いだてん

IDATEN倶楽部

2019年426

「いだてん」落語の世界 vol.1

「いだてん」の落語指導を務めるのは、古今亭菊之丞さん。志ん生の孫弟子にあたる菊之丞さんが、金栗四三の物語と併走する落語パートの世界をご案内します!

希代の名人! 古今亭志ん生

古今亭菊之丞さん

「いだてん」でビートたけしさんが演じている古今亭志ん生は、神様と称される名人。その反面、こんな型破りな人はいないというほど、逸話の多い人でもあります。現代ならすぐにワイドショーのネタになっちゃうようなことばかりしているんですよ。今どき、そんなやんちゃは許されませんから、志ん生のような芸人は今後まず出てこないでしょうね。

そんな伝説の数々は、これから描かれる孝蔵の姿を通してご覧いただけますので多くは申しませんが、とにかく何をしゃべっても落語のように聞こえる希有けうな才能の持ち主だったそうです。

古今亭菊之丞さん

たとえセリフを間違えても志ん生の場合はOK! 実際に「大正から明治にかけて」なんて平気で言ってますし、普通の落語家なら「おいおいっ」と突っ込みたくなる失敗も、それが志ん生なら笑いに変わってしまうような人でした。ドラマのなかで師匠の円喬から「フラがある」と言われていましたが、普通の会話をしていても落語になってしまう、おかしみのある存在感は、演じるビートたけしさんに共通する部分かもしれません。そこが僕らにはマネのできない志ん生ワールド。たけしさんも楽しんで演じておられます。

役者と落語家

古今亭菊之丞さん

落語については、私が落語を演じている様子を動画で撮影し、それをもとに台本を作っていただいています。役者さんたちは台本を覚えて稽古にいらっしゃり、そこで私が相対してはなしを演じて見せるという形。実際の落語家と同じ稽古方法で指導を行っています。

古今亭菊之丞さん

お手本を見せたら、次は役者さんたちに噺を演じていただき、その都度直していくというスタイルです。落語では独特の言い回しが使われるので、イントネーションを直したり、上下かみしもの目線をチェックしたり、前座さんに教えるのと同じようにやっていますね。

そんななかで気づいたのですが、役者さんは一人で一役を演じるのが通常なので、落語をしゃべっていても、役が切り替わるごとにブレスする。そうすると噺が細切れになってしまいます。実は僕たち落語家は、ひとつの場面を一息で演じることが多く、だからこそテンポよく噺を聞いていただくことができるんだと、今回、落語指導をさせていただくなかで気づきました。

宮藤官九郎×落語

古今亭菊之丞さん

「いだてん」をお書きになっている宮藤官九郎さんは、落語が大好きで、さまざまな落語のシーンが頭に入っておられるそうです。ですから、ドラマのなかでもストーリーと落語がオーバーラップしたり、カット割りの妙で別の空間にいる登場人物が掛け合いをするような場面も登場します。そうした交差の部分は落語を熟知していらっしゃるからこそ。落語をご存じの方は「あそこの部分ね」と分かって見られる。そういう楽しみ方もこのドラマの魅力なのかもしれませんね。

古今亭菊之丞さん

落語を知らなくても十分楽しめるけれど、少し知識があるとなお楽しい。ドラマでよく登場する『富久』と『文七元結ぶんしちもっとい』を簡単にご紹介しますので、ドラマをご覧の方が落語にももっと興味を持っていただけるとうれしいです。

<富久>

浅草安部川町の長屋に住む幇間ほうかん(※1)の久蔵は、真面目だが酒癖が悪い。年の暮れ、一番富に当たれば千両もらえる富くじ(※2)を買い、家に戻って大神宮様の神棚に仕舞しまっていた。

その夜、久蔵が酒でしくじった旦那の店がある芝の久保町が火事に。旦那のご機嫌を取ろうと駆けつける久蔵。期待通り出入りを許された久蔵は、火事見舞い客の対応に大奮闘するが、見舞い品の酒を飲み寝入ってしまう。
夜更けになり、今度は久蔵の家がある浅草が火事に。急いで長屋に戻ると家は丸焼けになっていた。

数日後、一番くじに当たり、久蔵はお金を受け取ろうとする。しかし、当たり札を火事でなくしてしまっており諦めることに…。その帰り道、鳶頭とびがしら(※3)から、火事の際に布団と神棚を運び出しておいたと聞かされ、富くじの事情を話した久蔵。で、「何に使うんだ?」と聞く鳶頭に「へえ、これも大神宮様のおかげです。近所にお払い(おはらい)をいたします」。

※1幇間=宴席やお座敷などで自ら芸を見せ、場を盛り上げる職業
※2富くじ=現在の宝くじのようなもの
※3鳶頭=建築業で高所での作業をする専門の職人。江戸時代には火消しにもあたっていた。

文七元結ぶんしちもっとい

本所達磨だるま横町に住む左官の長兵衛。腕はいいが博打ばくちにのめりこみ、借金が五十両にもふくらんでいた。その日も開帳(※1)で一文なしになり帰宅すると、十七になる娘のお久がいないと女房が心配している。そこに、吉原・佐野槌さのづちの使いが長兵衛を呼びに来た。

駆けつけて事情を聞くと、お久は父親を改心させるため、身を売ってお金を作ろうとしたらしい。女将おかみさんはお久の孝行心に感心し、来年の大晦日おおみそかまでに返す約束で長兵衛に五十両貸すことに。それまではお客をとらずに預かるが、1日でも過ぎたら「鬼になる」というのだった。

再起を誓った長兵衛は帰り道に、本所吾妻橋から身を投げようとしている男を見つける。男は近江屋の手代・文七。掛け取り(※2)で受け取った五十両をすられ、死んでお詫びをするしかないと話す。長兵衛は迷ったあげく、娘が身売りして作った五十両だが命には代えられないと、断る文七に五十両をたたきつける。

一方、近江屋には文七が掛け取りに行った先で忘れた五十両が届けられていた。さらに戻った文七が五十両を出したので、主人も番頭も驚いて事情を聞き出す。主人は親切な人もいるものだと、翌朝、文七とともに長兵衛の元へ。五十両を返し、さらにお久を身請けして送り届ける。
のちにお久と文七は夫婦になり、元結屋の店を開いたという。「文七元結」由来の一席。

※1開帳=賭博とばくの座を開くこと
※2掛け取り=掛け売り(代金後払い)の代金を取り立てること
古今亭菊之丞
1972年、東京生まれ。91年5月、2代目古今亭圓菊(えんぎく)に入門。同年7月、前座となり菊之丞を名乗る。94年、二ツ目昇進。2003年9月、真打しんうち昇進。平成28年度 文化庁芸術祭賞 優秀賞など数々の賞を受賞。名人・古今亭志ん生の孫弟子に当たる。

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