に本を手に持ち、移動距離は極力短くするなど、工夫をしてなるべく作業の時間を短縮するようにしていたのだが、本書ではそれが当たり前のことのように書かれていたので、それを入った段階で教えてもらえれば、もっと別の仕事ができたのに……などとも思ったりした。

そのほかにも平台における商品の優先順位のつけ方が載っている。こういうことを書店員ではない人が知ると、書店に行った際に、どの商品を書店が推しているのかがわかるようになってより書店に行くのがおもしろくなると思う。また本書を読むと、書店がどういう意図で商品を展開しているのかが、より明確にわかるようになるだろう。さらに書店ってそこまで考えて商品を並べているのか!と感心すること間違いなしだ。本屋のおもしろさを気づける一冊。これは買いだ!

モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語
作者:内田 洋子
出版社:方丈社
発売日:2018-04-06
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 かごを担いで本を行商する人たちの話。本を売るということの原点がここにある。

まちの本屋: 知を編み、血を継ぎ、地を耕す (ポプラ文庫)
作者:田口 幹人
出版社:ポプラ社
発売日:2019-05-02
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 書店員の矜持を見た一冊。以前にレビューしたものが昨年、文庫化された。

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon Kindle

『ノンフィクションはこれを読め! 2014』電子版にて発売中!

HONZ会員登録はこちら

人気記事