「日本人としての部分と、海外から日本を見てきた視点とをうまく反映できれば」
日本人の母とイギリス人の父を持つ私は、高校までを日本で過ごし、大学進学を機に渡米。ニューヨークで暮らしていました。日本でオリンピックが開催されるというニュースを聞き、一昨年に帰国。この一大イベントを内側から発信したいという思いからでした。
そんななか「いだてん紀行」のお話を打診されたときは、ご縁を感じましたね。大河ドラマは子どものころから見ていましたし、「いだてん」は私が関わりたいと切望していたオリンピックをテーマとしたお話でしたから! 本当に幸運です。
大河ドラマは中学生のころに見ていた「利家とまつ~加賀百万石物語~」(2002年)の印象が強く、紀行は本編の余韻を大切にしているというイメージでした。今回も、ドラマの内容を受けた番組というコンセプトには変わりないですが、90秒で新たなことを知ってほしいという感覚で作っているので、目指すところは違います。今回は、本編をゆっくり反すうするよりも、さらに一歩踏み込んだ情報を盛り込むことで、“驚くような発見”をしてほしいんです。
「いだてん」は日本がスポーツの分野でも国際社会の仲間入りをしていくというお話でもあります。ですから、私の日本人としての部分と、海外から日本を見てきた視点とをうまく反映できればと思っています。
「毎回何があるか分からないという点では“見逃したら損”な内容になればと奮闘しています」
「いだてん」は登場人物を実際に知る方がご存命ですし、実際の写真や映像が残っていたりもする現代に近い作品です。ですから紀行は、30分の番組を作るのと同じくらいの時間をかけて資料を集めています。そこから何をご紹介するのかを厳選するので、毎回パンパンに情報が詰め込まれているんですよ。にもかかわらず、取り上げたいエピソードを映像化するための材料が足りないことも。そんな時はイラストで構成したりと変化球を使うこともあります。
特に著名人のインタビューでは、つい欲張ってしまいそうになりますが、一言一句まで削る部分を考え抜いて、90秒で伝わるように編集しているつもりです。短い番組に適した話題が何なのかを見極めることが肝心。また、毎回何があるか分からないという点では“見逃したら損”な内容になればと、同じく演出を担当している西口友人さん、プロデューサーの橋本佳子さんとともに、趣向を凝らして奮闘しています。
「たった100年ほど前の出来事なんだという身近な雰囲気は紀行でも大切にしたいポイント」
たった100年ほど前の出来事なんだという「いだてん」の身近な雰囲気は紀行でも大切にしたいポイント。はるか遠い時代ではなく、現代とつながっている分、身近に感じられますよね。それこそ祖父母、曽祖父母が生きていたころのことなので、私自身もそこを意識して、関心を持ってもらえるように考えています。
ドラマではまだ日本にスポーツという考え方がなかった時代から、初のオリンピック出場を経て、1964年の東京オリンピック招致までが描かれます。主人公たちをはじめとした多くの日本人の積み重ねがあって今があることを、紀行でも1年をかけて追いかけていきます。制作にあたっては資料映像探しのなかでの発見に、やりがいを感じますね。また、トップアスリートへのインタビューは、私にとっても刺激的な体験。例えば井上康生さん
(第1回「嘉納治五郎&井上康生」1/6放送)は、現役選手だったころには分からなかったことを40代になった今だからこそ語ってくださったと思っています。頂点を極めた人は本当に特別ですから、彼らの言葉を通して日本のスポーツの歴史を伝えていけたらいいですね。
山崎エマ
神戸生まれ。日本人の母とイギリス人の父を持ち、映画監督を目指して19歳で渡米。ニューヨーク大学映画制作学部に進学し、卒業後はHBOやCNNなどでドキュメンタリー映像制作や編集に携わる。2017年、クラウドファンディングで資金を集め、3年がかりで作った映画『モンキービジネス おさるのジョージ著者の大冒険』で注目を集める。
彼女がこれまで培ってきたドキュメンタリストとしての緻密さとセンサーがすごく生きている
家冨未央プロデューサー
「いだてん」は大河らしさも持っているけれど、やはり異色ドラマです。ですから紀行についても今までとはテイストを変えたほうが自然だろう、であればみずみずしい感性の方をディレクターに迎えたいと話していたときに知り合ったのが山崎エマさんでした。その出会いは「どこかにいだてんが!」みたいな感じでしたね(笑)。
実際、紀行を作っていくなかで彼女と話したのは、映像や音声が残されている時代を描いていくおもしろさでした。戦国時代の武将の人物像を想像していくのとは違い、すでに輪郭を与えられている人たちがどんな温度感と声色で話したのか。あるいは現代のアスリートたちが「いだてん」の登場人物のスピリッツを受け継いでいるかもしれない、などとさまざまな視点を共有していきました。
それを形にしていくうえで、彼女がこれまで培ってきたドキュメンタリストとしての緻密さとセンサーがすごく生きている気がします。毎回扱うテーマにしても、一つ一つのコアが強いんですよ。今回は紀行まで込みで次の回につないでいく形なので、エピローグではなく、番組を楽しむための知識を一段重ねていただくためのパートのような感じ。毎回すごく新鮮で新しい手法を盛り込んでくださっている。それが47回積み重なれば相当なボリュームになりますし、きっと視聴者の皆さんにもお楽しみいただけるのではないかと思います。